第159話 ユシアの鎧、納期遅延



王都、




オノノンは、依頼した鎧作製の進捗を確認するために、アーマの工房の戸を叩く。



「・・・ああ、オノノンか」



アーマは、ふらつきながら工房のテーブルに寄りかかる。

顔面はやつれ、疲労困憊に見える。


「体調不良か?」



「・・・いや、問題ない」



・・・まぁ、何徹したか数えていないくらい『寝ていない』かな?




・・・は?




オノノンは驚く。


「正直さ・・・お前から受けたこの仕事・・・『楽しくて楽しくて楽しくて』、寝ても全然寝付けないんだ」


今まで受けてたナカヌキ商会のピンハーネの仕事・・・・


コストコストコスト原価低減コストコスト納期コスト・・・


で、最終的に「ちょっとクオリティ低いんじゃないですか(苦笑」だと・・・


ふざけるな!と叫びたくなる。




それに比べ、お前の仕事は、どうだ?

資金は潤沢だし、自分のリソースと技術をありったけ注ぎ込める。試したかった技術、あれもこれもそれも、


あぁーーーーたまらない!!


他の鎧鍛冶師達にその話をしたら、また、凄いアイデアが出てくるわ出てくるわ



「はぁはぁ、俺、昂り過ぎて!・・・どうにか、なりそうなんだ」



(・・・)

オノノン、少し引く。




「あの、少し良いですか?」


アーマの工房の新人らしき、若い男が後ろから声をかける。

熱心に鎧の改良について提案する彼・・・アーマは険しい顔でその話を聞く。

オノノンはそれを心配そうに見守る。アーマは「職人は経験」だと思っている口で若手には厳しかったはず・・・



さ・・

さ・・・


さ?



・・・最高かよぉお!!



「さぁ今すぐ実証試験だ!史上最高の鎧を作り上げるぞ!!」



「・・・すまん、更に『納期が遅れる』が、待っていてくれ、オノノン」


アーマは、そう言い残し、ハイテンションで工房へ走っていく。


「・・・くぅ」


言いたい文句をオノノンは飲み込む。オノノンだって鍛冶師だ。今のアーマに水を差す言葉なんてかけられるはずがない。



アーマの設計図に描かれた鎧の名前は



『見えない鎧』



凄い鎧になる、予定である。




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