180. 異世界1164日目 王都モクニクへ

 今回の目的の一つである遺跡の調査をするためにまずは王都で調査の許可証をとらないといけないので王都モクニクに向かうことにした。王都はここから南西方向に6日ほど行ったところにあるのでそこまで遠くはない。途中に山とかもないからね。

 ここアラクからモクニクまでは主要道路なので道路もかなり綺麗に整備されており、警備もキチンとされているので移動には問題がなさそうだ。何もなければ4日くらいで着くだろう。


 昨日は一日買い物をして準備はすべて終わっているので朝早くに出発することにした。いくら交通量が多いとは言え、地球のような渋滞が出るほど車が流通しているわけでもないが、朝早いとさらにすいているので快適なのである。やはり走るペースが違うので目立ちすぎるしね。

 討伐も行き届いているみたいで索敵範囲にはほとんど魔獣の気配を感じない。出てきても初階位の魔獣がいいところだ。



 途中の町には寄っていくが、特に泊まる予定はない。町に入るときも優先して手続きをしてくれるので待ち時間も無いのがありがたいところだ。他に貴族がいてもペンダントの色を見せると先に手続きをしてくれるからね。やはり中位爵相当のペンダントを持つ人は珍しいようだ。まあ他国の下位爵なので特に接待しようという動きはないからいいけどね。

 町では食材関係を見て何か変わったものがあれば購入している。買い物の時は大量でないとき以外は普通にリュックに入れているし、車で入ったときには店員が車まで運んでくれるからね。


 途中の町は貴族エリアと平民エリアできちんと分かれてはいないんだが、使えるお店はやはり分けられていた。アラクの町ではそこまで気にしていなかったんだが、お店の入口にプレートが貼られており、それで区別されているようだ。貴族用は鷹のような鳥が描かれているもので、もう一つは人をかたどったような簡単な形のものだ。

 貴族用はもちろん貴族しか入ることができない。平民用には貴族も入ることができるが、ほとんど入ることはないらしい。商店などは両方掲げているところもあり、こちらはどちらも自由に入っていいことになっている。

 食堂や衣類のお店などは完全に別れているけど、食料などの生活必需品は共用という感じみたいだ。まあ貴族と言っても地方の町にそんなに一杯いるわけではないだろうからね。




 4日ほど走って昼過ぎにやっと王都モクニクが見えてきた。最初に目に入ったのは湖畔に建つお城だった。物語に出てきそうな眺めだね。壁はなにかで塗られているのか、白っぽい色になっていた。なかなか綺麗な城だ。

 町の北側が湖になっていて、その南側のちょっと高くなったところに城が築かれている。町はその湖の南側に広がっているようだ。

 湖を迂回してから東側の門に向かうと、すでに町に入ろうとする人達の行列ができていた。町は城壁に囲まれているので中は見えないが、城より高い建物は見えなかったので高さの規制をしているのかもしれない。


 ここには入口の門が3つあり、1つは通常の門、もう一つは許可証を持っている人の門みたいだが、どちらも結構人が並んでいる。列が長い方が初めて来るときに受付をする門だろう。入るだけでも一日とかかかりそうな気もするね。

 もう一つの門は貴族用らしく、列はない。使う人は少ないようだが、門はかなり立派な造りになっていて彫刻などかなり豪華に飾り付けられている。さっそく手続きをするとすぐに終了して町の中へ入ることができた。



 門の兵士に町の簡単な状況を聞くと簡単な地図を渡してくれた。ありがたい。町の北側に貴族エリアがあり、東側が鍛冶屋や商店などが多いみたいだ。西側と南側は住居が多いが、南西の方はあまり行かない方がいいと言われる。やはりどこの町でも治安が悪いところはあるみたいだね。



 町の大きさはヤーマンのサクラとあまり差が無いようだ。まずは最初に用事を済ませようと一応おすすめと聞いていた平民エリアにある宿を押さえてから町の南西エリアへと向かう。


 ここに来た目的の一つにスレインさんからの依頼があったのである。国の脱出を助けてくれたグループがここにいるらしい。もちろん表だっては話せないが、いくつか預かりものがあるので渡してほしいと言われていたのだ。



 変装してから南西エリアにある教会に行くが、結構寂れているのがちょっと気になるところ。中に入ると、少し年配のシスターと思われる人がやってきた。


「何かご用でしょうか?」


「いえ、単に神様への祈りを捧げに来ただけです。あと、もし病人がいるようであれば治療を行うことができますよ。」


「治療ですか?でも治療してもらっても払うお金はここにはありません。」


「いえ、治療代は必要ありません。自分たちの治癒魔法のレベル向上のためにやっているだけですから。」


「もしかして・・・


わかりました。もしそうであればよろしくお願いします。


 あ、挨拶が遅れて申し訳ありません。私はここの教会のシスターをしていますカロライナと申します。」



 外から見るとかなり寂れているようだったが、建物の中は綺麗に掃除もされていて荒れているという感じではない。たんに建物が古いと言うだけのようだ。


 かなりの数の子供達がいて、みんな結構痩せ細っている。治療よりも栄養をとらないといけない人が多いのでいつものように食料を寄付していくことにした。食材を見ると子供達はかなり歓声を上げていたけどね。治療もすませて一段落したところで本来の用件を済ませる。


「自分たちからの寄付に関しては以上です。あと、伝言がありますのでお伝えしますね。」


『お世話になりました。カルトニアのご加護と愛を授かりますように。チカより。』


 シスターが少し驚いた顔をしたが、それも一瞬ですぐに元に戻った。


「こちらは寄付になりますので運営資金として使って下さい。特に使い道については何も言いません。」


「・・・ありがとうございます。伝言の意味は分かりかねますが、寄付としてありがたくいただいておきます。」


「これ以上の話は不要だと思いますのでこれにて失礼します。


あ、そうだ。あまり関係ないことなんですけど、自分達の女性の友人の4人が昨年結婚したんですよ。そのうちの2人にまもなく子供を授かりそうなのでもし良かったらあなたからも祝福をお願いします。」


「そうですか、その友人達にも祝福があらんことを・・・」


 教会を出て宿に戻る。


「あれで伝わったのかな?」


「おそらく大丈夫じゃないかな?」


 スレインさんたちが国外に脱出する時に手伝ってくれた団体があるのだが、その窓口の一つがあの教会だったらしい。もちろん詳細までは話せないので確認は取れないが、聞いていた容姿も名前も一緒なので間違いないだろう。



~教会のシスター・カロライナ~

 ちょっとこのあたりには似つかわしくない感じの二人組がやってきたときは何かと思ってしまった。なにか因縁をつけられるのかと不安になったのだが、怪我をしている人がいれば無償で治療をするという話をきいてさらに驚いた。

 もしかして少し話に聞いていたさすらいの治癒士なのだろうか?治療をお願いするときちんと治療をしてくれた上に食料まで寄付してくれた。


 そのあとの言葉に一瞬驚いてしまった。なぜその言葉を知っているのだろうか?もしかして探りに来たのだろうか?でもチカというのはあの4人姉妹のことだろうか?


 それ以上特に追求も無かったのだけど、最後に言葉を残していってくれた。友人の4人というのはきっとあの4姉妹だろう。そうなのね、無事にヤーマン国について結婚して幸せになっているのね。よかった・・・。


 どこまで真実かわからないけど、手助けした人達が幸せになったと聞くのはとてもうれしいことだわ。

 寄付と言われたものも驚くほどの金額だった。これでまた他の人達の援助をすることができるわ。多くの女性を救ったと言われる聖女カルトニアの意思はきっと引き継がれていくはずだわ。

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