第68話 いつかの記憶 〜月明かり〜
彼女と会ったのは確か────
────俺が疲れ果てて、帰っている時だった。
まさに今日、前世の俺は彼女と出会うはず。
「はぁ……」
溜息を吐きながら、歩く俺を側から見ると凄く情けない。
こんな風に俺って見えていたんだな。確かにこの時期は嫌な事ばかりあって、過去の嫌な事を思い出していた頃だ。
歩いてる時間は残業で遅くなり深夜だ。
俺はこの日は気分的に暗い道を選んで帰っている為、人気が全く無い。
月が雲に覆われて、月明かりもないから本当に暗い。
そこを1人歩いていると────
「────!?」
人が倒れているのを発見し、俺は走り近寄る。
あれは────彼女だ。
話したい……。
触れたい……。
この手で抱きしめたい……。
────!?
そんな俺の強い願いが届いたのか、今まで近くで幽霊みたいな傍観者だったのに、過去の俺に体が吸い寄せられ一体化する。
「大丈夫ですか!? 救急車いりますか?!」
一体化した俺は倒れている彼女を起こし、声をかける。
「大丈夫です。ちょっと貧血起こしちゃって」
反応があるから意識はしっかりしている。暗くて顔色がわからないと──思っていた記憶がある。
しかし、一体化したものの、今の俺の意思通りに体は動かない……やはり、俺の過去の行動をそのまま行っているのか……。
「顔色は────暗くてわからないですね。声はしっかりしてるみたいなんで大丈夫なんでしょうが、こんな所にいるのは危ないですよ? どこか休めて、明るい場所まで一緒に行きましょう」
俺が言ってるとはいえ……もう少しマシな言葉をかけれなかったのだろうか? これじゃぁ、なんかナンパみたいになってるな。
彼女の顔は見えないけど、明らかに筋肉が強張って警戒しているじゃないか……。
「だ、大丈夫です。もう少ししたら立てますので、お気になさらず。よっ────きゃっ」
彼女は立ち上がろうとし、バランスを崩す────俺は無意識に倒れないように体を抱き寄せ、支える。
この時の俺の気持ちは確か────やばいっ!? セクハラで警察呼ばれる!?
────だったはずだ。
「……」
俺は無言になる。
「すっ、すいませんっ! ありがとうございますっ!」
普通はお礼言われるものだと思うけど、俺は凄く病んでいたせいか、まさかお礼を言われたので、俺はビックリした記憶がある。
「ふふっ、──っと失礼。まだゆっくりしておいた方がいいですね。いつも起こるんですか? 貧血」
俺は笑みを浮かべて少し笑ったのを誤魔化し、ゆっくりするよう伝える。
「そうですね……最近は大丈夫だったのですが────!?」
彼女の視線が俺の後ろになり、言葉が途中で止まる────
「おっ、こんな暗い所にカップルがいるぞぉ?」
「これは、是非遊んで帰ってもらおうか」
「ラッキー、楽しめそうだな」
「おいっ、男は帰っていいぞ?」
チンピラ共が嬉々として俺達を囲む。
「寝言は寝て言え。彼女は体調を壊しているんだ。さっさと消えろ」
こんな時に限って絡まれ、イラッとした俺は低く冷たい声でそう言う。
「──ぐぇ」
「なにすん──がっ」
「──ごほっ」
あまり、良い発言をしていなかったので、先手必勝の暴力で、素早く3人の────こめかみ、額、鳩尾の急所を狙い、無力化する。
「力の差はわかったか? さっさとこいつら連れて消えろっ」
残りの1人を見据えて言うと、一目散に去って行った。
……俺の思い出なんだが…………。
敢えて言おう────
────なんだこの漫画みたいな展開は!?
黒歴史見させられてる感じで、俺は凄く恥ずかしいぞっ!
まさか────これが試練の目的かっ!?
何気に心のダメージがデカいぞっ!
傍観者キツい!
