第57話 安らかに──
断罪の十傑との死闘の後はヤマトに戻り、アイリス達と合流した。
ハクマはかなり重症で、ある程度回復したら自分で家に帰って休むと言って自分で帰った。
早く治るといいんだが……。
アイリスも10歳になっていて、昔の面影を少し残しつつ、母さんに似てきているような気がする。
可愛くて可愛くて抱きしめたんだよ。
そしたら……。
「お兄ちゃん臭いっ!!!」
って言われてボディブローくらいました。戦闘後だったから汗と血の臭いのせいだ。
子供のパンチだと軽く見て受けたんだけど……思いの外、力が強くて数m吹っ飛ばされた。明らかに10歳の子供の力じゃない!
まぁ体は直ぐに治ったからそんなに痛くなかったんだけど……心の方がグサグサと刺さって凄く痛かった……。
追い討ちをかけるように事情を知らない人が衛兵さんを呼んで誘拐犯扱いされて、更に凹んだのは言うまでもないだろう。
お陰様で全員でカツ丼を
シバとかずっと笑って、助ける気配ないし、シャーリーさんはいないしで出るのに時間がかかったよ。
前に世話になった衛兵さんが来てなんとか出してもらえたのが救いだった。
その後は宿で疲れた体を休めた感じかな。
ミーラやフローラの紹介をしたら、後はあっという間に皆仲良くなっていた。男にはわからない世界だ。
ちなみにミアの目は治っていない。アナスタシアの秘薬は永続効果っぽい。やはりヤバい薬だったと再認識した。
そして、活性化を使うと見えるらしい。ただ、魔力を尋常じゃないぐらい消費するらしいから常時使うのは制御するのに精神的に疲れると言って俺が手を引いて誘導してあげている。
そうしているとミアは心底嬉しそうにするから俺の心も癒される。本人はこのままで良いと言うが治せるなら治したい。
ちなみに、その姿を見たアリスも負けじと俺の背後をとって抱き付いてくる事が多い。
そして、現在は────
アナのいる試練の洞窟の入り口に俺、アイリス、ミア、アリス、ミーラ、フローラのメンバーで来ている。
来る事にしたのは、アナに会う事とミアの目について聞く事、母さんのお墓を作ってあげるという理由だ。
どうやって着いたかと言うと────フローラに頼んで、前に十傑と戦った場所に転移してもらい。俺が高速でアナのいる試練の洞窟の近くまで来た後に再度転移を使ってもらい皆で来ている。
途中、俺が育った開拓村があったが、誰もいなかった。まぁ正直どうでもいい。
それより転移便利だな、覚えたい……。
洞窟に入ると、リザードマンの群れが俺達に襲いかかるが────
これぐらいは、もう脅威にすらならないぐらい俺達は強くなっているので、瞬殺する。
ミノタウロスこと、ミノさんもお肉になった。
以前住んでいたエリアまで来た俺はアナを呼ぶ。
「アナ〜〜っ!!! あれ? いない?」
「ここだのう」
俺の耳元から声が聞こえてきたので振り返る────
「おわっ!? ってなんで骸骨!?」
「ドッキリだのう」
心臓に悪いからやめてくれませんかね!?
「久しぶり……待たせてごめん、ただいま」
「うむうむ、よく帰って来たの! 我も久しぶりでお腹の下辺りが熱くなっておるぞ? 今夜はヤルぞっ! 祭りじゃ!!!」
一瞬で美女の姿になるアナ。
声がデケェよ! アイリスいるんだからもっと言葉選べよっ!
「お兄ちゃん、早くアナお姉ちゃん抱いてあげてね?」
まさかの妹からの援護攻撃をくらう……。いったいどういう事だ!? 純粋無垢なアイリスはいなくなったのか!?
俺は驚愕な表情を浮かべていたのだろう。アリスから事情を話される。
「ここで、住んでる時にアナさんがね……レオンに早く抱いてほしいって毎日言ってたから……それが気になったみたいでアイリスちゃんがアナさんに色々聞いてね?」
おぉぉぉいっ! アナっ! なんて事してんだよ!? まさか妹から早くヤレとか言われる日が来るとは思ってなかったぞ!?
とりあえず棚上げだ……。
しばらく弄られたりしたが、本題を切り出す事にした。
「アナ、ミアの目は治るのか?」
「エリクサー使えば治るかのぉ。ちなみに此処にはもうないのぉ。昔レオンにやった奴が最後だのう」
「どこにある?」
「ダンジョンだの。あんなもん作れる奴おらんと思うぞ? 材料がまずとれんからのぉ」
此処でダンジョンと来たか。いつかは行く予定だったし、全然構わないんだが……どこにあるんだ?
「ダンジョンってどこにあるんだ?」
「昔と違って地理が変わってる可能性もあるからわからんの。昔はダンジョン都市があったはず────今もあるなら北にあるはずだの」
なるほど、今と違うかもしれない可能性もあるのか……場所を把握してから向かう事にするか。今後の予定を考えるために思考しているとミアから話しかけられる。
「レオン?」
「どうしたミア? ちゃんとエリクサー手に入れるからなっ!」
「エリクサーの事じゃなくて……」
「────ミア?」
ミアは活性化を使ったのだろう。目を開き俺を見る。
どうしたんだ??
