第48話 代償
────許さない。
俺は拳を強く握った為、血が手から滴り落ちる。
アイリスの手元にはハクマとアリスが抱き抱えられている。
ハクマの傷は血の流れ具合から命の危険があるとわかる。その表情にいつものような陽気な感じは見受けられない。
アリスも意識がないようで心配だ。
そして──
その元凶であろう者達に視線を向けると、そいつらはミアがいるであろう
俺の────
────大事な者達に手を出すなっ!!!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
俺は全力で鎖を四方八方にあらゆる場所に出す。
精密な動作が出来るのが16本までたが、出そうと思えばそれ以上の鎖を出す事も可能だ。
それに今ならある程度制御も出来るだろう。
心は怒りで満ちているが、このまま怒りに任せると絶対に判断ミスで後悔する。
まず、緊急度が高いアリス達の保護を優先し、敵を牽制しつつミアを守らなければならない。
俺はアイリス達に鎖を巻き付け、【癒しの鎖】を発動する。
「────お兄ちゃん……? お兄ちゃんっ! アリスお姉ちゃんとハクちゃんが!」
「わかってる。ジッとしてるんだぞ……」
その間に敵に対しても鎖を鞭のようにしならせ、波状攻撃する。複数のため、制御が甘いが牽制ならこれで十分だ。
「ちっ」
「鎖ですの!?」
「無駄だ」
「……」
「ぐはっ」
上半身裸の男は素手で捌き切り、女は結界を張る。大柄の男の周囲は鎖の動きが鈍くなり避けられ、無言の男は剣でひたすら叩き落とす。最後の血だらけの男は弱っているのか普通に攻撃を受けまくっていた。
【癒しの鎖】により、ハクマの傷が回復していき、アリスも顔色が良くなる。
……良かった手遅れではない。再会を喜びたい所だが状況がそれを許さない。
「レー君速いよー。僕が遅れるなんて信じられないよぉ」
ミーラも到着した。
「ミーラ、悪いがあそこにいる妹達を守ってくれないか?」
「────わかったよ!」
到着したばかりではあるが、状況を把握したミーラは了承してくれた。
後は────
ミアの前にいる敵を蹴散らす!
アリス達も回復し、大丈夫だと判断した俺は、全ての鎖を攻撃に使う。
鎖鞭の嵐だ。
敵からミアを遠ざける様に攻撃する。
鎖を操る限界を超えているのだろう……頭がガンガンするが、関係ない。超回復により問題なく行動が続けられる。
それに痛みなんてどうでもいい────今はこいつらをミアから引き離す事が最優先だ!
しばらくすると、ミアから一旦敵が離れたので、発動を止めて、ミアに近寄る。
「ミアっ! 俺だっ! 助けに来たぞ!」
「……レ……オン……?」
正座で座っているミアは俺の声に反応し、目を瞑ったまま顔を上げる。
「そうだっ! 無事か!?」
「ごめんね……皆に迷惑ばっかりかけてる……ハクちゃんもアリスにも……。皆を連れて逃げて。私は足止めするから……」
「馬鹿野郎っ! 逃げるなら絶対に全員でだ! 俺はもう誰も失わないっ!」
「────んっ」
鎖でやんわり引き寄せ、抱き抱える。
額を当てた状態で俺は言う。
「置いていかない……手放したりしない。俺はお前らの為に生きるんだ。迷惑なんていくらでもかけたらいい! それで見捨てるなんて事は絶対にないっ! ……まぁ、小言ぐらいは言うかもしれないけどな?」
「────うんっ! 小言は言うんだね?」
「そりゃそうだ。何度も同じ事あればな? まぁ、それでも俺は守るさ」
「ありがとう……」
俺の胸に頭を埋めるミアの頭を愛おしく撫でる。
ふと……視界の中に見覚えのある瓶が見えた──
あれは────アナスタシアの秘薬の入っていた瓶。
「ミア……必ず……治すからな……」
「……やっぱり……わかる?」
「あぁ、見えないんだろ?」
「うん……全然見えないんだ……皆に迷惑かけた天罰だね」
「ったく……またそんな事を……アナに治し方を聞きに行って必ず治す」
そもそも、ミアが一帯を森に変えるぐらいの力を使える事がおかしかった。
アナスタシアの秘薬は確か、大気中にある魔力を体に吸収し、無尽蔵に使う事が出来る秘薬。
ただ────代償が必要だ。その代償は、五感のどれか一つを失うという呪いみたいなアイテムだったはずだ。
こんな危険な薬よく渡したな……まぁミア達が逃げる為に必要だと判断して渡したのだろうが……。
そういや俺の時は何の説明もなく渡されたな……。
ミアは知った上でアリス達を守る為に己を犠牲にして秘薬を飲んだのだろう。
「お前は優しいな。アイリス達を守ってくれてありがとうな」
「ふふっ、どうしたの? 私は私のために決断したんだよ? お礼なんていらないよ。それに私はレオンの声を聞けて今はと〜〜っても! 嬉しいよ! これからも一緒にいてくれるんでしょ?」
「もちろんだ。その前に……敵を殲滅してくるよ。皆を傷付けた奴らには後悔してもらう。特にミアの目の代償は必ず払ってもらうよ。──だから安心して休んでくれ」
「うん……」
ミアは返事と共に俺に体を預けて気を失う。
限界だったのだろう。
そっと、そのままアリス達のいる場所に寝かせる。
「ミーラ……頼んだぞ」
「わかったよ! レー君……怒ってる??」
「あぁ……────かなりな」
「そっかぁ、ならちゃんと発散しなくちゃね!」
俺は苦笑して返す。そして次にアイリスに声をかける。
「アイリス……久しぶりだな。お兄ちゃんはこれから悪い奴らをぶっ飛ばして来るから。ここで大人しくしてるんだぞ?」
「うん……お兄ちゃん……負けないでね!」
「当たり前だっ! お兄ちゃんはお前らを守る為ならなんだって出来るからなっ!」
俺は笑顔でそう言った後、振り返り────言葉を発する。
「待たせたな」
ミアの代償はお前らで払って貰うぞっ!
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