第33話 真の勇者は別に居る?




魔王は勇者の存在に恐怖していた。





200年前

圧倒的な魔力を持ち常世から復活を果たした

多数の魔獣の軍隊を結成し


人間どもを蹂躙するのは、赤子の手をひねるよりも容易い事・・・のはずだった。



だが・・・



世界樹の女神に選ばれた勇者

奴だけが誤算だった。



『勇者の証』を携えて、魔獣の将軍たちを蹴散らして

我の前に現れる。




あの手の甲に輝く『勇者の証』の光・・・





があああああ!!!!





何度思い出しても忌々しい!





当代の勇者の証を持つ者・・・見つけ出して必ず滅ぼしてやるぞ・・・




魔王は暗い闇の中で静かに

決意を新たにする。







$$$








王都、大聖教会の地下深く

マゼンダ総司教は、こっそりと、階段を降りる。



地下の隠し部屋に入り

水晶玉に力を込める。




「お久しぶりに御座います、我が偉大なる創造主、魔王様」




膝をつき、頭を垂れ、

今までの出来事を報告していく


女神に選ばれたと名乗る勇者が、インクで勇者の証を書いただけの『インチキ野郎』だった事


そいつが体力、魔力も才能もない『雑魚野郎』だった事


もう魔王様の覇道を遮るモノは何一つない事





すべて話し終えたマゼンダは再び頭を下げる。




内心興奮が抑えきれず、醜い笑みが零れてしまうのを必死に堪える。

(ああ、・・・あああああ・・・・きっと、魔王様は私の事を手放しに誉めて下さるに違いないッ!!)





・・・





「お前は馬鹿か?」






へ?




思ってもみない言葉の不意打ち

そして、周りに魔王様の冷たい魔力が

見る見るうちに立ち込める。


(ひひひぃいいい、怒っていらっしゃる、これ以上にないくらい、お怒りだ)


どうやら、

魔王様はあの寒村に

まだ他に勇者が居ないか気がかりである様子




「お言葉ですが魔王様、他に本物の勇者の証を顕現した者が居たとして!・・・あの場で、名乗り出ない理由はありますか?」




万が一、億が一にも

魔王軍の息がかかっていると感づかれないように

あそこに派遣した使者は全員、混じりけ無しの人間だけに限定した。

抜かりはない。





・・・






「確かに・・・」





長い沈黙からのその言葉に

ホッと安堵するマゼンダ、


沈黙の瞬間に一生分の冷や汗をかいたのか、ボタボタと床に汗が零れる。




「くれぐれも、気を抜かない事だ、今後も人間どもの中の優れた戦士をひとり残らず殺せ」




「はっ、仰せのままに」




その言葉を最後に

通信は途切れる。

全身の緊張がどっと抜けるのを感じた。




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