256. 異世界2334日目 不穏な噂

 いろいろと情報を集めて動き回っていたんだが、ある日朝早くにフロントから連絡が入った。ロビーへと行くとクリスさんがやって来ていたんだが、今回は珍しくクリスさんだけだった。


「クリスさん?おはようございます。クリスさん一人というのは珍しいですね。」


 護衛は付いているようだが、今日はスレインさん達が一緒じゃない。


「ああ、今日は遊びに来たというわけではないからな。部屋を取ってもらっているのでそっちで話をさせてもらってもいいか?」


「ええ、大丈夫ですよ。一応防音結界をしますね。」


「ああ、助かる。」


 ちょっと深刻そうな顔をしているようなので、なにかまずいことでも起きたのだろうか?護衛の人たちは入口で待機するようなので、中に入ったところで音が漏れないように風魔法をかける。


「実は今回は王宮からの使いで来たんだ。ここで詳細を話すことは出来ないが、古代文明の遺跡に関して会議が行われることになっている。そこで古代遺跡について造詣の深い二人の名前が挙がっているんだ。

 急な話だが、明日の朝に王宮で行われる会議に参加してほしい。会議は非公開で行われるため、今回こういう形で参加を求めることになった。もちろん会議のことについては口外しないことが条件になる。」


「よほどの事なんですね。分かりました。どこまで知識が役に立つか分かりませんが、参加させていただきます。」


「助かるよ。父上も二人に期待しているようだからな。


 申し訳ないが、他にも回るところがあるので失礼するよ。」


 クリスさんは他にも行かないといけないみたいですぐに出て行った。部屋に戻ってからジェンと話をする。


「非公開の会議で話があるってどうしたのかしらね?古代文明とか遺跡の造詣が深いと言うことで選ばれたみたいだけど、なにか変なものでも見つかったのかしら?」


「まさか王家の遺跡の古代兵器とかが復活したとかじゃないよね?国王陛下もあそこまではっきりと手を出さないと断言していたし、簡単にあの封印を解いて中に入れる人がいるとも思えないしね。」


「行ってみないと分からないけど、とりあえず遺跡の調査資料をすぐにでも出せるようにまとめておきましょう。」


 遺跡で撮影した資料や回収した資料を改めて整理する。特に島の遺跡で見つかった資料には古代兵器に関する内容がかなり含まれているからね。

 正直言ってこんな資料は無駄になった方がいいと思うけど、もしもの時のことは考えておかないといけないからなあ。




 翌朝、迎えに来た車に乗って王宮に向かうが、入ったのは正門ではなく裏口の方だった。やはり非公開の会議と言うことなんだろう。

 案内された部屋に入ると、一斉にこっちをにらまれてしまった。見たことのない顔ばかりだが、結構年配の人が多い。格好から見て学者という感じだろうか?


「あの二人は何者だ?」


「なんであんな若造が呼ばれているんだ?」


 なんかひそひそと話をしているが、聞こえているよ。まあ結構権威のある学者達みたいなので、自分たちのような若い人間が来ているのが我慢ならないのかもしれないな。



 自分たちが到着して少しすると、何人かがまとめて入ってきた。見たことのある大臣もいたので国の役人関係なんだろう。

 そのあと国王陛下がやって来たところで、進行役の人から説明が始まった。


「今回、急な招集にもかかわらず、また詳細を説明出来なかったにも関わらず、参加してくださりありがとうございます。今回ここに集まっていただいたのはサクラに滞在する中で魔獣や古代遺跡や古代文明について造詣が深い方々です。

 事前にも説明し、書類にサインもいただきましたが、このあと説明する内容は口外しないと言うことをかならず守っていただきますようにお願いします。もし口外したことが分かった場合は申し訳ありませんが、厳正な処罰を下さざるを得ないとご理解ください。」


 機密に関する内容について再度確認をとられ、説明が始まった。


「今回の会議のきっかけはトウセイ大陸のアウトラス帝国からの依頼によるものです。」


 トウセイ大陸からの依頼なのか。ちょうどいろいろと情報を集めていたいところだからまだ理解しやすい。簡単にトウセイ大陸の状況についての説明があった。


 トウセイ大陸はもともといくつかの国に分かれていたが、80年ほど前にそのうちの一国だったアウトラス帝国が大陸を統一した。しかし統一して10年ほどした頃に、キクライ大陸のルトラ帝国に攻め込まれ、長い戦争が続いた。そして50年ほど前に和平条約が締結され、それ以降は大きな戦闘は起きていない。

 統一戦争の傷跡も完全に復興しないままで疲弊したアウトラス帝国と、キクライ大陸での戦争のために戦線の維持が厳しくなってきたルトラ帝国の思惑が一致した中での和平と言われている。

