27. 異世界59日目 パーティーを組んでみる

 あまり眠れないまま牢屋の中で朝を迎える。ご飯があまりおいしくないことと、ベッドが硬かった以外はまだ待遇は悪くなかったのでよしとしよう。まあ文化レベルも結構高いので罪人扱いとはいえそこまでひどいことはないのかもしれない。もちろん国によるとは思うけどね。


 朝にもう一度取り調べがあるというので部屋に入るとジェンが部屋で待っていた。


「ごめんなさい。私のことでトラブルに巻き込んでしまって・・・。」


 どうやら今回のことが自分につきまとっている人が相手だったことを聞いてかなり落ち込んでいるようだ。


「いや、気にしなくていいよ。怪我もそんなになかったからね。」


 どうやら昨日のことについての確認と、身元引受人のような感じできてくれたらしい。申し訳ない。一通りの説明の後でやっと開放されたが、役場にも顔を出すように言われたので行くことになった。




 役場に着くと部屋に案内されて昨日のことについて説明を求められた。他の人からも事情を聞いていたみたいで、やはりジェンがらみのことでちょっかいを出したと言うことに落ち着いたようだ。


 もともとジェンが役場に来にくくなったのも彼らともめたことが原因だったし、パーティーへの強引な誘いに加え、他のパーティーへの恐喝なども行っていたようだ。ある程度の証拠を集めているところで今回の出来事があったため、彼らにはすぐに処分が下ったようだ。


 彼らは上階位だったが、並階位への降格の上、罰金が科せられたようだ。しかも数年間は上階位への昇格は見合わせになるようだ。どうやら上階位までは順調に昇格していったが、良階位へはなかなか上がれなくて徐々に悪い方向に行ってしまったようである。

 良階位からやはり昇格しにくくなることもあり、上に上がれなくてふてくされてしまう冒険者もそれなりにいるらしい。

 今回の処分は掲示板に張り出されるため、他の冒険者の手前しばらくは顔を出しにくくなるだろうと言うことだった。また、今回の事件でおそらく冒険者としてはまともな活動はできないだろうと言うことだった。


 こちらは特に反撃もしなかった(できなかったんだけどね)こと、状況的に巻き込まれてしまったということから特に罰則はないようだ。助かった。

 ただ彼らは罰則を受けたが別に捕らえられたわけではないので、さすがに逆恨みされて仕返しされることがちょっと怖い。自分たちへの接触を禁止されているが、町の中はまだしも町の外だとどこまで規制できるかわからないからなあ。

 一応、次に罰を犯した場合は犯罪者として鉱山送りなどになってしまうようだが、ばれなければいいと襲ってくる可能性はある。狩りに行ったときとか、一人の時にはできるだけ注意をした方が良さそうだ。



 今後のことも考えると、一緒に狩りをするのであればさっさとパーティー申請をした方がいいと言われる。そうすればパーティーへの勧誘は断りやすいし、そもそも勧誘してくる数はかなり減るらしい。

 昨日狩りをしているときにパーティーの話はしていたのでこの場でパーティー申請をすることにした。パーティー名は”アース”。もとの世界に戻ることを祈っての名前だ。




 ジェンは午前中は休みをもらっていたようだったので一緒に遅めの朝食をとることにした。とりあえずパーティーを組むことにしたんだが、今後の方針を決めなければならない。本当なら昨日の時点で話を進める予定だったが、トラブルのせいでその後の話ができていなかったのである。



 今後この世界で生きていかなければならないことになったが、問題点は多い。まずいつ戻るか分からないことについては正直どうしようもない。ただ可能性として少なくとも数年単位になることも考えられる。そうすると最低限は生活基盤を整えなければならないだろう。


 収入に関しては昨日の結果を見る限り冒険者としても結構稼ぐことができそうな感じだ。体調を崩したら収入が途切れてしまうが、治療レベルも上がってきているし、なんとかなりそうな気もする。

 年をとらないことについてはある程度までは老化しない種族もいるみたいだから少々であればごまかせそうな気もする。ただし10年単位になってくるとまずいかもしれないが、拠点を変えていけばまだごまかせるかなあ?これはそれだけ長くなってしまったときに考えればいいだろう。



 自分の思っていたことを説明すると、ジェンも考えは同じみたいであっさりと冒険者として生活していこうと言うことになった。もちろんやっていけないときのことも考えて魔法や技術などの他のスキルなども鍛えていくことが前提だ。どちらにしてもお金は稼がないと習うこともできないのでまずは貯金していくことからである。



 ただ二人ともやはりゲームのような世界で冒険者として生きてみたいという気持ちがあるのは間違いないだろう。

 しかしゲームと違ってやり直しはきかないので、まずはこの町を拠点にしてある程度実力をつけておこうと言うことになった。可能ならばスキルレベルを3くらいまで上げておきたいし、その他のスキルもできるだけ手に入れておきたい。




 宿に戻ってから宿の主人であるメイサンに冒険者業に本腰を入れるために宿の手伝いをやめたいことを話したんだが、引き留められてしまったようだ。

 どうやらジェンはアメリカ人なんだが、日本のアニメとか文化に興味があったのでいわゆる”おもてなし”といわれるような日本的な接客対応をしていたらしく、かなり人気があったようだ。まあ見た目のこともあるんだろうけどね。

 結局半分折れる感じで宿代を半額にする代わりに忙しいときにできる範囲で手伝いをすることになった。



 このあとお金やアイテムの話をしたところ、ジェンは最初にもらったお金は防具や講習に使ったくらいでほとんど使っていなかったらしく、残金はおおよそ3万ドールくらいあるようだ。イチは何に使ったの?と言われたので同じような感じかなとごまかしておいた。なんか含み笑いをされたような気がするが気のせいとしておこう。

 あと最初にもらった薬は結構使ってしまったらしく、残っているのは中級治療薬1本と初級回復薬2本と中級回復薬2本だった。


 装備関係はしばらく現状のままで良いとして、徐々に強化していかなければならない。この間ののみの市のこともあるのでそこで掘り出し物を探す方向で考えてもいいかもしれないが、防具に関してはサイズのこともあるのでなかなか難しいんだよね。やはり素直に鍛冶屋かな?



 今後パーティーとして活動していくことを考えて、パーティー資金の積み立てを提案したんだが、面倒だからお金はすべて管理してくれと言って持っているお金を渡してきた。


「いいのか?まだ会って数日しかたっていないのにそこまで信頼してなにかあっても知らないぞ。」


「いいの。いままでいろいろな人に会ってきたけど、イチは信頼できる人と思ったから。これからもよろしくね。」


 何をもって信頼してくれたのかは分からないが、信頼に応えるように頑張ろう。


「ただ、無理は言わないつもりだけど、なにか欲しいものがあったときは相談させてね。」


「それはもちろん。」


 すべてのお金を合わせると5万ドールくらいになった。あとは魔獣石も合成しておくが、どこかでちゃんと換金しないといけないな。おそらく3000ドール分くらいにはなっているはずだ。


 さすがに昨日はあまり眠れなかったこともあり、夕食を食べた後、早々に眠りについた。

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