9. サクラにやってきた

王都のサクラも以前よりエリアが拡張しているみたいだ。建物の高さも若干高くなっているようだが、それよりも横方向へ広がりが大きい。

ただ城の周りの農園はそこまで広がっていない印象を受ける。まあ広がりすぎると魔獣の対応が出来なくなりそうだしね。


さすがにやって来ている人が多く、以前に比べると格段に短いが行列が出来ていた。とはいえ、流れが速いのでそこまで時間はかかりそうにはない。車を収納してから列に並んでゲートを抜ける。

ルイサレムやオーマトと同じように入口付近にはバス乗り場があり、ゲートをくぐったあとには大きな駐車場があった。バス停にはかなりのバスが止まっていて、飛行艇も止まっている。かなり混雑しているのは発着数を考えると仕方がないのだろう。



門から入ったところは拡張されたエリアらしく、入口近くにあった案内板を見ると南自由区画となっていた。もともとあったエリアの外周に4つのブロックが拡張されていて、縮尺が正しいのなら面積は3倍くらいになっているみたい。元々あったエリアは制限区画となっており、入場者は制限されているようだ。



まずは自由区画にある役場の出張所に行っていろいろと確認をしてみる。制限区画に入る項目にはサクラでの滞在期間なども必要みたいだが、良階位以上の冒険者であれば入ることが出来るようだった。


「とりあえず制限区画には入れそうなので最初にクリスさんのところに行ってみるか?」


「まあすぐには会えないかもしれないけど、いったん行ってみてもいいかもしれないわね。」


一通りの案内を見終わって役場を出ようとしたところで前からやって来た団体に目がとまる。


「えっ!?クリスさん!!?」


って、そんなわけはないな。どうやら冒険者のようなんだが、記憶にあるクリスさんの姿が重なる。格好も似ているので余計にそう思ってしまったのだろう。


思ったよりも声が出ていたみたいで、にらまれてしまった。


「たしかに記憶にある姿だけど、いくらなんでもあの若さは無いと思うわよ。」


「それは分かっているけど、あまりに似ていたからとっさに声が出てしまったんだよ。しかも装備も同じような感じだっただろ?」


「たしかに似ていたわね。まさかお子さんって事は無いわよね?」


「まあ、もしそうだったらまた会うこともあるだろう。」


年齢的に考えても子供という可能性はあるけど、変に声をかけるのもやめておいた方がいいだろう。




制限区画のゲートでは少し質問を受けたが、問題なく通り抜けることが出来たのでほっとする。昔の知り合いに会いに来たと説明したんだが、年齢を見てちょっと驚いていたようだ。良階位の更新試験を受けていて良かったな。


先に宿を取ろうと以前よく使っていたシルバーフローへとやってきた。まだあるのか心配だったが、改装されたのかかなり綺麗になっている。


「今日宿泊したいんですが、部屋は開いていますか?」


身分証明証を確認してから少しすると返答があった。


「はい、大丈夫ですよ。ダブルの部屋で一泊は3500ドールとなりますが、よろしいでしょうか?」


さすがに前よりもかなり値段が上がっているな。


「それでお願いします。」


特に預ける荷物もないのでチェックインの時間を聞いてからすぐに宿を出る。



記憶を頼りにクリスさんの家に行ってみると、以前と同じ場所に建物があった。多分住む場所は変わってないと思うんだけど、大丈夫だよね?


入口には門番が二人立っているが、知っている人ではない。以前は形だけの門番という感じだったけど、警備が厳しくなっているような気もするなあ。治安が悪くなっているのだろうか?

ちょっと怖いけど、とりあえず聞いてみるしかないよな。


「あの、すみません。クリストフ王爵に面会を希望する場合はどのようにすれば良いのでしょうか?」


門番はじろりとこちらを見てきたが、親切に答えてくれた。


「ん?ああ。直接ここにそんなことを聞きに来るのは珍しいな。

基本的に面会をするにはクリストフ王爵に伝のある人からの紹介しか受け付けていないな。あとはクリストフ王爵との関係を証明できるものを持っている場合くらいだ。

すまんがそれ以上のことは私から説明は出来ない。」


うーん、紹介と言っても今は誰かに紹介してもらうのは難しいよな。最初にクリスさんに連絡を取ろうというのはハードルが高すぎたか?


