第16話 夜の酒場、勇者になりたかった男



夜の繁華街は閑散としていたが、




それでも夜中明りもつかない辺境出身のユシアにとっては

今まで見た事もない別世界に見えた。



一番大きな酒場に入る。



「フェリ、どこに居るかわかるか?」



「えーっと、あれあれ・・・あのキザな、いけ好かない感じの男よ」



見つけたセンシさんは、数名と何やら真面目そうな話をしているようだ。


話の腰を折るのも気が引けるので、

晩飯でも食べながら、終わるのを待つことにした。




聞き耳を立てるつもりはなかったが、




自然と会話が聞こえてくる。





「物見砦が潰された、じきに、魔獣の軍勢がこの街を襲うだろう」





「軍勢を率いているのは、『怪力の牛鬼』王都の精鋭騎士団ですら歯が立たないって噂だ」



「さらにだ・・・王都からの救援は望めないだろうな」


「ああ、王都までの一番近い道が大岩で塞がったらしい、迂回路では到底間に合わないだろう」




武器を持った男たちの顔は暗い。





長く続く沈黙・・・





その張りつめた糸を切るように一人が言い放つ。


「今回の仕事、俺は降りさせてもらう」


その言葉にセンシ以外の男達も「俺も」「俺も」と次々声を上げる




「なぁセンシ、あんたも今回は退散しようぜ、こんな寂れた街を守るために、十天衆まで上り詰めた地位を失う必要はねぇよ」




・・・




「今、なんつった?」


センシは相手を睨みつける。

その凄みに敗けて、男は冷や汗をかきながら発言を撤回する。





男達が去った後も、センシは飲み続ける。


「マスター、おかわりだ」



「センシ!飲み過ぎだ、もうやめとけ」



完全に酔いが回ったセンシを店主はなだめる。





勇者の証・・・






「ん?なんだって?」



「勇者の証だ、俺に勇者の証さえ、発現していれば、王都はすぐにでもこの街に援軍を送っただろうし、この街も救うことが出来たはずなんだ」



・・・この地方に勇者が現れるって神託が降りた時、内心俺は、自分が勇者じゃないかって期待した・・・




「だが、駄目だった、どうして俺は勇者に選ばれなかったのか、最近そんな事ばかり考えちまうんだ」




と最後まで言い終えて、

そのままセンシは酔いつぶれたのだった。






$$$






ユシアはその後、店を出る。



(ああ、話しかけるタイミングつかめなかった)


我ながら情けないが、あの空気に入っていける自信はない。



「いやー、勇者の証が発現するって、やっぱりぃ、凄く恵まれてることなのよねー」



後ろの妖精が、たわ言を言いながら、ちらちら見てくるが

無視する事にする。




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