80. 異世界375日目 車を買うことにする

 朝食を食べてからすぐにチューリッヒ商会へ向かう。お店に到着すると、すぐにクーロンさんがやってきた。


「いろいろと考えたんですが、やっぱり昨日乗った車ではなくて候補にあったクロッサ-2にしようと思います。価格はどのくらいになるのでしょうか?」


 用意していたらしい書類をわたわたと見て答えてきた。


「手続きなど含めて新車で220万ドールとなります。」


 たしかスレインさん達は250万ドールで買ったとか言っていたよなあ。今は値段が少しは下がったんだろうか?でも新型とか言っていたはずだけど・・・。紹介状を書いてもらったから値引きしてくれているのかもしれない。


「わかりました。それでお願いしたと思います。ただ、いくつか付けて欲しい機能があるんですが対応可能でしょうか?」


「どういったものでしょうか?」


「付けてほしいものは鏡なんですが、この位置とこの位置に付けて欲しいんです。イメージはこんな感じになります。できれば微調整できるように動かせるようにしてほしいんです。」


 そう言ってルームミラーとサイドミラーの説明をする。


「これはどういうことに使うのですか?」


「ここにミラーがあると、走りながらでも後ろを振り返ることもなく確認することができます。なにか追いかけてくるとか言うときにもすぐに分かりますので便利だと思うんです。イメージは描いているとおりです。

 あと、音楽の再生の魔道具を設置することは可能でしょうか?静かになるので音楽とかを聴きながら走りたいので。もちろん魔獣石がセットできるタイプでかまいません。」


「ちょっとお待ちください。」と言ってしばらくすると店長をつれて戻ってきた。同じような話をすると、かなり興味を示したようだ。

 とりあえず車メーカーと相談してからとなるが、今の時点でどの程度の上乗せになるのかは不明との回答だ。おそらく数万ドールくらいだと言うことなのでお願いすることにした。まあしょうがないな。


 契約書を作ってもらい、とりあえず本体分のお金を220万ドール支払うことにした。できあがりは2週間ほどになるようだ。泊まっている宿を伝えて連絡してもらうようにしておいた。



 今聞いている話では10km走るのに少なくとも200ドールほどかかるらしい。一日の移動を考えると100~200kmとして経費が2000~4000ドールだ。

 ただ車に軽減魔法をかけて、さらに車の配線をこの間手に入れたものに変更すればかなり効率が良くなるのではないかと思っている。ただ配線を作るにはミスリルがいるのでそれが問題だなあ。他の金属についてはなんとかなりそうだけど。高いけどミスリルの装備品を購入して使うか?まあそれは追々考えよう。



 車のことはめども立ったのであとは納車待ちだ。昼食にはあっさりとしたサンドイッチを食べてから町を散策。サクラに来てからバタバタだったのでなかなかゆっくりできなかったので今日くらいはゆっくりしたい。

 いろいろと店を見て回り、衣類や雑貨を購入していく。やはり衣類はサクラが一番いろいろとそろっているようだ。まあ首都だしね。ただ・・・女性の買い物に付き合うのはやはりしんどいね。




 夕食はちょっと豪華にステーキを食べに行くことにした。ちょっと格式のあるお店なので服もそれなりの格好でいかないといけないので、宿に戻って着替えてから行くことにする。一応コース料理となっていてお肉は大角牛のお肉だったが、いい具合に焼き上がっていておいしかった。

 値段はやっぱり高かったけど、たまにはこういう料理を食べておきたいものだ。まあ副収入とかもあるからこんな贅沢ができるんだけどね。でもそれに溺れないようにしないといけない。


 夕食の後は宿に戻ってからお風呂に入る。そのあと魔法の訓練をしたりしながら今後の予定などを話して就寝。



~クーロンSide~

 俺はチューリッヒ商会という車販売店に勤めている。車が好きで、いろいろと勉強してやっと昨年採用されたところだ。まだ入って1年目でなかなか売り上げを出すことができなくて困っている。

 車はもともとそんなにいっぱい売れるものではないため、新規のお客は少なく、買い換えのお客が多いのがこの業界だ。ある程度顧客をつかむと定期的に売り上げを出すことができる。

 買い換えの顧客にはすでに担当が決まっているため、新人の俺は新規の顧客を見つけるか、引退する先輩から顧客を引き継ぐしかない。車を買うような知り合いはもともといないからな。


 このため店の雑用はすべて自分に押しつけられている。売り上げによって順位がつけられているので売り上げのない俺はいつも最下位だ。まあ雑用をすれば最低限の給料をもらえるので文句はないんだが、やっぱり車を売ってみたいものだ。