「たしかにそうですよね。ありがとうございます。」


前は門番が自分たちのことを知っていたから普通に入っていたんだけど、正式な手続きなんてよく分からないもんなあ。


あ、そういえばアムダの戦いの前にクリスさんに渡されたものがあったな。あれを使ったら大丈夫だろうか?


「あの、すみません。クリストフ王爵との関係を証明できるかわかりませんが、以前クリストフ王爵にいただいたものがあるのですが、これは証明にはなりませんか?」


そう言って見せたのはミスリスで装飾された中心に赤い宝石のようなものが付いている装飾品だ。

かなり特殊な加工がされているので簡単には作ることが出来ないらしく、さらにクリスさんの魔力を封印しているので複製は出来ないものと聞いている。装飾の中にはクリスさんの紋章も入っているからクリスさんの関係と分かるはずだ。


「こ、これは・・・。少しお待ちください。」


最初は面倒くさそうにしていたんだが、それを見ると慌て出した。そのあと、「ちょっと待ってください!!」と言って、なにやら門の横にある控え室のようなところで書類をあさっている。しばらくすると戻ってきた。


「申し訳ありませんが、私では正式に確認できません。確認が出来るものを呼びますので少しお待ちください。」


そういってなにやら電話みたいなものでどこかに確認をとると、すぐに執事のような正装をした男性がやって来た。なにやらこっちをじっと見ているが、やっぱり疑われているのだろうか?


「初めまして、執事をしているカルデリアと申します。今回クリストフ王爵より授かったと言われるものをお持ちだと聞きましたが、見せていただくことは出来ますか?」


「ええ、これなんですけど・・・。」


まあとられることは無いと思うので素直に渡すと、なにやらいろいろと確認している。執事と言っているけど、前にもいたのかな?あまり見た記憶が無いんだよなあ・・・。


「たしかにご主人との関係を証明するものになります。ただ・・・。

いえ、すみません。


申し訳ありませんが、ご主人はただいま外出していまして、後で連絡するということでもよろしいでしょうか?お泊まりの場所を教えていただければありがたいのですが、いかがでしょうか?」


「急にやってきて申し訳なかったです。えっと、シルバーフローというところに宿をとっていますので、そちらに連絡をいただければ大丈夫です。」


「承知いたしました。またあとでご連絡させていただきます。」




このままここにいてもしょうがないのでいったん屋敷を後にする。


「時間もあるのでカサス商会に行ってみるか?この名刺ってまだ有効なのかな?」


「流石にそれは無理なんじゃない?」


「でも、普通だったらコーランさんとかには簡単に会えないと思うよ。ダメ元で聞いてみよう。ダメな時はクリスさん経由で聞く方法もあるからね。」



サクラのカサス商会の場所は変わっていなかったんだが、半端なく立派になっていた。建物の案内を見ると、5階までは商店となっているが、それから上はオフィスのようになっているみたい。いるとしたらこの建物でいいみたいだけど・・・。


「すみません。コーランさんかカルニアさんに面会したいのですが、可能でしょうか?」


総合受付のようなところに行って聞いてみる。


「予約はされているのでしょうか?」


「いえ、特に予約は取っていないのですが、以前はこれを見せれば面会できていたので・・・。」


そういって名刺を見せる。名刺にはアドバイザーの肩書きと、カサス商会内で使われていた名前が記載されている。


「えっ?カサス商会のアドバイザー?これは・・・。

・・・

申し訳ありませんが、少し見させていただいてもよろしいでしょうか?」


渡した名刺をなにやら機械にかけてなにやら確認していたが、しばらくすると返してくれた。


「担当の者を呼びますので、しばらくこちらでお待ちください。」


近くにある商談スペースのようなところに案内されたので、そこでしばらく待っているとなにやら見たことのあるような印象の男性がやって来た。


「はじめまして、ここの人事部長をやっているカーランと言います。

今回、持ってこられた名刺なのですが、これをどこで手に入れたのでしょうか?」


やっぱりそうなるよね。


「すみませんが、コーランさんからいただいたものとしか説明できません。」


「名刺本人ということでしょうか?申し訳ありませんが、以前当商会でやっていただいていた事をいくつか説明していただけますか?」


「えっと、インスタント食品やいろいろとお店のアドバイスや結婚式のアドバイスを行いましたが、おそらくこれが一番確認できることだと思います。」


そういって魔符核をカーランさんに見せる。


「以前のものよりも性能は上がっていると思います。補助の術式はもしかしたらもっと効率がいい物があるのかもしれませんが、自分たちの知っている範囲で作成しています。」


カーランさんは慎重に魔符核を受け取り、そこに書かれている付与魔法を確認している。「これは・・・」とかなにやら小さな声でぶつぶつと言っていたが、おもむろに顔を上げた。


「ありがとうございます。いったんこちらの部屋へお願いします。」


そういって案内されたところはかなり立派な応接室だった。一応認めてくれたということだろうか?


