【短編集】喜怒哀楽の断片

村上夏樹

第1話 ■合法的痴漢

男尊女卑法が施行されてから、私の日常も他の女性たちと同じように大きく変わってしまった。

他の女性たちは、この法律が可決されてからも、無駄な抵抗をするようにやたらと派閥を汲んだり、この法律についての勉強会などが女性主催で開催されるようになったが、

もともとマゾ気質が強く、昔から男性に必要とされることに生き甲斐を感じる私として、この法律には大賛成だった。かといってそのような誘いをあからさまに断るのも、恐かったので、忙しいという理由でそれらを断っていた。


私は何に忙しかったかというと、男性への奉仕で忙しい日々を過ごさせていただいていた。

現在の法律では女性は男性のエリア(男性用トイレ等)に入ることは、男性の許可が無い限り不可能だったが、男性は女性用のエリアには入れるエリアと入れないエリアがあり、トイレ、更衣室、銭湯などの公共の場は許可なしで入れることになっていた。電車の女性専用車両は相変わらず立ち入りが禁止されいていた。これは、通勤通学で使う電車の女性専用車両を撤廃してしまうと、車両内が痴漢だらけになることと経済や学問の衰退を危惧してのことというのが名目であったが、実際には男尊女卑反対派の女性たちの抗議による効果もあったのだと思う。

そのおかげもあってか、女性専用車両以外に乗る女性は痴漢の標的となるのは必然的であったし、男性側も女性が車両に乗り込んでるのに、何もしないのは失礼だという世論の空気もあったので、女側の私たちにとっては、普通車両に乗り込んだのに何もされなかったということは、一種の屈辱さえも覚えることだった。


私は今朝もこの車両に乗り込んだ。

通勤電車とは言え、決して満員ではなく、電車内のシートはちらほらと空席があったが、女性がそこに座ることは禁止されていた。

電車内に一歩踏み込むと、いつもいる男性たちが近寄ってきた。

あいさつ代わりなのか、彼らはいつも私の全身写真を撮ったあと、スカートの中を撮影した。

私は特に抵抗もせず、出入口付近の手すりにつかまり、ただただスカート内をまさぐられる感触とカメラの音をききながら「これも男性のため。」と自分に言い聞かせた。

彼らは撮影をし終わると私の身体のあらゆる部分をまさぐった。

服の上から胸を触るものもいれば、ブラウスの中に手をいれて、手探りで私の乳首を探すものもいた。


一応痴漢が認められた車両といっても、女性の合意なしに衣服を汚したり破いたりするような行為は違法とされていたし、レイプなどの行為は勿論犯罪とされていた。これも社会人や学生の女性に配慮していただけた結果なのだろう。


私の掴んだ手すりの上の広告には『痴漢は合法的におこないましょう』という張り紙が張られていた。


私は今日もその張り紙の前で黙って男性たちがまさぐる手の感触に身体を持っていかれてしまわぬように、必死に黙って耐えることが精いっぱいだった。

この普通車両には私のほかにも女性はいたが、他の方たちも同じように耐えているのをみると、私だけでは無い安心感に包まれ『自分は男性のために行ってる。自分のためでは決してない』と言い聞かせることによって、触られる行為を正当化出来たし。

何より自分以外の女性たちも、私と同じように男性に奉仕したいのだという気持ちがあることが嬉しかった。


いつもの駅に着くと私だ男性たちに

「失礼します。ありがとうございました。。」と小声で言い、少し乱れた服装を直しながら電車を降りた。

彼らにまさぐられたあとの衣服の下のブラからは乳首がはみ出ていたし、下着も今日は思いっきり食い込まされていた。

男性は私が電車から出ていくと「またあしたね」と小声で言うものもいた。

私は振り返らず逃げるように小走りで走っていったが、きっと明日も同じ時間にここに戻ってきてしまうのだろう。

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