232. 異世界1656日目 北の領地を訪問

 遺跡を出発してからいったんトニアの町に戻り、ここからはハイレニア方面に向かう田舎道を進んでいく。車では走れなかったが、討伐依頼のこともあるので林の中を突っ切っていったのだ。おかげで結構な数の魔獣を狩ることができた。その分時間はかかったけどそれはしょうがない。

 林を抜けて大きな道に出た後は車に乗って港町ハイレニアへとやってきた。この町の周辺がルイアニアさんの治めている領地になるらしい。漁業が中心のようだが、灌漑工事もちゃんとしているみたいで町の周りには広大な農地が広がっていた。まあ土木関係も魔法があるから力業でできるんだろうな。


 町に入ってすぐに貴族エリアへと行き、そのまま領主の屋敷へとやってきた。ここの受付にも訪問客が結構いたんだが、ラクマニアさんに紹介状を書いてもらっていたので、名前を確認するとすぐに案内してくれることになった。その対応のせいか、周りの視線がちょっと痛い・・・。



 屋敷に入ると応接室に通されて、少しすると奥さんのタスマールさんと子供達のソラニアくんとクリスティファちゃんがやってきた。子供達は大分大きくなっていてちょっと驚いてしまった。


「タスマール様。近くに来る用事がありましたので寄らせてもらいました。歓迎していただいてありがとうございます。」


「お久しぶりね。元気そうで何よりだわ。わざわざ寄ってもらって悪かったわね。いつ来るのかいつ来るのかと子供達がずっと楽しみにしていたのよ。」


「「ジュンイチさん、ジェニファーさん、お久しぶりです。」」


「大きくなりましたね。ちょっとびっくりしましたよ。」


「ほんとにそうね。結婚式の時から比べてとても見違えたわ。」


「「ほんとに!!」」


 お茶をいただきながら少し話していたんだが、子供達にせがまれて遊ぶことになった。ちなみにルイアニアさんは仕事で出かけているようだ。


「勉強とかはいいの?」


「うん、もうちゃんと今日の分は終わったし、二人が来たらその日は特別に遊んでいいと言われていたから大丈夫だよ。」


 結局この日はかなり遅くまで庭で遊ぶことになってしまった。飛行魔法も使ったので結構疲れてしまったよ。



 夜にルイアニアさんが戻ってきて一緒に食事をすることになったんだが、あと10日もしないうちに王都に戻るらしく、折角なら一緒に戻ろうという話になってしまった。そしてそれまではここに泊まるように言われてしまう。さすがに断ることはできなかったよ。


 貴族が町を移動する際、いくら自前の護衛を雇っていても、最低1パーティーの冒険者に護衛依頼を出すことになっているらしい。どうやら腕のいい冒険者の保護の意味があるようだ。

 いつも同じところに護衛依頼を出しているようだが、自分たちにも護衛依頼を出してくれるといわれて素直にお礼を言う。ただもともと依頼しているところに挨拶はしておいた方がいいだろうな。




 翌日役場に行って討伐依頼の報告を行う。事前に受けていた大白兎の素材の依頼だが、まだ規定数には達していないようなので買い取りをお願いした。結局狩ることのできた大白兎は全部で38匹と多いか少ないか分からなかったんだが、1日1~2匹狩れればいい方らしく、この数はかなり多いようだった。索敵能力の差だろうか?

 素材である毛皮の状態がかなり良くて満額の支払いとなったため、1匹2500ドールの買い取りで全部で9万5千ドールとかなりの額になった。他にも白狼などの素材についても買い取ってもらったので久しぶりの大きな収入だ。


「ルイドルフ・ルイアニア爵から護衛依頼が出ていますが、ご存じでしょうか?」


「ああ、はい。いつもの護衛のパーティーに加えて自分たちにも護衛依頼を出すと聞いています。」


「承知しました。すでに話が通っていたようで安心しました。

 あそこの家が複数のパーティーに護衛依頼を出すことは珍しいことなのですよ。もともとかなり実力のある護衛を雇っていますからね。特に盗賊や魔獣が出ているという話は聞いていないのですが、なにかご存じでしょうか?」