しばらくするとカーランさんが年配の男性をつれてやって来た。カルニアさんかな?護衛と思われる人も一緒にやって来ているのは仕方が無いだろうな。


「カルニアさんですよね。お久しぶりというべきでしょうか?」


「あっ、あっ・・・ジュンイチさんとジェニファーさん!!その姿はどうして?」


いったん落ち着いた後、いろいろと昔のことを話すと、護衛の二人とカーランさんは退席した。どうやら信用してくれたみたいだ。ちなみにカーランさんはカルニアさんの息子らしい。




自分たちが亡くなったという話は聞いていたんだが、いろいろと自分の交友関係の人からの話で亡くなったのではないと思ったらしい。それで直接自分たちを知っているカルニアさんが現役の間は契約料の支払いを続けることにしていたようだ。

そしてもしもの時のために受付に名刺を持った二人がやって来た場合の対処方法は伝えていたらしく、今回もスムーズに対応できたようだ。


しばらく話をしていると、ドアがノックされた。


「ああ、父にも連絡が付いたようです。」


そういうとドアが開いて、コーランさんが入ってきた。もう60歳を超えているはずなんだが、まだまだ元気そうだ。


「コーランさん、お久しぶりです。」


「ジュンイチさん、今までどこで・・・」


コーランさんの後ろに入ってきた人も目に入る。年はとっているが、間違いないだろう。


「えっ?まさか・・・、クリスさん?」



~カサス商会受付Side~

私はカサス商会で受付の仕事をしている。カサス商会で働くにはかなりの倍率の競争を勝ち抜かなければならない。ここで働けるというのはかなりのステータスになるからだ。もちろん待遇もいいし、給料もいいからね。


カサス商会は先代のコーラン現相談役の時に一気に事業を拡大し、世界的な商会となった。そのきっかけになったのはインスタントラーメンや重量軽減バッグなどの商品と、画期的な販売戦略だ。コーラン相談役と当時親交のあった人物が中心となって考え出したものらしい。

今では他の商会もまねをしているが、常に漸進的な戦略、そして多くの人脈から今も世界的な規模の商会としてその地位を守っている。



私は本店の受付であるが、面会を求めてやってくる人も多く、事前に人物の選別を行うことをしなければならない。単に取り次ぐだけではないので大変だ。


今日も飛び込みで面談を求めてきた人物がいた。コーラン相談役とカルニア会長への取り次ぎとはとんでもないことだ。しかもかなり二人のことをなれなれしく呼んでいることに少し怒りを感じてしまった。


これはここで断らないといけないと思っていたところ、名刺を出してきた。何の名刺かと思ったのだけど、そこに書かれていたのはカサス商会アドバイザーの名刺だった。


受付業務をやることになったとき、いくつかの特例について説明を受けていた。その中の一つがこの名刺だ。商会内でもこの存在を知っている人は限定されることであり、各支店の受付業務を行うものには周知されていることだ。

本物なのかどうかは確認方法がマニュアル化されており、確認してみると本物であることが分かった。特殊な加工をしたものなので、ある道具を使うと指定された色が見えるのだ。

そのときに初めて指定されている封のされた封筒を開けて確認することが出来るように指示されていて、もちろんこれをあけるのは初めてのことだ。


確認できた色は青であり、開封した中にある青色の場合の封を開けて中を確認した。すぐにカーラン人事部長に連絡を取り、こちらに来ていただくことになった。



部屋に案内してしばらくしたところで別の応接室に移動することになったようだ。案内された応接室は最上級の応接室だ。


噂レベルであるが、コーラン相談役に助言を行っていた人物が持っていたと言われるアドバイザーの名刺。でもそれだったらもっと歳を召されていてもおかしくないはずだけど・・・。


あとで今回のことは箝口令が敷かれた。口外することは許されないが、今回ちゃんとマニュアルに沿った対応をしたと言うことで特別ボーナスをいただくことになった。とてもうれしいことではあるんだけど、あの方達が誰なのか気になってしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る