「前に入口の近くにレオンのお母さんのお墓作ったんだ……もうすぐ夕方だし、暗くなる前に今から案内するね?」
「そうか、ありがとうな。頼むよ」
真剣な目で俺を見てお墓の場所に案内すると言うミアに返事をする。
皆は色々と話をして盛り上がっていたので、とりあえず俺とミアの2人で行く事にした。
洞窟を出て歩くと────そこには、たぶん石を積んでお墓を作ったであろう場所があった。
崩れた石、破壊された木々────戦闘がここであった事がわかる。
「レオン……ごめんね。私がここで襲われてしまった時に壊されたの……」
涙を流し、俺に謝罪するミア。
「気にするな。墓はまた作ればいい。ここに母さんが眠ってるのか?」
「うん、丁度この辺りだと思う」
ミアは母さんが眠っているであろう場所で手を胸に当て跪く。
「そうか……よっと!」
俺はいつか母さんの墓を作るためにと無限収納にしまっていた岩を出す。
「アリスっ! いるんだろ? 十字架にしてくれないか?」
ちなみにアナ以外はここにいる。ついてきたのだろう。
「ありゃ、バレてた? 了解っ! ────ふっ!!!」
そして、それをアリスが岩に斬りかかり、十字架を作る。
「さぁ、祈ろう。アナはいないけど、きっと洞窟の中で祈ってくれてるはずだ。」
「レオン……」
「ミア、俺は久しぶりに母さんの所に来れて嬉しいんだぞ? 辛気臭い顔するな。ほらっ、母さんを弔おうぜ? ミアが悲しい顔してたら母さんも安心出来ないだろ?」
「うんっ! ────植物よ……」
ミアの掛け声と共に十字架に蔓が巻き付いていく────そして、青々しい草木の十字架になる。所々に花が付いており、とても可愛らしい感じに仕上がっている。
「アイリスちゃん……はいこれ……つけてあげて?」
ミアはアイリスに花冠を渡す。
「────えっ!? いいの? お兄ちゃんじゃなくて?」
「こういうのは娘にやってもらうのが1番嬉しいもんなんだよ。少なくとも俺は娘がいたらしてほしいなぁ」
アイリスが不安そうに俺を見たので適当に理由をつけて任す事にする。決して恥ずかしいからではない。
「わかったっ!」
アイリスは十字架に花冠をかけに進むと────ミアが言葉を紡ぐ────
「我が子を命懸けで守った偉大なる母である、マリに哀悼の意を込め────偉大なる精霊より祝福を────(力を貸して頂戴……いるんでしょ?)」
(よくわかったね……特別に今回は力を貸してあげるよ。この大精霊がねっ!)
「(ありがとう)────緑花繚乱っ!」
ミアが何かと話しているっぽいが姿は見えない。
────!?
緑花繚乱の言葉と共に巨大な魔力がミアから放出される────
次の瞬間に十字架の周りを包み込み、守るように大樹が顕現する。
そして色とりどりの花が咲き乱れ、花弁が散り、花吹雪のように舞う。
「〜〜♪〜〜♫〜♩〜〜」
────フローラの歌が聞こえてくる──目を瞑り綺麗なメロディで哀悼歌をゼドの時のように歌ってくれる。
────ありがとう。
「「「わぁぁぁぁぁっ、凄いっ」」」
アイリスは花冠を十字架にかける。
メロディと共に花弁は更に綺麗に踊るように舞う。まるで母さんの為に自然が祝福しているように。
俺は黙祷する。
皆を守れるように強くなる────
色々な想いを込めて祈る。
俺は目を開け呟く。
「育ててくれてありがとう。いつか────また必ず皆で此処に来るよ母さん」
「さぁ、皆アナの所に戻ろうか……」
俺は一雫の涙が頬を伝うが、それを隠すように背を向けて歩き出そうとすると。
「レオン、疲れて歩けないから抱っこしてほしいなぁ」
「ミアばっかずるいっ! たまには私がお姫様抱っこしてもらう〜!」
「なら僕は隣にくっつくっ!」
「私は頭の上〜」
「お兄ちゃん、手を繋ごう?」
ミア、アリス、ミーラ、フローラ、アイリスの順で俺に気を使い、話しかけてきてくれる。
皆優しいな……。
「皆ありがとうな……」
皆にお礼を告げると────
「早く帰ってこんかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 我1人寂しいではないかぁぁぁぁぁ!!!」
洞窟から聞こえてきた、アナの大声に俺達は苦笑し、洞窟に向かって一緒に歩き出すが、俺は立ち止まり────
最後に振り向いて大樹を見上げ言う。
「大樹と共に──安らかに母さん……」
後に残ったのは大樹が踊るように揺れ、花弁が舞う。まるで母さんが見守ってくれているような……そんな余韻に俺は浸った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます