259. 異世界2363日目 緊急会議に参加する人々

 朝早く迎えに来た車に乗って移動する。打ち合わせは王宮ではなく、王宮の近くにある迎賓館のようなところで行われるらしい。


 少し走ったあと、車は両開きの鉄の扉の中へ入った。門から並木道を進むと建物が見えてきた。この国の伝統的な建築らしく、王宮と同じような石造りの立派な建物だ。海外から偉い人が来たときに招待される建物なんだろうな。

 建物の前で車から降りると、係の人が建物の方へと案内してくれた。建物の入口の受付でマスカさんから受付をしていく。ここで渡された名札のようなものを胸に付ける。どこの国の代表なのかが分かるようにこれを着けるようだ。

 自分たちの名札の色は茶色なんだが、褒章などに使われる色は避けて用意されるのが一般的らしい。ホスト国だけが最下位の赤を使うことが多いようだ。どっちが上だともめたりするんだろうな。


 やって来ている国を聞いたところ、ホクサイ大陸からはヤーマン、アルモニア、ハクセン、ナンホウ大陸からはモクニク、トウセイ大陸からはここアウトラスとルトラ、キクライ大陸からはハクアイと結構な数となっている。

 今回これなかったのは日程的に難しいというところや参加しても力になれないと断ったところらしい。まあサビオニアとかはそれどころではないかもしれないしね。



 会議が始まる前に簡単に挨拶をする場所なのか、飲み物を用意されたロビーに案内される。すでに何カ国かの人たちが来ていたんだが、その中で見たことのある顔があった。マスカさんがそっちに向かったので折角だからと自分たちも付いていく。


「すみません。自分たちの知っている方もいるのでご一緒させてもらってかまいませんか?」


「そういえば他の国にも知り合いがいると言っていたな。今から挨拶をするのはハクセンでもかなり実力のある人物だから粗相の無いようにな。」


「分かりました。」



『初めまして、ヤーマン国の使節団団長のマスカといいます。』


 こういうところではライハンドリア公用語を使うのが普通らしい。少し挨拶した後、こっちにも気がついたようだ。


「ジュンイチとジェニファーじゃないか。久しぶりだな。元気にしていたか。」


「ラザニア様、お久しぶりです。元気にしていますよ。今回はラザニア様が団長だったんですね。」


 ラザニアさんがハクセン語で話しかけてきたのでハクセン語で答える。


「ああ、父とラクマニア様から指名されてな。おそらくジュンイチ達もやってくると思うから会ったときにはよろしく言っておいてくれと言われたよ。」


 マスカさんに簡単に関係の説明すると、さすがに驚いていた。


 しばらく話をしていると、他の国の使節団もやって来たようだが、その中の一人がこっちにやって来た。


「やはりおぬし達もやって来たのだな。」


 ジョニーファンさんだ。他にもアルモニアの使節団の中には前にいろいろと話をした人たちの顔があった。


「どこまで力になれるかは分かりませんよ。」


「おぬし達が無理なら今回来ている大半のもの達も無理なんじゃないか?」


 ジョニーファンさんがかなり持ち上げてくる。雑談していると周りから注目を集めてしまった。ここでマスカさんとラザニアさんを簡単に紹介する。


「ヤーマン国もこの二人を選出してくると言うことはちゃんと人選をしているようじゃな。」とか言っている。持ち上げすぎだよ。


 そのあとしばらく会話した後、また後でと離れていったが、マスカさんからどういうことだと詰め寄られた。ラザニアさんはジョニーファンさんとの関係は知っていたようで驚いていなかったけどね。


「ハクセンとアルモニアでいろいろとお世話になった方の一人なんですよ。

 今回アルモニアから参加された方の多くは一緒に魔法などについて討論した人たちでした。古代遺跡などにも造詣がある人たちだったから選ばれたのだと思います。」


「そ、そうなのか・・・。」


 他にもモクニク国の使節団にデリアンさんとカルアさんがいて驚いた。あのあといろいろと論文が認められて国では結構な地位を与えてもらっているようだ。

 今回も遺跡について調査した中に古代兵器についての資料もあったために使節団に入ったらしい。


 二人は最近結婚したらしく、ちょっとのろけられてしまった。カルアさんはジェンと何かしら話していた。




 会場に入り、しばらくすると今回の古代兵器についての説明が始まった。


「最初に、今回出現した古代兵器と思われる魔獣は特階位に指定されましたことをお伝えします。以後は個体名『アムダ』と呼ぶことになります。」


 特階位の魔獣は種類ではなく、主に優階位の魔獣の中で特に強い個体を区別するために設けられた階位だ。個体名が付けられており、その討伐にはかなりの実績と報酬が支払われる。普通は「名付き」と簡単に言われているが、出会ったら死を覚悟しなければならないレベルだ。



 このあとこれまでの経緯について説明があった。


 アムダが最初に現れたのは地方の小さな町だった。帰ってこない冒険者が複数出てきたため、強い魔獣が現れたのかもしれないと調査依頼が出された。あとで調査したところ、その町以外の小さな町が襲われて全滅したところもあったようだ。

 調査にでた良階位のパーティーがアムダに遭遇。その地域には珍しく良階位レベルの強さだったが、金属系の魔獣で攻撃がほとんど通じず、撤退することになった。ただ、移動速度はそれほどなかったこともあり、森の中を突っ切ることでアムダを引き離すことができた。


 すぐに報告が行われて優階位の冒険者が討伐に向かうことになったが、通達が間に合わず、襲われる人もいたようだ。

 ただ、これで倒せるだろうというもくろみだったが、結果から言うと倒せずに撤退することになった。経験を積んだのか、聞いていたよりも強くなっており、さらに優階位のメンバーが持っていたミスリルの武器では歯が立たなかったらしい。

