第31話 彼女の名前は『マジョ』




「私、昨日から何も食べてなくて・・・」





倒れた彼女はユシアからお弁当を渡されると

手を合わせてお礼をいい

上品な物腰ですいすい食べていく。



「ありがとう、親切な人」



胸に手を当ててお礼を言う彼女

長い前髪で顔は見えづらいが、

彼女の青みががった大きな眼が、じっとこちらを見つめていた。





食べながら話す彼女の話




彼女は『マジョ』という名前で、魔術都市ロスト・ロイスという場所から

はるばる王都まで旅をして来たそうで

地図に従って、ここまで来たが、行き止まり

道を間違えたのかと思って、あたりを彷徨っていたらしい。



そして、俺を見つける。

斧を複数本持っていたから『山賊』かと思ったとの事



確かに・・・



斧持ちというだけでも怪しいのに、複数本持ちとか・・・

傍目に見れば、そうとしか見えないかー




俺の方も、事情を説明していく。



・・・



途中、俺の様子がいつもと違う事を察してか

フェリがこっそり俺に耳打ちする。




(ねぇねぇ、ユシア、さっきから何テンパってるのよ?)



(綺麗な女の子相手だから緊張しちゃって)




え、それ、おかしいわ?




ん?





(私相手に、そんな態度とった事ないのに?)





あー・・・





ユシアは返す言葉がわからず

とりあえず沈黙する事にした。







$$$








「事情はわかった」




食べ終わったマジョは水を飲んで

すっと立ち上がる。




仮面を付けなおして、とたとたと岩の前まで歩いていく。




・・・




ユシアは

その様子を眺めている。




今の前で、さっきの戦闘時の構えをとる。



彼女は何か小さな声で喋りながら、集中しているようだ。





”我は水なり”





そう微かに聞こえた次の瞬間




目の前の岩が弾ける。

水に塊の様に弾けて砂になって


目の前の大岩が消える。





は?





ユシアは

あまりの非常識な出来事に

ぽかんとする事しかできない。



仮面の彼女は最後にこちらに一礼して去っていく。

表情はわからないが、

あっけにとられる自分の姿を笑っているような、そんな気がした。





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