第49話 断罪

「待たせたな」


 俺はミアと話している間待っていた敵に一言告げる。


「別にかまわん。今生の別れは済んだか?」


 俺が来てから終始無言だった男が口を開く。他は喋る気配がない。


 こいつがリーダーか?

 見た目は金髪の優男だ。年は俺より少し上ぐらいか?


「笑わせてくれる。お前ら聖王国の精鋭で断罪の十傑って聞いてるぞ? 女子供相手に手間取ってる連中が俺に勝てると思ってるのか?」


 そう、こいつらは精鋭だ。間違いなく死闘になる事は予想出来る。俺は魔力を込めながら挑発する。


「……舐められた物だな。ここからは私が相手をしよう。お前らは手を出すな。────我が名はシオン……【断罪】のシオン────君は名乗らなくていい……どうせ直ぐに死ぬ」


 他の4人に手出しをさせないように告げ、俺に向かい大きめの声で名乗るシオンは有無を言わせぬ覇気があった。


 ────断罪か……。


「お前がリーダーだな?」


「まさしく、私が断罪の十傑の長だ。この任務は必ず成功せねばならん故に私も出陣している。────さぁ、これより断罪を開始するっ!」


 長って事は……1番強いはず。まさか最高戦力が出て来ているとは……だが──


 ──やる事に変わりはない。


 俺はいつでも迎撃出来る様に身体強化魔法を最大まで魔力を込め終わっている。


 右手に蛇腹鎖を、左手に八岐の舞を発動すると同時にシオンは剣を構え────


 凄まじい速度で距離を詰めて来た。



 速っ! 微かに見える剣筋────これは逆袈裟斬り!?


 同じ剣の間合いだ。受け切れると判断し、蛇腹鎖と剣を重ね、攻撃を止めようとするが────


「なっ!?」


 止めるどころか、そのまま拮抗すらせずに吹き飛ばされる。これが断罪……。


 俺はただ、吹き飛ばされるだけでなく、八岐の舞で相手の追撃をさせないように8本の鎖を自在に動かし牽制し追撃させないようにする。


 しかし、なんつー馬鹿力だ! しかも相手は魔力を使った形跡もない……つまり身体強化すらしていないし、シバみたいなオーラも出ていない。素の力だけでこれだけの馬鹿げた威力という事になる。


 危なげなく地面に着地し、直ぐに接近戦では不利だと悟った俺は【八岐の舞】を鞭のように乱打し、中距離戦重視に切り替える。


 8本の鎖を強靭にし、より精密で全力で動かした鎖は目で捉えることは難しい。


 しかし、相手に当たる瞬間に俺は信じられない光景を目にする。


 シオンは弾いたり、叩き落とすのではなく、片っ端から切断していた。


 俺の鎖は切断されても、直ぐに元の長さに戻すので、攻撃は止まらないが……以前より更に強力になっているこの鎖を切断出来る事に戦慄を覚える。


 俺は【蛇腹鎖】を一旦しまい────


 ────【穿通鎖】を胸に向けて放つ────


 線の攻撃に慣れた頃に放たれる点による攻撃は並大抵では避けれないはず。


「────っ!」


 シオンはその攻撃にも半身にして対応する────


 ────が俺はその瞬間を見計らい、シオンの周囲に鎖を一瞬で展開し捕縛しにかかる。


 シオンは八岐の舞の応酬と穿通鎖による奇襲により、避ける事は出来ず────そのまま鎖に閉じ込められる。


「潰れろっ!!!」


 俺は手を握る。


【圧壊】


 グジャッ


 鎖は急激に締め付ける。


 地竜をもミンチにするこの技なら────



 ────!?


 おかしい……締め付けてはいるが、血が出たり、ミンチになって潰れている様子がない。



「……無駄だ」


 鎖の中から、そう聞こえた瞬間────


 鎖は粉粉になり、その衝撃波が周辺に放たれる。


 いったいどうなってやがる!?


「行くぞ────」


 先程より更に速くなったシオンが俺に迫ってきた。


 鎖で牽制するも軽々と躱され、接近する。


「まだだっ!」


 俺は8本の鎖をシオン目掛けて放出し────接触する前に【爆鎖】を発動する。


 スドォォォォォォォンッ


「はぁ……はぁ……キツいな……」


 俺は直ぐにバックステップで下がり呟く。目の前は爆発によって視界が不明瞭になっている。


 ────!?


 目の前に剣が迫る。


 俺はなんとか袈裟斬りに来た剣をなんとか躱す事に成功するが、浅く斬られる。


 再度、距離を取るために右手から鎖を出し、近くにある木に巻き付け離脱する用意をし、シオンには左手の八岐の舞に風魔法を付与し、【風鎖陣】を発動する。


 風鎖陣は鎖がしなる度に風の刃が出、更に鎖による波状攻撃を行い、逃げ場を塞ぎ囲む。


 この隙に俺は鎖を巻き付けた木に移動する。


 シオンに向けて放っている攻撃の手は緩めていない。


 鎖による音速の攻撃が振るわれる度に、幾多の風刃と鞭鎖が襲いかかる。


 シオンには逃げ場はない。


 この数にはシオンも流石に捌き切れなくなり、所々傷が出来始めていた。


 ふと────俺の視界にシオンの仲間達が目に入る。


 この4人はシオンの心配どころか、全く動じている様子はなかった。


 むしろ、この程度どうにでもなるみたいな……そんな余裕の表情だ。


 ────こいつらは今はどうでもいい、シオンの方に意識を集中しなければ────


 ────なにっ!?


「【殺界】」


 その言葉が発された瞬間、鎖はおろか、シオンを中心に数m程の結界が出来た様に周りにある全ての物が吹き飛ぶ。


 なんだあれは!?


 俺は再度、風鎖陣を放つが────攻撃がシオンに近付くと消し飛ぶ。


 ────まるで、自分の領域内に入る物全て拒絶する様な技だな……。


 俺はこれ以上は無意味だと思い、攻撃を止めると────


 ────静寂がその場を支配した。


 此処にいる敵味方問わず羨望、驚愕、嫉妬などの入り混じった表情をするが、全員共通して口を閉じ、誰も話そうとしなかった。

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