第72話 いつかの記憶 〜記憶じゃない?〜

 応急手当を丈二達にしてもらい、琴音は親元に連れて行き、守れなかった旨を伝え、俺はひたすら土下座をした。


 殴られる事を覚悟した俺だが、そんな事はなく────むしろ、何もされなかった。


 殴ってくれた方が俺もまだ救われたかもしれない。罰が与えられない────それがこんなに辛いとは思わなかった。


 琴音は家出した形をとったせいで、家族から良い印象がなかったようだ。なんともそっけない対応で葬儀はしないと言われた。


 娘が目の前で死んでいる姿を目にした親の姿にはとても見えなかった。


「君が家をついでいれば、琴音は家出する事も、こんな事にならなかったな。俺の言う通りに嫁げば良かったものを」


 そう、吐き捨てるように言う父親に俺は行き場のない怒りを胸に押し込め、その場を後にする。



 俺が丈二に戻るように言われた時に戻れば────こんな事は回避出来ただろうか?


 少なくとも、死ぬ事は避けられたのだろうか?


 琴音がいなくなり、そんな事はばかり考えるようになり、放心状態で日々を過ごす事が多くなった。


 そういえば────俺を必ず殺しに来ると、奴は言っていた。


 いや、今度は俺が奴らを1人残らず────


 そう俺が決心したのは結婚式の予定日だった。


 俺は自然と自分の生まれ育った家に向かう。


 門を潜り抜けると、そこには────


「若っ! おかえりなさいませっ!」


 丈二が出迎えた。


「久しぶり……琴音を殺した奴の情報はあるか?」


「はっ、以前にここに住んでいた奴らの情報は掴んでおります! 好きに暴れてもらって結構です! 事後処理は完璧にこなしてみせますっ! 我らは若と共にっ!!!」


 情報の書かれた紙を受け取り、俺は蔵に行き────


 ────爺ちゃんの使っていた刀を手に取る。


「爺ちゃん、俺に力を────」


 そう呟き、俺は琴音を殺した奴らの所へ足を運ぶ。



 そして俺は────奴らの拠点を襲撃した。人数は15人はいただろう。


 その中に俺は1人で特攻する。数人、奇襲で斬り伏せた後は相手も銃を取り出して応戦する。


 銃撃の飛び交う中俺は精神を研ぎ澄まし、避け────そして斬る。


 自分の体の動きとは思えないぐらい自然と動く。


 殺してはいない。


『復讐なんて馬鹿な真似やめて下さいね?』


 そんな言葉が俺の胸に突き刺さる。


 これは復讐だが、俺の憂さ晴らしだ。そう言い聞かせている。


 俺は琴音を殺した奴を1人残し、死なないように滅多刺しする。


 叫び続けるが、俺には関係ない。


 琴音はもっと痛かったはずだ。


 なんせ────琴音は死んだから。


 ただ、痛いだけの傷で泣き喚いても俺は何も感じなかった。


 相手が気を失ってから俺は、その拠点から出ると────


「後の処理は我らが!」


「あぁ、頼む」


 丈二達が待機していたので、処理を任す。


 それから俺は裏社会のボスになった────


 かと言って、悪い事をしたわけじゃない。表向きは大手企業を買収し、慈善事業を中心に活躍した。


 少しでも────己の罪を軽くする為に。


 あれから食事は満足に取れていない……。


 どれだけ良い事をしても、俺は救われない。


 そこに琴音がいないから。


 俺は憔悴しきっていた。


 そして、俺はもう────死ぬ。そう思った時に丈二を呼び出す。


「すまん、俺はここまでのようだ。後はお前に全て託す。出来るだけ──皆が笑顔でいれる……そんな気持ちを忘れずに引き継いでくれると嬉しい」


「お断りしますっ! 若が逝かれるのであればお供しますっ! 後任は相応しい心優しい者を探しておきます!」


「馬鹿やろう……俺についてくる必要なんてないだろ……お前には迷惑ばかりかけた。すまない」


「若の為なら私はどこへでも行きますっ! では、後任を探してまいりますので失礼しますっ!」


 俺の部屋から退出する丈二を見送る。


「琴音……もうすぐ逝くよ……やっとだ……俺頑張ったんだ……褒めてくれるかな? でも復讐みたいな事もしたから怒られるか? でもお前に会いたい……どんな形でもいい……」


