第111話 八首筆頭

「────九尾。4本で2人を足止めしろ」


 俺は九尾を発動し、ドランとクインに放ち──残り5本の九尾は俺の周りで待機させる。


 赤闘気の副作用で本調子ではないが──やるしかない────


 王の目の前で立ち塞がる幼さを残した茶髪の名前を知らない男はおそらく────この中で1番強い。


 相対する俺達は静寂する。



 ────周りで戦闘が始まったようだ。



「鬱陶しいのぅ────っ!」


「確かに──これは少し面倒だな……」


 ドランとクインに放っている九尾に対して、ドランは大槌を異常な速度で振り回して捌き、クインも剣一本で最低限の動きで避けている。


 ギリギリ持ち堪えてる状態────決め手に欠けているな。だが、しばらくは大丈夫そうだ。



 視線を変える。


「おらぁぁぁぁっ!」


 ジョンが闘気を発動した状態で炎を拳に纏い、シバに殴りかかる。シバは獣人姿で拳を掴む。


「以前より、闘気を使いこなせておるな……死戦を乗り越えし目か……手加減無用──獣化っ────グゴォォォォォッ!」


 シバは──雄叫びを上げて熊になった。


「ジョン──負けたらお仕置きじゃ────」


 アナスタシアがジョンに向かい声をかける。もはや応援ではない。


「えぇっ?! 絶対負けられない戦いになったじゃねぇか!?」


 冷や汗を流して気合いを入れ直したジョンは炎を強化し、構え直す。



「ジョン……お気の毒に……今のお嬢のお仕置きとか悪夢やな……さぁこっちもやろか?」


 そんなジョンを見たセスは2人の男に対し──言葉を発すると同時に影を放つ。


「「ちっ」」


 2人の男も名前は知らないが八首だ──簡単には捕まらない。


「「舐めるなっ!」」


 闘気を纏い──剣を持ってセスに向かって特攻する。


「さすが八首やな〜速いな────ほいっと──」


「「なっ!?」」


 余裕の表情を浮かべる、セスの目の前で剣が止まる。


 2人の後ろから影が剣を絡め取っていた。


「ほいっ、さいなら〜っ!」


 身体強化魔法をかけた状態の拳で殴りつけて2人を吹っ飛ばす。


「セスも負けたらお仕置きね?」


「はぁ!? お嬢ちょい待ってぇなっ! ジョンだけでええやんっ! わい、異世界バージョンのお仕置きとか嫌なんやけど!?」


 ジョンの時も思ったけど────前世でどんなお仕置きされてたんだよ!? そこが凄い気になるぞ!?



「さぁ、始めましょうか?」


「──魔法を解きなさいっ!」


「嫌よ。解いたら────話すかもしれないじゃない? だったらそのまま──調きょ──いえ、お仕置きしないとね?」


 アナスタシアは動かないシャーリーに声をかける。


 今、調教って言おうとした! 言い直したけど、気迫とか物騒な事に変わりがないしっ!


「──こんなもので私は封じられないわっ!」


 シャーリーは重力場の中で体を動かし始める。


「そう──潰れなさい」


「くぅ……」


 アナスタシアはそれを許さないと言わんばかりに超絶冷たい目で更に斥力を強く発動する。


 ────怖い……ジョンとセスのビビりの意味がわかった気がする……矛先がこの先、俺に来ない事を切に願いたい。



 その様子を見て俺の目の前にいる男が声をかけてくる。


「君も苦労してるねぇ」


「あぁ、さぁ俺達も始めようか?」


「そうだね。僕は──八首筆頭のハイム。僕達が──厄災にどれだけ通用するのか試させてもらう────」


 ──見たところ、やる気満々なのは俺と関わりの無い奴らばっかり……シバは戦闘狂だけど。


 つまりは────ただ喧嘩を売られたんじゃなくて、厄災に勝った俺達──


 ──いや、俺の力を確かめるつもりか……。


「お手柔らかに────九尾行けっ────っ!?」


 3本の九尾をハイムに向かって放つが──


 ──途中で微動だに動かなくなる。


 アナスタシアと似たような力か? ──いや、圧力を受けている感じではないな。いったい何が起きている?


「むぅ、かなり強力な鎖だね……」


「恩恵か?」


「似たようなものだね。ネタばらしはしないよ?」


「だろうな……纏衣【鎖】────」


 鎖を展開し、三日月鎌鎖を片手に構える。


 赤闘気は使えない──今の俺でどこまで通用するやら……感覚的にハイムはおそらく──断罪のシオンともやり合えるぐらいは強いな。


「そうそう、病み上がりみたいだし────手加減してあげるね?」


 挑発か……しかし、今の俺の手札じゃキツい。せめて九尾が揃ってたらな……。


「それはありがたい────」


 俺は鎖をハイム付近に発生させて捕縛しにかかるが、また鎖は動かなくなる。


「君の力はこんなもんじゃないだろう? 僕は君の本気が見たい────じゃないと……ここで君の仲間は死ぬよ? 僕は──手段は選ばない────」


「きゃっ」


「────アナっ!?」


 アナスタシアに向かい氷魔法を使い──氷柱を突き刺す。


「流星っ!!!」


 斥力が弱まった隙を逃さずにシャーリーが大量矢に魔力を込めて謁見の間だというのにお構い無しに放つ。


「──九尾ぃぃぃっ!!!」


 俺は残りの5本の九尾を使い、アナスタシアと矢の間に九尾の鎖結界を展開し防御する。


 謁見の間は、もはや原型を留めておらず──瓦礫と砂埃で視界が悪くなる。


「「「「「「「シャーリーっ!」」」」」」」


 ハイム以外の八首がシャーリーを責めるように名前を呼ぶ。


 王であるサクゲンは近くにいた近衛の結界内で無事のようだ。その他にいた人達は逃げ惑っている。


 アナスタシアに向けられた攻撃も防げたが────シャーリーは次弾を放とうとしているので、九尾はそのまま待機させる。


 俺はハイムを睨みつける。


「──後悔させてやる────」


 三日月鎌鎖に闘気を込め────ハイムに斬りかかる。


「出来るといいね?」


「くっ……」


 今度は俺の体が動かなくなる。


 いったい──これは何なんだ!?


「その程度? 厄災はその程度で勝てるの? ……まだ実力を隠しているなら早くした方がいいよ?」


 ハイムはそう言い、俺に背を向け──


「「なっ!?」」


 ジョンとセスを俺と同じように動きを止める。


 その間にシバと八首の名前の知らない2人が攻撃する。


 ジョンはシバの拳による一撃をくらい、セスは全身を斬り刻まれる。


「ジョンっ、セスっ!?」


 何か手はないか──


 ────!? 黒気しかないっ! 


 今なら────発動出来るはずだ。


 俺は闘気と魔力を同時に込め始める────


 ────絶対にぶっ潰すっ!

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