第62話 解放する

 サクゲンさん達との食事は済み、今は部屋を借りてシャーリーさんとフローラの3人でティータイムをしている。


 紅茶を入れてくれるシャーリーさんの姿は優雅に見える。どこかのお嬢様と言われても信じてしまうだろう。


「さてと、どこから話しましょうか? アナスタシアの解放の話? それとも過去の話にする?」


 紅茶を出し、俺に話しかけてくるシャーリーさん。


「両方とも気になりますが──とりあえずは解放の話をお願いします」


 過去話も凄い気になるが、ここは解放の話だろう。なんとか、あそこから解放してやりたい。


「わかったわ。答えは簡単よ。レオン君があそこに行って、アナスタシアと試練をクリアしたらそれで解放出来るわ」


「確かアナから勇者に封印されたと聞いたんですが? 試練クリアとどう関係あるんですか?」


 なぜ試練クリアとアナの解放が関係しているのかわからない。封印という事はあの場所に縛られているという事じゃないのか?


「勇者に封印されたのは事実よ。八岐大蛇を封印する際に試練の洞窟が1番都合が良かっただけよ。勇者、東城姫杏とうじょうしあんの恩恵【連結】と【封印】を合わせて使う事によって、アナスタシアをあそこに留めたの────その殺気抑えてくれないかしら? 話が続けられないわ」


「…………」


 俺はアナが生贄にされた事実に怒りが込み上げるが、話を聞くために抑える。


「そう、それでいいのよ。続けるわね。アナスタシアは恩恵【固定】を持っているの。それが封印を長期間封印する事が可能だとわかり、国々はそれを採用……そして、姫杏はなんとか親友であるアナスタシアを生かしたいが為にと試練の洞窟とアナスタシアを連結したわ。その結果──アナスタシアは死ぬ事なく、不死王になったわ。けど、姫杏は抜け道をちゃんと残したの。試練をクリアする事によって自由になるように……そしてレオン君には試練に挑戦して超えられる可能性があるわ。簡単な説明だけど、何がどうなってとか詳しい事は私にはわからないわ。ただ知ってる事を伝えただけよ。もし解放に成功したらアナスタシアにも八岐大蛇を協力してもらうわ。。八岐大蛇は必ず────


 ────!?


 最後の台詞にただならぬ覚悟を感じ、目を見開いた後、俺は再度目を瞑る。


 頭の中で様々な思考が巡る。


 不死王になったのは死なせたくなかったから? 結果的にそうなるようになっていた? じゃぁ……どうやって?


 恩恵は合わせて使う事が出来る? しかも人の恩恵も利用出来るのか? 俺にも可能なのか?


 連結という言葉から繋がる事が出来る恩恵なのだろう。とやらがわからないが、試練の洞窟が繋がった事によって、クリアを条件に己の束縛は避けられるようになった?


 疑問は色々と残るが、知らないと言われたら仕方ない……。


 解放する為に試練を乗り越える必要はあるが、可能性は0じゃない。


 八岐大蛇をとシャーリーさんは言った……この時の目は真剣そのものだった。何かあるのだろうか?


 どれぐらい時間が経ったのかわからないが、目を開けるとシャーリーさんは目の前からいなくなっていた。


 アナの過去話聞けなかったな……。


 横を向くとフローラと目が合う。


「どうするの?」


 フローラから声がかかる。


「当然やる事は一つだ……必ず解放する。俺はアナを助けに行くよ」


 俺ははっきりとフローラに告げる。


 最後のシャーリーさんの台詞に少し引っかかる感じがしたが、行かないという選択肢などない。


 やらなければ──きっと後悔する……そんな気がした。


 俺が思ってるだけかもしれないけど、アナは寂しがり屋だ。


 普段は達観した素振りを見せているが、時折俺に見せる表情は切なさを感じさせていた。


 あの顔を────笑顔にしてやりたい。


 前世で恋人だった人と色々と被る所もあるからだろうか? 


 早く会いたいな……。


 そんな事を思う俺もきっと根本は寂しがり屋なのだろうか? だからこその鎖魔法か……。


 でも俺を想ってくれている人達ががいるのがわかっていると、どんな苦難が待ち受けていても頑張れる気がする。


 俺は扉を開け、フローラと共に外に出ると人がいた。


 またシバか!? と思ったが────


「おっ、出てきたなっ」


 待ち受けていたのはシバではなく、バランだった。


「何でいるんですか?」


「もちろん待っておったのじゃが?」


 この変態に待たれる覚えはないのだが……。


「それで何の用ですか?」


 とりあえず聞く事にした。


「なぁに、用って程のほんじゃないわい。ほれっ」


「──っと。……これは?」


 バランから何か投げられ、それを俺はキャッチし、尋ねる。


「これから共に戦う仲間に餞別じゃのぉ。わしは見ての通り、物作りのプロであるドワーフじゃ。童……いや、レオンじゃったな。それは必ず必要になるはずじゃ……」


「……そうか、ありがとう」


 俺が礼を告げると。


 遠い目をしたバランは俺の横を通り過ぎ、こちらを振り向かず手を上げて去っていった。


 ……バランってただの変態じゃなかったんだな……。


 後ろ姿が少し格好良いなと思った……。


「ドワーフのおっちゃん、これの使い方教えずに行ったね!?」


 ────確かに!? この渡されたの使い方を教えてもらってない事に今更ながら気が付いた俺はその場で苦笑した。





 ◆◇◆◇◆




 次の日、俺はアナのいる試練の洞窟までやってきた。


 もちろんフローラに送ってもらっている。


「フローラ、ありがとう。あっちで待っておいてくれ。俺はアナを解放したら帰る。正直どれぐらいかかるかわからないが──頼む」


「わかったー、無理したらダメよぉ〜」


 彼女にはヤマト国で待機してもらうよう伝えると、そのまま転移した。


 ちなみにミア、アリス、ミーラ、アイリス達も各々の修行があったり、やる事があるだろうと思い、アナの所に行くとだけ伝えている。


 後はフローラがなんとかしてくれる事を祈ろう。


 そして、俺は試練の洞窟に足を踏み入れると────そこにいたのはアナだった。


「久しぶり」


「……どうしたのだ?」


「もちろん会いに来たんだけど?」


「妾も会えて嬉しいが────シャーリーに唆されたのだろう?」


「……」


 急に雰囲気が変わる────まるで覚悟を決めるような顔をしたアナは俺を睨み付ける。


 シャーリーさんが、伝えたって言ってたが────とても協力的じゃないし、解放を願っている雰囲気でもなさそうだ。


「なんとか言わんか!」


「……2人でクリアして此処から出よう!」


「ダメっ!」


 ──炎弾が俺を襲う


「──っ、何故?!」


 俺は右手から出した鎖を振り、炎弾を消し飛ばす。


「此処にはもう────二度と来ないで……さようなら……」


 アナは涙ぐみそうになり、唇を噛みしめ、俺を見つめる────

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