121. 異世界557日目 ハクセン国へ

 温泉宿を出発してからひたすら車を走らせる。拠点に泊まりながら国境の町のトレラムの町までやってきた。到着したのはすでに夕方近かったんだが、さっさとハクセンに移動することにした。


 受付には長い列ができているんだが、まあなんとかなるだろう。入国の時に払うお金はヤーマンからと同じく300ドールだ。身分証明証のチェックはあっさりと終わりハクセン側の町であるタブロムへと入る。


 ハクセンはアルモニアよりも貴族の権力が強い国と聞いているので気をつけないといけない。特にジェンは目立つのでありがちな展開にはならないようにフードを深めに被ってもらっている。できるだけ変なことにはならないようにしたいからね。


「そこまで気にする必要ある?」


「ありがちな展開にはなりたくないんだよ。大丈夫とは思うけど、貴族と平民できちんと分けられているところを見るとやっぱり貴族の権力が強いので気になるよ。」


 ハクセンに入って思ったのはお店の入口にマークが記載されていることだ。マークは貴族専用、平民専用、指定なしの3種類となっている。


「今の地球でこんなに分けられているところってほぼ無いだろ?どういう展開になるのかわからないからね。」


「まあ、全くないとは言わないし、誰でも入れないお店とかはあったけど、確かにここまで徹底しているのは見ないわね。昔海外では普通にあったらしいけどね。」


 事前に聞いていたところでは、他国の貴族でも貴族扱いとはなるようだ。貴族は身分証明証の職業か賞罰のところに記載されているらしい。貴族と一緒の場合は入ることができるらしいが、いい顔はされないみたいだ。まあ貴族のお店はほとんどが個室になっているからそこまで問題は無いみたいだけどね。



 こっちの世界の貴族は国によって若干の差はあるようだが、基本的に上位爵、中位爵、下位爵の3段階となっている。感覚的に上位爵が公爵・侯爵、中位爵が伯爵、下位爵が子爵・男爵という感じだろう。

 アルモニアは貴族が領地を治めているが、ある程度は任命制だ。ハクセンはそれぞれの土地をそれぞれの貴族が治めるという形となっている。とはいえ、あまりに横暴な貴族は平民からでも嘆願ができるようにはなっているらしい。どこまで対応しているのかわからないし、嘆願書もどこまで効果があるのかわからないが・・・。



 とりあえずはまずは聞いていた宿に行って今日の宿泊を確保する。入口には平民専用と書かれていた。このあと役場に行って資料などを確認してから夕食は宿の併設の食堂で食べることにする。武器とかも見てみたいけど、それはもっと大きな町で見ればいいだろう。


 宿は平均的なところよりは若干ランクが下がるという感じか?まあその分値段が安いんだが、いいところは貴族専用となってしまうらしい。また平民用の高級宿はあまりないみたい。依頼は王都のハルストニアに移動しなければならないので、ここからだと15日くらいだろうか?



~ジェンside~

 マイムシの町を出発してから拠点に泊まりながら移動を繰り返した。拠点では二人で料理を作ったりしてなんか新婚気分だわ。結婚しても一緒に料理を作ったりするのかなあ?なぁんて考えていたらちょっと恥ずかしくなってしまった。



 イチが行きに泊まった温泉宿に今回も泊まりたいというので寄っていくことになったけど、今回は温泉を堪能したいので3泊はしていきたいというので久しぶりにのんびりしようと言うことになった。ここに泊まっている間は訓練も禁止としたので本当に久しぶりののんびり気分だ。


 部屋に入るとイチは予想通りお風呂に行ったので私も後から入ることにした。私が入ってくるのは予想していたのかあまり驚きはなさそうだったけど、水着を着ていないとは思ってないようだったわ。ふふふ。

 体を洗ってから湯船に入ってしばらくしたところで気がついたみたいでかなり驚いていた。そのあとのイチはかなり挙動不審に陥っていたのがおかしくて、笑いを堪えるのが大変だったわ。私が手をイチの顔に当てたところで勢いよくお風呂から出て行ったので、やっぱりまだまだかな。


 部屋に戻るとイチはくつろいでいたんだけど、襲いたくなるような発言をしてくる。その勇気も無いのにね。襲ってくるくらいならもうとっくに手を出しているでしょ。



 温泉は地球にいた時も結構あちこち行っていたみたいでいろいろな話を聞かせてくれた。行ってみたいなあ・・・。戻ったら連れて行ってあげると言ってこないのは記憶がなくなってしまうと思っているからだろうな。ちょっと悲しい。

 そう考えるとこの世界のことは夢みたいなものなのかな?でも、それでもいいの。記憶が完全になくなるわけではないみたいだから、いっぱい思い出を作っていたら元の世界に戻っても何か覚えているかもしれないわ。




 夕食の前に少しお酒を飲みたいのでつまみになりそうな料理だけ先に出してもらっていた。お酒の持ち込みについて係の人に聞いていたのだけど、係の人がなぜか驚いて出て行った。少しして戻ってきたときにはオーナー達を連れてきたので何があったのかと思ったわ。

 お酒が大好きみたいで、今回見てもらったお酒がどうしても気になったらしい。まあかなり珍しいものらしいからね。ここまで言われるとさすがにかわいそうなので試飲してもらうことにしたんだけど、かなり感激したのか最上級の部屋に変更してくれたのには驚いたわ。

 あとで聞いたところ、オークションの値段はまだ安い方だったらしいのよね。どうやら自分たちがギリギリに持ち込んだので参加者が少なかったみたい。あとで出品していたことを聞いてかなり悔しかったらしいわ。



 翌日からの食事はかなり豪華になって十分すぎる内容だった。デザートの果物は美味しかったけど、値段を聞くのが怖い気がする。昼は町の中をぶらぶらとデートして楽しかった。久しぶりにゆっくりした感じだったわ。


 この日の夕食ではイチも結構お酒を飲んでいたんだけど、かなり酔っ払ったみたい。早々に寝てしまったので私もベッドに入って眠りについた。まあ拠点だとそこまで気を抜けないからねえ。


 夜中におもむろに抱きしめられたので侵入者かと焦ったんだけどイチだった。酔っ払ってこっちのベッドに来てしまったようだ。

 寝ぼけているのか私に抱きついてくる、ん・・・胸に顔を押しつけないで・・・。なんかいい夢を見ているのか笑っているような表情をしていた。仕方が無いかと諦めて抱かれるままにしておいた。




 翌朝イチの声で目を覚したのだけど、どうやらまた私が冗談でイチのベッドに潜り込んだと思ったみたい。でも私のベッドだとわかって焦っていた。まあ抱きしめられたけど、それ以上は何もしてこなかったし、朝の状況を見てもほんとに寝ぼけていたんだろうな。逆に責任とってって迫った方がよかったかな?

 こっそりと思い出しているのか顔をにやけさせているのは気がつかないふりをしておいた方がいいわよね。


 結局3泊もかなり豪華な部屋で温泉と食事を堪能できた。さすがにここまでしてもらうというのは悪いので、秘蔵のお酒を一本渡すと、かなり喜んでくれたのでよかった。




 ハクセンの国に入ってからイチからフードを被って顔を出すなと念押しされた。余計なトラブルに巻き込まれたくないからと言うことなんだけど気にしすぎよね。でも「ジェンはかわいいから、ほんとに危ないから。」と真顔で言われたら従うしかないわよね。

 うふふ・・・かわいいだって。言った後でかなり照れていたけど、からかうのはさすがにやめてあげたわ。

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