 なんとか撤退することは出来たが、移動速度が速くなっていたために撤退するのも大変だったようだ。


 そこで一気に始末してしまおうと優階位のパーティーを集めている間に問題が生じた。勝手に討伐に向かったパーティーがいたようだ。実力は良階位だが、お金に物を言わせて装備にいい物を使っていたため、対象にもよるが、優階位の魔獣を狩ることのできるパーティーだった。

 アムダの監視役はいたのだが、かなり遠くからの監視しか出来ないため、気がついたときには遅かったらしい。パーティーは全滅してしまい、その装備から身体の修復を行っていたようだ。また大量の魔獣石を持っていた可能性があり、それも吸収されたようである。あとで壊れた収納バッグが発見されたらしい。


 そして5組の優階位冒険者パーティーが討伐に向かったが、実力が格段に上がっており、再度討伐に失敗してしまった。

 聞いていたときよりも格段に速度が上がっており、強さが上がってしまったことがその原因だが、最も悩ませたのは広範囲にダメージを与える光魔法だ。これは魔法防御も貫通してくるらしく、致命傷まではならないがかなりのダメージを負ってしまうようだ。連射は出来ないようだが、一定おきにこの攻撃を行ってくるようだ。

 交代で攻撃を続けたが、オリハルコンの武器でもほとんど傷つけることが出来ず、先に体力がなくなったのは冒険者の方だった。撤退するのもかなり厳しかったみたいで、数名の犠牲の上で撤退できたらしい。


 この時点で討伐について国が動くこととなり、その姿から古代兵器ではないかという報告があがってきて、他の国に情報が配信されたようだ。


 現在も監視を継続しており、近隣の町の住民は前もって避難しているようだ。まっすぐどこかを目指しているというわけではないようだが、徐々にこの王都に向かっているらしい。




 一通りの説明があったあと、少し休憩に入った。10分ほどしてから再開されるようなのでトイレに行ってから少し休憩する。


「だけど、5組の優階位の冒険者パーティーが倒せないってかなり厳しいよね?」


「そうね。ただ問題は強さと言うより堅さの方かもしれないわ。オリハルコン100%だと今の武器だとかなわないわよね。」


「傷つけられなければずっと強さが変わらないと言うことになるし、結局体力負けしてしまうよなあ。」



~マスカSide~

 今回古代兵器への対応について緊急会議が行われることになり、私が使節団の団長となった。古代兵器への対応であるが、多くの国から使節団が参加すると言うことでかなり重要な役目を担っている。とくに一緒に行くメンバーがかなり癖のあるものが多いのが気になるところだ。

 その中でも異質なのはジュンイチとジェニファーという二人だ。長年の実績があるわけではないが、多くの革新的アイデアの導入やクリストフ王爵の救出、そして公開はされていないが王家の遺跡に関しても多くの活動をしてきたらしい。ヤーマンでの会議でもその知識の深さに驚いた。


 国王陛下からも一目置かれており、王族のメンバーからも慕われていると聞いている。特にクリストフ王爵とは家族でのつきあいがあるらしく、親友と呼べる間柄とも言われている。また正確には分かっていないがハクセンとサビオニアからも褒賞を受けており、他国の重鎮ともコネクションがあると言われている。


 このような関係を持っているのだが、特に問題となる言動も行動もなく、かなり控えめな対応をしており、団長としての私の立場もちゃんとたててくれているのはありがたかった。この年齢でそのような立場だと、高慢になるものもいるからな。




 現地に着いてからは自由行動となったが、監視の目が付くのは仕方が無いところだろう。参加メンバーは思い思いの行動をとっていた。

 そして会合の日になり、会場に着くとすでに何カ国かの使節団がやって来ていた。最初に目に付いたのはハクセンの使節団だ。たしかハックツベルト家のラザニア中位爵だったはずだ。胸の名札を見ると今回の使節団の団長のようだ。

 挨拶に行こうとすると例の二人が同行すると言ってきた。どうやら知り合いがいるらしい。ラザニア爵と挨拶をすると、二人の方を見てハクセン語で声をかけていた。どういうことだ?ハクセン語は少しわかるが、どうも知り合いのようだ。かなり親しげに話している上、彼の父の名前だけでなく、ルイドルフ爵の名前まで出ている。

 会話が一段落したところで改めて紹介されるが、ハクセンで彼の父だけで無く、ルイドルフ・ラクマニア爵とも交友があったらしい。ハクセンのトップの二人と言われる二人と交友があるだと?


 そう思っていると他から二人を呼ぶ声が上がった。見てみるとなんとジョニーファン様だった。今回はこの方も参加しているのか?そう思っているとまたもや二人と会話を始めた。そのあと紹介を受けたが、ちゃんと人物を選んだと言われて驚いた。

 あとで二人に話を聞くとアルモニアにいたときにジョニーファン様を含めて今回の使節団に参加した人たちといろいろと議論をしていたらしい。ジョニーファン様には他の使節団も遠慮して声をかけられない状態なのに、私たちが普通に話をしているのでかなり注目を浴びてしまったぞ。



 出発前に国王陛下から言われたことを改めて思い出す。


「ジュンイチとジェニファーの交友関係には驚くかもしれないが、二人にとっては利害関係ではなく、親しくしてもらっている人達と考えているので、余計なことは考えない方がいい。」


 国王陛下が言われていたのはこういうことだったのか。二人は特にかしこまるわけでもなく、礼節は守っているが、普通に話をしているのだからな。これだけでも二人がこの使節団にいる価値があるというものだ。

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