 またルトラ帝国が占領していた地域がもともとルトラ帝国と仲の良かった国が支配するエリアだったこともあり、国境の設置がスムーズに決まったことも影響しているようだ。


 戦後、両国の間には直接的な国交はなかったが、20年ほど前から徐々に解禁され、限定的ではあるが人の行き来も増えてきているらしい。



「今回の依頼というのはアウトラス帝国の南部に出現した強力な魔獣についてのことです。まだ詳細は分かっていませんが、すでにいくつかの町や村が壊滅したと聞いています。なお、被害はアウトラス帝国だけでなく、ルトラ帝国にも及んでいるという話です。


 アウトラス帝国とルトラ帝国で情報交換が行われ、討伐隊が組織されたようですが、結果的には失敗したようです。

 魔獣の詳細についてはまだ明確には分かっていませんが、魔法は効かず、装甲もかなり堅くてオリハルコンの武器でないと傷つけることが出来なかったと聞いています。」


 一通りの説明が終わった後、一人の研究者が声を上げた。


「あの、強力な魔獣が現れたというのは分かりましたが、なぜ古代遺跡や古代文明に詳しいメンバーが集められたのでしょうか?私は残念ながら魔獣についてはあまり詳しくないのです。」


 たしかにこれは自分も変に思う。魔獣の事を確認したいのであれは自分も含めて呼ばれる意味が無いからだ。研究者だけでなく、経験豊富な冒険者が呼ばれていてもいいはずだ。


「それには理由があります。今回討伐に参加した人間や逃げてきた人たちから、あの魔獣は古代文明を滅ぼした古代兵器ではないか?という話が出ているのです。おそらく壁画などに残っている姿から連想されたのだと思われます。」


 古代兵器?それだったら分かるけど、古代兵器が復活したって言うのか?


「そしてこれは遠景から撮影されたものを拡大したものと、実際に見た人たちからの話を元に描かれたものですが、これを見てなにか分かることはありませんか?」


 魔獣の写っている写真と絵と簡単な説明が書かれた紙が配られる。確認してみると、蜘蛛のような形をした魔獣の姿が映っていた。


「たしかに金属蜘蛛などに形は似ているが、ちょっと違うな?蜘蛛の魔獣の上に人のようなものが乗っているのか?比較として描かれている絵から考えると成人男性よりもかなり身長が高いという理解でいいのか?」


「たしかどこかの遺跡の壁画で似たような姿を見たことがあるが、あれは蜘蛛の上の部分がこんな形じゃなかったと記憶している。」


「大陸が異なれば古代兵器の種類も違う可能性はあるが、全く同じものは見たことがないな。」


 いろいろと意見を言っているが、はっきりと明言する人はいない。



「ジェン、遺跡の島の資料にこんな形の絵がなかったか?」


「ちょっとまってね。」


 印刷しておいた壁画の資料を見ていく。あった・・・。


「発言よろしいでしょうか?」


 まわりから注目を浴びるが、かまっていられない。


「以前調査した古代遺跡に描かれていた壁画を撮影したものがありますが、こちらを見ていただけますか?」


 そう言って壁画に描かれていた兵器の一つを見せる。


「こ、これは・・・。」


 写真は一枚しかないので回していくが、その写真を見た人たちの顔色が変わる。


「確信はありませんが、この古代兵器ではないかと思います。足の数は10本、蜘蛛のような形態の上に人間の上半身のようなものが付いています。遺跡の資料の大きさはわかりませんが、形状は一致しているとみていいかと思います。」


「た、たしかに、可能性はかなり高いな。」


「そして最近解明された古代ライハンドリアの言葉で書かれていた中に、このような記述がありました。もちろん完全に解読されたわけではありませんが、大筋は間違っていないと思います。

 『古代兵器にはオリハルコン100%の物質が使われている』という記述です。現代のオリハルコンはミスリルとの合金となりますので、オリハルコン100%で製作されたとなるとその性能差は大きいと思います。これは古代の遺物で発見された武器を考えれば分かると思います。

 さらにこの装甲であれば魔法も効きにくいことも当てはまります。本体の強さは分かりませんが、武器でも魔法でもなかなか傷つけにくい装甲のせいで討伐に失敗した可能性があります。」


「つまり現代の装備では倒せないと言うことなのか?」


「オリハルコンは貴重な金属です。いくら何でも兵器すべてに使われているとは思えません。おそらく部分的に使われているだけだと思いますが、正直なところそこは分かりませんね。

 オリハルコンが使われていない部分があればそこを攻撃すればいいですし、この古代兵器の強さがどの程度かにもよりますが、実力者が集まれば押さえ込めるのでは無いかと思います。ただ現時点では魔獣の強さなど分からない事が多いのでこれ以上は判断できないですね。


 古代兵器ということであれば、兵器の動力となるエネルギー源がある可能性もあります。それを壊すことが出来れば止めることが出来るかもしれませんね。ただ・・・、いえ。説明は以上です。」