 天井を見ながら呟く、俺は意識が遠のく……。


 そして俺は目を覚ます事はなかった。




 あの後は視界が変わり、俺は自分の葬儀を見ている。


 たくさんの人達が俺の葬儀に来てくれている。これは俺が経験した事じゃないな……。


 ミアから話は聞いてはいたが、人が本当に多いな。


 皆泣いてくれている……俺のやってきた事は間違いじゃなかったのか。そう思わせてくれる。



 でも────俺の罪は消えない。


 誰か罰を────俺に罰を与えてくれ!!!


 琴音……琴音と会いたい……。


 どんな罰だって受け入れるからっ!


 俺の愛した女性を返してくれよぉ……。


 誰にも聞こえないのはわかっている。でも、俺は声に出して叫ぶ。


 俺は目の前で眠るように死んでいる自分を見ながら、頭を抱えてその場で蹲る。


 琴音はきっと俺を恨んでいるに違いない……。


 そんな思いがどんどん膨れ上がり────


 俺はこのまま壊れるかもしれない────そう思った時────



 スッ



「罰なんて必要ないですよ?」



 俺の体に後ろから抱きついてきて、声をかけてくれる。



 俺はハッとなり、何者かを振り向き確認する────


 そこには俺と同じような状態のがいた。


「────こ……とね?」


「はぁい、貴方の琴音ですよ?」


「琴音ぇぇぇぇっ!」


 俺は琴音を抱きしめる。


「正一さん……愛しています。私は恨んでません。私が選んだ道です。だから────これ以上責めないで下さい」


 ────っ!?


「本当に? 俺はもう────罰をこれ以上受けなくていいのか?」


「えぇ、正一さんが苦しむ姿は見たくありません! ありのまま生きて下さいっ! 正一さんは一生懸命な姿が1番素敵です」


 琴音の言葉、そして温もりが、俺の心を癒していく。────不安感がなくなっていく。


 救われた気がする……例え────これが記憶の世界であっても──自分が作り出した都合の良い世界であっても。


 俺は前に向いて行ける。


「ありがとう……」


「ふふふっ、────また会えたんですから、もっと嬉しそうな顔して下さいよ!」


「ははっ、でも────この試練が終われば、また会えなくなるじゃないか……もう少し……もう少しこのままで……」


「まだ、わからないんですか? ? リオンに試練に送られたのだ……」


「……はっ? ────えっ??!!」


 俺は固まる……。


 琴音が────アナスタシア!?


 本当に??


 本当にアナスタシアが琴音??


 生まれ変わっても会えてたのか!?


 涙が止めどなく流れ出す。


 俺は琴音────いや、アナスタシアの胸の中で子供のように泣きじゃくった。



 ────神様ありがとう。



 景色が変わり────周りが暗くなる。



『呼んだかのう?』



 ────!?


 俺は声のする方を見ると──


「────はぁ!? 転生の時の爺さん!?」


 それより、空気読んでくれないですかね!?


 今すっごい感動の場面なんですけど!?



『お主……相変わらず、失礼な奴じゃの……。心の中だだ漏れじゃからな? 普通は神様が現れたら喜ぶもんじゃぞ? まぁ、過去を乗り越えて────おめでとうじゃ。ほれっ! これは2人に、わしからの祝いじゃ────受け取れっ』


 淡い光が俺達を包み込む────


 淡い光が収まり、お互いの姿を見て見ると──


 ──ウエディングドレス姿の琴音、そして琴音の瞳に映った俺は正一の姿でタキシードになっていた。


 上空が光出した────


 ────上を見ると、幻想的な七彩の色合いのオーロラが現れる。


 俺とアナスタシアはお互いに驚き────そして見つめ合う。


『では────結婚式を行うぞい?』



「「えっ!?」」

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