231. 異世界1650日目 遺跡の壁画

 車を走らせて3日目にトニアの町に到着する。役場に行って遺跡のことを確認すると、遺跡入口の鍵の解除方法について教えてくれた。調査許可証があれば入る許可はもらえるようだが、遺跡の鍵は毎年変えられるので、入れるのは来年の春までらしい。

 遺跡はここから3日ほど歩いた山の麓にあるようだが、良階位くらいの魔獣が出るエリアになるので注意するように言われる。途中まで道はあるが、車で走れるようなところではないみたい。しかもしばらく使っていないのでどうなっているのかは分からないようだ。


 距離を考えると自分たちの移動速度でも1日では着けない感じなので今日は町で泊まってから明日の朝一に出発した方が良さそうだ。

 宿を確認していくが、あまりいいところがなかったので、貴族用の宿に泊まることにした。ちょっと割高だけど、安全や設備がいいところの方がいい。

 このあとは役場で資料を見たり、適当に町をぶらついたりして夕食をとって眠りにつく。明日から拠点に泊まれるかどうかも分からないので今のうちにしっかりと休んでいた方がいいからね。




 翌朝早めに出発する。道はかなりあれてきているが、道路の体裁は残っているのでまだ走りやすい。それでも道幅は狭いので慎重に索敵しながらの移動となるのでそこまでペースを上げることができなかった。

 お昼はサンドイッチくらいで簡単に済ませ、時間はまだ早かったが行程の三分の二くらい進んだところで拠点を出して泊まることにした。調べた感じだともう少し先に進むと良階位の魔獣が出てくるようなので、下手に良階位の魔獣が出るところまで行くよりも、ここで休憩を取って明日朝早く出発した方がいいだろう。




 翌日早くに出発してしばらく行くと、良階位の魔獣の気配が見つかった。この辺りにでる良階位レベルの大きめの魔獣は白狼、大白兎、巨魔鹿だが、巨大蜘蛛や猛毒スライムなども油断すると不意打ちを食らうので気をつけなければならない。

 今回最も気になるのは白狼だ。以前遺跡で襲われて死にそうになった魔獣だからね。


「ジェン、白狼がいるみたいだけど、大丈夫?」


「ええ、まだ対峙してみないと分からないけど、大丈夫だと思うわ。あのときより強くなっている自覚もあるし、似たような魔獣も倒しているからね。イチの方こそ大丈夫なの?」


「ああ、たぶんジェンと同じような気持ちだと思うよ。ただ完全に白狼に対する恐怖心を払拭するには一回倒さないとだめだと思ってる。」


「そうね。まずはいつものように倒して、大丈夫そうだったら私も前に出てやってみるわ。」


「わかった。まずはもっとも安全と思われる方法で討伐してみよう。」


 やっぱりまだ白狼には苦手意識があるよなあ。死にそうになったんだからしょうがないけどね。でも気持ちを切り替えるためにも倒して前に進まないといけないな。



 しばらく進んだところで白狼を見つけたが、こっちが先に見つけることができたのでよかった。他の魔獣の場所も確認してからジェンと再度倒す方法を確認する。


 まずは自分が魔法で攻撃を仕掛けるが、予想通り避けられてこちらに襲いかかってきた。近づいてきたところで収納魔法から盾をだして左右に逃げられないように挟み込み、正面に水盾を出して勢いを止める。ここでジェンが雷魔法で攻撃し、動きを若干鈍らせることができた。雷魔法の効きは悪いが、水を浴びせた後だとそれなりに効果はあるからね。少しでも動きを遅くできるのはかなり大きい。

 このあとは自分が前衛で剣で攻撃し、ジェンが後ろから魔法で攻撃する。さすがにオリハルコンの剣のせいか、剣の通りが良く、思った以上に早くととどめを刺すことができた。


 前は全く速度についていけなかったが、今なら雷魔法を使わなくても対応できそうだ。もしかしたら剣のみでも倒すことはできるかもしれないけど、素材の程度が悪くなるし、こちらの被害もそれなりに出るので余計なことはしたくないというのが本音だけどね。

 このあとジェンも同じように対応して倒すことができたので苦手意識は払拭できたと考えていいだろう。ジェンも短剣の斬れにかなり驚いていた。やはり高レベルの魔獣だと武器の差がかなり分かるね。


 大白兎も同じような感じで対応したので思ったよりも楽に倒すことができた。討伐依頼もあるのでこっちは索敵に引っかかった物はすべて倒していく。結構魔獣が多いのはあまり冒険者がこないせいなのかねえ?