 商会の方針としてお客さんに対しては正直に説明することをモットーとしているので商会の販売実績はそれほど高くないようだが、ここで働いている人達はそれでいいと考えている。知り合いの店の販売員はかなり強引に買い換えを勧めているという話も聞いているが、それは店の方針なので口を出すべきではない。



 新規の顧客をつかまないといけないのは山々なんだが、購入しそうなお客が来ると大体は先輩達に先にとられてしまう。販売担当の店員は3人だが、購入しそうなお客が同時に3人も来ることはない。冷やかしでくるお客もいるんだが、対応しない訳にもいかないのがつらいところだ。

 今日も若い男女の二人がやってきたが、どう考えても購入しそうな感じではないので冷やかしだろう。女の子はかなりかわいいが、男と一緒に来ている時点で手を出す意味もない。案の定、先輩達に担当を押しつけられてしまった。


「いらっしゃいませ。お車をお探しでしょうか?中古車でしょうか?新車でしょうか?」


 どうせ買わないと思うが、ちゃんと対応しなければ店の評判が落ちてしまう。中古車だけでも買ってくれればいいんだが、中古車で安いものでも数十万ドールするので簡単に買えるものではないんだよな。


 声をかけると、紹介状を持ってきたので店長に渡してくれないかと言ってきた。店長に?そんな簡単に店長に紹介状を渡すなんてできないぞ。誰からの紹介なのかと聞いてみると、カサス商会のカルニアさんと返事があった。カルニアさんって支店長の?そんな馬鹿な!?


 紹介状を受け取って確認してみると、カサス商会の刻印が目に入った。カサス商会はこの店もお世話になっているところで、この刻印は何度か見たことがあるので間違いはないと思う。もしかして本当なのか?

 間違いがあってはまずいと思い、二人にはテーブルを勧め、大急ぎで店長のところへと向かう。係の人には最高級のお茶とケーキを出すように指示しておいた。



 店長室に行って経緯を説明するが、やっぱり半信半疑だ。しかし手紙を見ると顔つきが一変し、中に書かれている手紙を読んでさらに顔がこわばっている。自分にも読むように言われて読んでみると、カサス商会のかなり重要な地位の人たちで会長のコーランさんにも一目置かれている人達らしい。あの二人が?見た目は若いが実は年配の人なんだろうか?


 大急ぎで二人のところに行き、店長自ら案内を申し出る。もちろん新規顧客はほしいが、自分には荷が勝ちすぎている。そう思ったんだが、「いやいや、店長自らだと気を遣いそうですから、最初に来てくれた店員の彼にお願いしたいのですがいいですか?」と言ってきた。本気か?


 結局自分が案内することになるが、緊張してうまくしゃべれない。ジュンイチさんとジェニファーさんも気を遣ってくれてなんとか普通に話をすることができる様になった。自慢ではないが、車に関する知識は他の人に負けない自信はあるのでできる限りその車の特徴と自分なりに気がついた問題点を説明していく。


 候補となった車は6人乗りくらいのものから3種ほどに絞られた。価格は200~300万ドールとかなりの高額となるが、特に問題ないみたいだ。また維持費についても簡単に説明をしておく。

 まだ免許は取得していないため、自分が助手席で指導しながら店内と郊外を少し走らせて体験してもらう。残念ながら候補の3台のうち2台しか試乗できなかったが、もう一台は知り合いが持っていると言うことだったので大丈夫だった。


 店長から最速で仕上げるので20日以内にできる様に言ってかまわないと言われているのでそのまま伝えると、明日には返事すると言って帰って行った。



 こう言って連絡がない人も結構いるんだが、翌日開店と同時に二人がやってきた。結局試乗はできなかったが、知り合いが乗っているというクロッサ-2にしたようだ。

 購入は問題ないんだが、いくつか取り付けてほしいという要望があった。鏡の取り付けについては最初意味が分からなかったが、話を聞くと確かに便利そうなものだった。店長にも確認してもらい、メーカーに相談すると言うことになった。


 このあと契約書を作成し、支払いをしてもらった。支払いは一括だったのでちょっと驚いたが、カサス商会の上の人であればそのくらいは持っているだろう。今まで手伝いで契約書を作ったことはあったが、自分の契約書を作れてかなりテンションが上がってしまった。


 二人とも俺のことを気に入ってくれたようで、また買い換えるときには来るからと約束してくれた。目的は伝えたとおりなので、お勧めの車があるのならチェックしておいてと言われる。初めての顧客だ、大事にしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る