しかも、この出来事は────
「ありがとうございます?」
「そこは疑問形じゃない方が嬉しいかな?」
「わっ、すいません。ありがとうございました!」
「やっぱり、此処じゃ危ないんで、場所移りましょうか」
「きゃっ」
俺はお姫様抱っこをすると────可愛らしい声が聞こえた。
「すいません。さっきの奴らが仲間とか連れてきたら嫌なので────人気の多い所に行きますね?」
俺の視線を彼女に向けてそう言葉を発する。
その時────雲が動いたようで、月明かりが彼女を照らし、俺の瞳に顔が写る
月明かりに照らされた彼女はとても────
「綺麗だ」
────そう呟いた。
「えっ?」
「────!? 何でもないです。さぁ行きますよ?」
俺は誤魔化し、抱えたまま振動があまり出ないように走り出す。
この時、人の温もりを久しぶりに感じた気がした。
そして────懐かしい顔を見た今の俺も心が温まるのを感じた。
「さっき、何で笑ったんですか?」
移動中に話しかけられる。
「さっき? あぁ、体を支えた時ですか?」
「えぇ、それまで暗い感じの声だったんで……何が面白いのか気になって……すいません」
気まずそうに聞いてくる。
「謝らなくていいですよ。あれはですね──セクハラ扱いされて警察呼ばれると思ったのに、お礼言われたからですね」
俺は正直にその時の気持ちを伝える。
「えぇ!? 助けて貰ったのに何で警察なんて呼ぶんですか!?」
普通は呼ばないと思うんだけど、この時期は凄いネガティブな状態だった。
「暗い夜道で声をかけてる時点で十分怪しいと思いますよ?」
それらしい理由を取って付けて言う。
「確かに!」
「ふふふっ」
その取って付けた理由に彼女は笑顔で返事し、それがおかしくて、自然に笑っていた。
「まだ表情は暗いですが────とても優しい顔をしてますね?」
「──!?」
「何か嫌な事でもあったんですか?」
この時の彼女の目は、爺ちゃんのように──俺の心を見透かしているよう感じがした。
この時────これ以上、心に踏み込まれるのが怖いと思った。人を受け入れる事がとてつもなく怖かったんだ。
だから、それに答える事はせず。
「────さぁ、着きましたよ? ここなら人気もあるし、タクシー乗り場も目の前です。私は行きますね……気を付けて」
最寄りの駅の近くのベンチに下ろし────
「あっ、ちょっ────」
────彼女の呼び止めに応えず、そのまま走り去った。
俺ヘタレ過ぎるだろ!
再度、体験して心の中でそう思った……。
ただ、久しぶりに見れた彼女は────
────月明かりであまりに白く柔らかく見えた。
ヘタレ過ぎた自分を再確認した次の日。
俺は心の中で頭を抱えていた。実際には頭を抱えたい気分だと言った方がいいだろう……体は記憶の通りにしか動かない。
次の日は久しぶりの休みだったので、住んでいるアパートでゆっくりしている。
もうすぐだ────
ピンポーン
彼女が来た。
ガチャ
俺はドアを開ける。
「えーっと、昨日の子かな?」
「はいっ! 昨日はありがとうございましたっ! 無事に帰れましたっ! そのー、これ落としてたので届けに来ましたっ!」
凄くテンションが高いのが印象に残っている。
「へっ? 財布? そういえばなかったな……ありがとう」
この時の俺は急いで帰ったせいで財布を彼女の所に落としたからだと思ったんだが────来た理由は
俺は財布を受け取り、頭をかきながらお礼を告げる。
「昨日助けてくれたお礼に、ご飯ご馳走しますよ? さぁ外の世界に羽ばたきましょう」
「いえ、お断りします」
昨日会ったばかりの人と、どこかに行く気はない当時の俺は断る。
今の俺なら絶対断らない。このヘタレ! まぁ俺なんだけど。
普通ならここで相手は引き下がるんだけど────彼女は違った。
「来ないと、叫びますよ? 襲われる〜って!」
「────!? 待てっ! わかった行くからやめろ!」
そう、彼女は太陽のような眩しい笑顔で脅してきたんだ。この時は清楚な顔に似合わず、酷い事する女という認識だった。
「ふふふ、叫ばないですよ。嘘ですよ。さぁ言質はとったので行きましょう」
「はぁ……どこ行くんですか?」
「とりあえず、外歩きながら店探しましょう。地元じゃないんでわからないです」
「はぁ……」
俺は二度目の溜息を吐き、とりあえず外に出る。
そして歩いている途中に彼女から話し掛けられる。
「自己紹介しましょう。貴方は織田正一さんですね? 免許証見たからとかじゃないですよ? 元から知ってるんです。私は貴女の
「はぁ?!」
この時────確かに当時の俺は時が止まった。
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