 やっぱり通常頼むパーティーは決まっているみたいだな。たぶんいきなり護衛を追加されたはずなのでいい気分ではないだろうな。


「いえ、そのような話は聞いていませんね。自分たちもこのあと王都に戻る予定でしたので、折角だから護衛として同行することになったんですよ。」


「そ、そうなのですね。」


「一緒に行動するパーティーの方達は今はこの町にいらっしゃるのでしょうか?」


「この町を拠点にしているのですが、今は狩りに出ているので戻ってくるのはもう少し後になるかと思いますよ。護衛依頼はすでに受けていますので、遅くとも出発予定日の5日前には戻ってくるはずです。」


「分かりました。どうせなら出発前に一度顔合わせをしておきたいと思っていますので、もし不都合なければ連絡をお願いします。狩りに出る予定はないので、連絡をもらえればすぐに顔を出せると思います。」


「承知しました。その際にはまたご連絡いたします。」


「お願いします。」



 折角なので港に行って魚を仕入れたり買い物したりしてから屋敷に戻る。ソラニアくんとクリスティファちゃんは今日は勉強や訓練をちゃんとやっているみたいで、4時から1時間だけは自分たちが相手をすることにしている。


 翌日からは買い物に行ったり、図書館に行ったり、屋敷にある本を読ませてもらったり、護衛の人たちと一緒に鍛錬したりといろいろと忙しくしていた。

 屋敷の人たちにはラクマニアさんの知り合いのヤーマンとハクセン両国の下位爵と説明されているらしく、かなり丁寧な対応で正直困ってしまう。最初は護衛の人たちも気を遣っていたからなあ。そこそこ実力があると分かってからは、ちゃんと相手してもらうようになったけど、最初はけがをさせてはまずいという感じでかなり手を抜かれていたからね。


 奥さんのタスマールさんとはお茶をしたりしていたんだが、ジェンはかなり気に入られたのか、一緒に買い物にも行っていた。もちろん二人だけではなく、護衛の人も一緒だけどね。



~ルイアニア護衛Side~

 ラクマニア様の知り合いという方がルイアニア様の屋敷にやって来た。数年前にラクマニア様の屋敷にやって来たこともあり、二国で爵位相当となる褒章を受けているというかなり珍しい方だ。

 私は同行していないが、ルイアニア様だけでなくラクマニア様もわざわざ二人の結婚式に参加されたと聞いて正直驚いた。ラクマニア様が結婚式に参加されるのは王族や上位貴族くらいだったからだ。いくら二国の爵位を持っているとは言え、下位爵の二人の結婚式に参加するというのはよほどの関係と言うことだろう。


 正直どういう態度をとっていいか分からないので接触はできるだけ持たないようにしようと思っていたのだが、訓練の相手をしてほしいと言われて焦ってしまった。もし相手にけがをさせてしまったらどうなるのか考えるだけでも怖い。ラクマニア様と懇意にしているという相手ならなおさらだ。

 良階位の冒険者と言うことは聞いていたが、実力は思った以上に高かった。最初はかなり手を抜いて相手をしていたのだが、すぐに本気で相手しなければならないことになった。

 特に防御について優れており、本気を出してもなかなか攻めきれないレベルだった。私より上の実力を持つ同僚もかなり驚いており、魔法の方が得意と言うことは魔法に関しては優階位のレベルがあるのではないかと噂している。

 爵位を持っていると言うことでかなり気を遣っていたのだが、本人は爵位相当であくまで平民ですよとあっけらかんと言っていたこともあり、数日経った頃にはかなり溶け込んでいた。ジェニファー様はお酒が好きらしく、いろいろとお酒を秘蔵していたようで、おすすめというお酒を飲ませてもらってみんなかなり盛り上がっていた。


 ジェニファー様は奥様とお出かけすることもあり、かなり仲良くされていた。奥様の表情を見てもかなりリラックスされているのが分かるくらいだ。娘のような妹のような扱いをしているのは正直言ってほほえましい。クリスティファお嬢様が大きくなったときはこういう風なことをしたいのかもしれないな。

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