第129話 契約の握手



戦争はお金になる。




国防の事となれば、その実用性に関わらず、国家の財布の紐は緩むし、国家機密という体でその出費の詳細さえも隠す事ができる。


一番大切なのは、誰に味方するかという点だ。


勝っている方を贔屓に、負けている方を徹底的に追い込む、たとえ、そいつがどれだけ悪逆非道な戦術を用いていようが些事、戦争は勝っている方が自由に印象操作をおこなえるのだから・・・



「さて、魔王様・・・商売の話をしても宜しいでしょうか?」



魔王様がもうすぐ『王都に侵攻なさる事』は我が商会の情報網から察しております。



「ほう、耳が早い」



「王都への侵攻、我商会が情報面や食料面でバックアップ致します、ですので、その見返りに・・・」



王都制圧の後は、我が商会に、魔王様への献上品の数々を納品する業務を一手に任せてはもらえませんでしょうか?



「一言で言えば、『貨幣による奴隷の管理』でしょうか・・・魔王様の作る新しい世界に、この私めが、お役に立ちましょう」




ピンハーネは、にこりと上品に笑う。




・・・




十天衆の一人ジュモは、こっそりと会話を聞いていた。



少し目の前に居るのが、あの魔王だというから驚きだ。


ジュモ自身、ピンハーネがどれだけの極悪人かよく知っているが、現状、奴を罪に問える法律は無いし、証人だっていくらでも買収し、改ざんできる立場に居る。


だが、ジュモは、ピンハーネの仕事を受けている。魔王が滅んでから、お金こそが人を支配する摂理となって200年、豪商ピンハーネの財力は、もはや、支配者に近いからだ。


今回の、ピンハーネが新たに見つけた稼ぎ口、イカれた方法だが、上手くいけば、そのメリットは計り知れない。



(どちらも極悪人だが・・・案外、世界を支配するのは『こういう奴ら』なのかもしれないね・・・)



ジュモは、じっとその交渉の行末を見守る。




パチパチ・・・



乾いた拍手の音が、講堂を木霊する。魔王が手を叩いたのだ。


「素晴らしい提案だ」


そして、手放しに誉める。



「我とて、人間に無駄な犠牲者は出したくないと、憂いていた所だ」



と慈悲深い笑みを浮かべる。


「・・・はは、そうですな、無駄に『奴隷』を減らしては、魔王様への献上品が目減りしてしまいますゆえ」



魔王は立ち上がる。



「さあ、契約の握手を交わそう。いくら魔王とて、一度交わして約束を無碍に破る様な無粋な真似はせんぞ」



想定以上に事が運び、若干困惑するも、ピンハーネは気を取り直す。



「・・・は、はい」



ピンハーネは立ち上がり魔王と強い握手を交わす。


その瞬間、ピンハーネの腕は激しく焼け、ぼろぼろに焦げ落ちた。





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