 このあといろいろと意見が出たが、自分が提示した意見を支持する人が大半だった。ただ参加していた年配の数人は頑なに反論していたけどね。まあなんの代案もないので反論というよりただの文句というかいちゃもんを付けているだけにしか見えなかったけどね。


 根拠となった資料を見せたんだが、全く理解できなかったのにはちょっと驚いた。古代ライハンドリア語の解読方法が発表されてからかなり経つのに全く読めなかったからね。


「古代文明の文字はまだ解読されていないだろう!勝手な解釈をしてもらっても困るぞ!!」とか言われたときにはどうしようかと思ったもんなあ。理解している人たちは笑いをこらえるのが大変そうだった。


 すでに古代ライハン語の解読方法が論文で発表されてからすでに3年以上経っていることや、古代文明の調査を行っている人たちの中では解読できることはすでに共通認識であることを説明したら「そんなわけないだろう!!」とか言ってきたからね。

 周りの失笑を受けて最後は国王陛下が自分の言うことに賛同したため、青ざめていた。正直言って最近の研究内容を全く理解していないことのほうが驚きだ。言うこともかなり古い内容だったからなあ。こんな人が研究の上の方だとしたら何も進まないよな。


 現段階では出現した魔獣は古代兵器の可能性が高いが、これ以上のことについては現段階では説明できないだろうと言うことでまた情報が入り次第打ち合わせることとなった。



 会議が終わった後、自分とジェンは別の部屋に呼ばれる。部屋には国王陛下の他に数名の役人が座っていた。国王陛下の隣に座っている大臣と思われる一人が話し出した。


「すまなかったな。古代文明研究所の所長があのような人物で驚いただろう。私もあそこまでひどいとは思ってみなかったのだがな・・・。今回のことであそこは大幅に改革が進むだろう。」


「正直言って驚きました。古代ライハン語の解読のことを全く知らないとは・・・。」



 少し愚痴を言わせてもらった後、国王陛下から発言があった。


「あの場では核心部分には触れないようにしていたように思えたが、なにか分かることがあるのか?」


「はい。ただ現時点では詳細な情報が無いのでそこまで言っていいのか分かりませんでしたのであの場では意見は控えさせてもらいました。あと、そのことについてお願いしたいこともありましたのでちょうど良かったです。


 今からお話しするのは今回出現した魔獣が古代兵器という前提での話となります。また実際の強さについても分かりませんので倒せるかどうかの判断はどのような討伐をして失敗したのかが分からないと無理ですね。」


「その件については現在別にすすめていることがあるので大丈夫だろう。」


「先ほどの打ち合わせでは説明していませんが、古代遺跡で古代兵器についてもいろいろと調べてみましたので、あくまで仮定の一つとしてお聞きください。


 通常の魔獣はいくら強い魔獣でも数の力で倒すことが出来ます。徐々にダメージを蓄積していけるからです。タイガ国にいる神獣といわれる竜は別扱いだとは思いますが・・・。

 ただし古代兵器は疲れることがないようなのです。兵器の一部を壊すことが出来れば戦闘力を下げることは出来ると思いますが、無限の体力があると考えた方が良いです。

 そして先ほど話したようにオリハルコンがかなりの部分で使われているとなると、現代のオリハルコンの合金では刃が立たないでしょう。古代の遺物でオリハルコン製の武器があることは知っていますが、もしそれを使ったとして、果たして使い慣れない武器を使って通常通り戦闘が出来るかは疑問です。


 古代文明も古代兵器を倒すことが出来ずに多くの文明が失われたようです。最終的に古代兵器がどのようにして倒されたのかは分かっていません。資料はありましたが、その結果について書かれたものは見つかりませんでしたので。


 遺跡の中で見つかった資料に古代兵器について書かれているところがありました。そこには古代兵器を動かすための核があることが書かれています。この核部分が兵器のエネルギーになっており、これを破壊できれば動かなくなるようです。

 もちろん核部分は兵器の中に収められていますので、簡単に破壊できるものではありませんが、もしこれを破壊できれば古代兵器を停止することが出来るのではないかと思います。」


 自分の説明を聞いてみんな黙り込んでしまった。


「そこには取り外し方などは書かれていなかったのか?」


「資料によると取り外しは難しいようです。また兵器によって異なっているみたいですので、今回現れた兵器のどこにその核が配置されているかは正直分かりかねます。


 そこでもし許可がもらえるのであれば王家の遺跡を調査させてもらえないかと思っています。もしかしたら倒すヒントがあるかもしれません。」


 国王陛下はしばらく考え込んだ後、覚悟を決めたような表情になって言ってきた。


「わかった。古代兵器の調査許可を出すことにしよう。メンバーは前と同じく王家の剣とクリスに行かせよう。」


「ありがとうございます。」

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