230. 異世界1645日目 ハクセンの北の大地

 ラクマニアさんの家を出発してからまっすぐ北上する。さすがに主要街道と言うだけあってきちんと整備されているし、魔獣の姿もほとんどない。出てくるのは初階位レベルの魔獣くらいなので、車で通り過ぎていくことがほとんどだ。見かけたら討伐するのが義務なので魔法で攻撃していくこともあるけどね。

 拠点に泊まりながら10日間車を走らせ、北部エリアの中心都市ハルマニアに到着。さすがに中心都市といわれるだけあって人も多い。入口の混雑もすごいので貴族用の入口から中に入る。貴族用の出入り口でも少し行列ができているくらいだからね。

 かなり環境も変わっているのでまずはここで少し滞在して周りの情報を集めることにしたほうがいいだろう。とりあえずラクマニアさんに紹介してもらった宿へ向かうが・・・予想通りかなり高級そうなところだった。


「紹介状を出したらまた最上級の部屋とか案内されそうなんだよねえ。しかも無料で・・・。」


「ええ、そうでしょうね。」


「さすがにいつもいつも気が引けるから今回は別のところにしてもいいか?」


「イチがそう思うんならそれでいいんじゃない?それでも別に安宿に泊まるっていうわけでもないでしょ?」


「まあそれは最低限ちゃんとしたところに泊まるよ。」


 さすがに自腹でこの宿に泊まるのはもったいないので前に冒険者から聞いておいたおすすめの宿に泊まることにした。建物もきちんと清掃されているし、部屋も必要最低限の物はある上、シャワーとかもついている。まあ平民用なので最初に行ったところと比べるまでもないが、1泊800ドールでこのくらいなら十分だろう。

 夕食は宿の近くにある食堂で食べるが、やはり寒い地域になってくると、煮込み料理などの温かいものが名物となってくるようだ。あとお酒も度数の高い物が多くなってきているような気もする。ジェンは嬉々としてお酒を選んでいた。

 夕食は宿に併設する食堂で食べることにしたが、普通においしかった。ここにいた冒険者と思われる人たちとも話をしたが、やはり冬になると活動ができなくなるので動ける今のうちにできるだけ稼がなければならないとぼやいていた。ずっとこの辺りに住んでいるので寒くなったら南の方まで移動する考えはないようだ。

 彼らは冬になるともともと生まれ育った地方の町に行っているみたい。その町の護衛にもなるし、日帰りでそこそこの魔獣を狩ることができるので十分らしい。




 翌日は役場に行って依頼の確認をしてみるが、特に目を引く依頼はなかった。受付に話をしてみると、記録を見た後で提案があった。


「素材の確保のための討伐依頼が出ていますが、受けてみませんか?良階位上位の大白兎の毛皮が対象となるのですが、冬になる前にかなりの数の要望が出ているのです。毛皮の状態にもよりますが、普通のレベルでも2000ドール、状態が良ければ最高2500ドールと普段の買い取り価格よりも非常に高くなっています。」


 確かに通常は1500ドール、お店に出しても2000ドールは行かないはずなので買い取り価格はいいのかもしれない。ただこの魔獣を狩ったことはないはずだけど、なんで自分たちにこの話を提案してきたんだろう?


「大白兎は倒したことはないと思いますが、なぜ自分たちに依頼されるのですか?」


「ええ、通常は討伐実績を基準に依頼をするのですが、討伐実績に蹴兎と大蹴兎がありましたので提案させていただきました。

 雪の中での戦いだと大白兎の方が危険度が高いと言われていますが、雪がない状態であれば蹴兎の方が素早く、討伐の危険性は高いと言われています。その蹴兎の討伐をされていますし、それよりも格段に討伐の難しい優階位の大蹴兎を狩られているので問題はないかと思いますよ。」


 そういうことか。まあ、あれは魔道具を使ったからなんとか討伐できただけだけどね。でも蹴兎と同レベルなら何とかなるかな?まあ受けてみても損はないしね。


「いろいろと回っているところなので、この町に戻ってこれるか分からないのでちょっと厳しいかもしれません。」


「ああ、それでしたら大丈夫ですよ。討伐依頼はこの町だけでなく、大白兎を狩ることのできる北部エリア全体に出ていますので、納品はこの町でなくてもよろしいですよ。ただ正直な話をしますと、各支部の実績にもなるので、できればこの町に納めてほしいですけどね。」


 そういうことなら断る理由もないな。数の指定もないので最悪1匹は狩ることができるだろう。


「分かりました。それでは受けさせてもらいます。」


 このあと、置かれている資料を確認していく。この辺りにいる魔獣の特性はアルモニアと大きな差はないようだ。個体的にはこっちの方が若干小さいようだが、動きが素早いらしい。


 今回行こうとしているトニア遺跡はすでに調査は終了しているところなので最低限の管理しかされていないみたいだ。春に大規模な魔獣退治が行われ、夏の間は現地で管理を行うが、今の時期はすでに現地の管理は行われておらず、近くのトニアの町で入口の鍵を管理しているだけらしい。

 そこの遺跡は多くの壁画が残っており、古代ライハンドリア語の解明が進んだせいで最近再調査が行われたらしく、いくつか論文も発表されていた。ここの壁画は神話に関する内容が多いみたいなので、今回はその確認を兼ねての調査だ。

 管理をしていた時期からすでに1ヶ月以上経って魔獣が増えている可能性があるのでしっかり対策しておかなければならない。まあ優階位の魔獣はいないと思うが、良階位の魔獣はいる可能性はあるからね。



 ここ最近はあまり使う機会がなかったけど、一応防寒着についても対策を考えている。魔道具である程度寒さの緩和はできるが、やはりアンダーウェアのようなものは着たほうがいいからね。さすがにこの辺りの町だといろいろと売られているのでいくつか買い込んでおいた。


 ちなみにマントは購入していたんだが、最近はほとんどが町の中の変装用という使い方だ。町の中では護身用に鉄の短剣を身につけているけど、防具も結構いい物を着ているのでそれを隠すために使っている。

 最初の頃は暑さと寒さ対策、雨対策、野宿の時の寝具代わりとかに使っていたんだけど、今は雨の日はあまり動かないことが多いし、収納バッグがあるため寝るときの防寒道具も十分、暑さや寒さ対策にはベースとして魔道具がある、移動は車がほとんどということでなかなか出番がない。

 たださすがに年数も経っていたのでこの際だと買い換えることにした。前よりも薄くて丈夫な素材のせいもあり、一つ15000ドールと結構な値段となってしまった。買ったマントには耐久性向上と重量軽減の魔符核を刻んでおいた。レベルは低い物だが、それでもあるとなしでは重さとか耐久性が違うんだよね。


 いろいろと買い物をしていると思ったよりも時間がかかってしまったので結局この町で2泊することになってしまった。翌日の朝早くに出発して西にある遺跡へと向かう。

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