 昼過ぎには遺跡に到着し、鍵を開けて中を確認する。入口から確認した感じでは中にいるのは並階位レベルくらいまでのようだ。ただ遺跡の周辺には良階位の魔獣の気配を感じるので先に倒しておいた方がいいだろうな。索敵にかかる範囲で魔獣の討伐を終えて、遺跡の内部の魔獣も討伐する。

 遺跡の大半は洞窟になっていて、すでに調査が何度も行われているせいか中には何も残っていない。ただ多くの部屋に壁画が描かれており、魔法で劣化を抑制しているようだった。


 この日は遺跡の中の広いエリアに拠点を出し、倒した魔獣の解体をしてから夕食をとる。


「近くの魔獣はあらかた退治しているし、遺跡の中には並階位の魔獣しかいなかったので見張りはなくても大丈夫だよね?」


「ええ、良階位の魔獣が出たとしてもしばらくは耐えられるから不意打ちはないと思うわ。」


「まあ、装備は全部外せないけどね。」


 やはり精神的には安心できなくて緊張はしていると思うし、装備も着けたままだけど、交代で見張りをするよりは休めるので見張りはなしにした。




 翌日から朝と夕方に近くの魔獣を退治し、その間に遺跡の壁画の確認を行う。朝と夕方に退治しておけば寝ている間に沸く確率も低くなるからね。



 最近文章が解明されて、神話の一部が見直されているが、やはり従来の神話を支持する反対勢力もあるみたいで、世間ではまだどっちが正しいのだろうという認識のようだ。


 書かれているのは先代の神が加護をやめたのではなく、スキルの一部を奪ってからこの世界から去ったと言うことだった。傲慢な人間達への反省のために奪ったらしいが、文明の崩壊につながったために新しい神が再度スキルを与えたということだった。ただやはりスキルのレベルという概念がないのでそこについての解読ができないようだ。

 原文を見てもそこまで詳しい内容が書かれているわけでもないからしょうがないだろう。そもそも解読も完全にできるようになっているわけでもないし、ここに描かれている壁画もなにを意図して書いたのかが分からないからね。


「やっぱり前の神がスキルを奪ったというのが正確なところなのかなあ?そして新しい神がスキルを戻したけど、いくつかのスキルのレベルに制約を設けたというところか。」


「ジョニーファンさんでも自然科学のレベルが3までしか上がっていなかったくらいでしょ?こっちの世界の人はそれ以上は上がらないし、それ以上の知識は得られないような制約がかけられていると考えた方が自然ね。知識とスキルがどういう関係にあるのかはっきりとは分からないけど、スキルが上がらないとそれ以上知識が得られないという風になっているのかもしれないわ。」


「いくつかのスキルに制約を加えてしまえば、鑑定などの他のスキルもレベルがあがらなくなるからなあ。」


「そのせいで収納バッグも作れないし、転移魔法も使えないって言うところなのかな?」


「もし自分たちがこのことを言ってしまったり、今自分たちの知っている知識を伝えようとしてしまうと何かしらされてしまう可能性は否定できないね。この世界のことわりを壊してしまうのはまずいと思って制約をしておいてよかったかもしれないよ。特にこの世界では神罰があると言われているから正直怖すぎる。」


「本当にそうよね。まあ神罰がどこまで本当なのかは分からないけど、神様の存在がここまで近いと怖いわよね。それでもいろいろと知識は広めていると思うけど、このくらいならまだ大丈夫なのかな?実際に発明品で祝福ももらっているわよね。」


「そう思わないと怖くてこれ以上何もできないよ。

 ただ当時の知識がなくなってしまったのは分かるけど、記録として残されたものがなくなっているのは何かあったのかな?それとも記録類はメモリーのような記録媒体になっていたせいで使えなくなってすべて失われたんだろうか?」


「それは分からないわね。紙の資料があったような跡はあったけど、単に年数的に残らなかった可能性もあるわね。紙を作る技術がなくなってしまって壁に書くようになったことも考えられるわ。錬金の技術もいったん失われたあとにまたできるようになってきたかもしれないしね。」


「こればっかりは新たな情報源でも発見されない限りは分からないよなあ。」



 遺跡の近くの魔獣の狩りに時間がとられたこともあり、遺跡の調査に6日ほどかかってしまったが、いろいろと確認もできたのでよしとしよう。討伐依頼の出ていた大白兎も結構狩ることができたしね。

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