24. 異世界56日目 どうやら手違いがあったらしい
朝食をとった後、ジェニファーさんの働いている”メイルミの宿”に移ることにした。宿を移ることは夕べのうちに言っておいたので部屋は確保してくれていたようだ。荷物を預けてからとりあえず5日分の宿代を払う。
昨日のこともあるので役場に行ってジェニファーさんのことについてお礼を言う。
「連絡とっていただいてありがとうございました。おかげで再会することができました。」
「ほんとに知り合いだったのですね。ちょっといろいろあって警戒していたので申し訳なかったです。」
「いえいえ、個人に関わる情報なのでその対応は普通だと思いますから気にしないでください。知らない人に簡単に情報を教える方がこっちも不安になりますので。」
「えっと、彼女冒険者の中で人気があるから気をつけた方がいいですよ。ソロで狩りをしているのでパーティーに勧誘しようとしている人も多いみたいなので。」
他には聞こえないように小声で教えてくれた。
まじか・・・。テンプレのイベントはやめてくれよ。そう思っていると後ろから声をかけられた。
「あんたが、ジェニファーのことかぎまわっているやつか?」
「・・・・」
「おい、なんとかいえよ!!」
「ああ、おはようございます。以前ジェニファーさんと一緒に狩りをする機会があって、こちらにいると聞いていたので挨拶できればと思って確認してもらっていたんですよ。おかげで昨日会うことができました。ジェニファーさんに連絡を取っていただいた方がいたようですが、あなたですか?ありがとうございます。」
とりあえず差し障りないようにしておいた方が良さそうだ。
「そうですね。昨日ジェニファーさんがやってきて、話しをしていたので知り合いであることは間違いないと思いますよ。」
受付の女性も援護してくれた。
「あまり変な行動をとるようだったら、覚悟しておけよ。」
さすがにそれ以上は何も言えなくなったのか、舌打ちしながら去って行った。やれやれ・・・。
「彼のパーティーが一番強引に誘っているのよ。それもあってジェニファーさんもあまりこっちに顔を出さなくなっているの。
時々宿にも行っていたみたいなんだけど、なにかもめたみたいで宿や食堂への立ち入りは禁止されているらしいわ。」
受付の女性がこっそりと教えてくれた。ジェニファーさんもなんか色々あったんだろうな。
このあと鍛冶屋ドルンに紹介してもらったドウダンという鍛冶屋に行ってみる。ここの店主がドルンのいとこらしい。鍛冶の腕は自分より劣るがまあまあのレベルだと言っていたのでおそらく同じくらいのレベルなのだろう。
お店の雰囲気はドルンのところに似ているが、こちらは杖・短剣などの魔術系の人がメインに使う武器を中心に置かれていた。短剣でも魔力強化をする効果が得られるものもあるようだ。数は少ないが、指輪の発動体も置いている。
魔術系の媒体もほしいけど、正直言ってお金が足りない。いずれはほしいんだけど剣を使うことを考えると一番使い勝手がよさそうなのは指輪とかになる。ただ指輪とかは他のものよりも値段が高いんだよなあ。
このあとジェニファーさんと待ち合わせた教会へと向かう。とりあえずできるだけ教会に行っていると話すと、自分も一緒に行くというのでやって来たのである。いつもは朝一で来るんだが、今回は彼女の仕事の都合でこの時間になった。
教会はアーマトとあまり差はない感じだった。いつものように祭壇の前でお祈りを捧げ、神様に現在のことを聞いてみる。
「聞こえますか?私はこの世界の神の1柱のアミナです。」
「「?」」
ジェニファーさんの方を見ると、驚いた顔でこっちを見ているので同じように聞こえているのだろう。
「声に出さなくても良いです。お二人に精神回路をつなげましたので頭で考えると伝わるようになっています。」
「「この世界の神様なのですか?」」
この世界には5柱の神がおり、それぞれの役割を担っているという話だった。神はイミザ、イギナ、アミナ、タミス、カムヒという名前で、イミザは男性神で自然と武、イギナは女性神で生産と芸、アミナは女性神で誓約と知、タミスは男性神で豊穣と技、カムヒは男性神で生命と術を司っている。
「そのとおりです。この世界のものでない気配の重なりを感じたのでやってきました。あなた方は別の世界から来られた方達ですね?」
「「そのとおりです。」」
「本当は10日間でもとの世界に戻るという話だったんですが、どうなったのでしょうか?」
「そうですね、異世界からの来訪者は過去に例がありますが、いままでは言われましたようにおおよそ10日間でもとの世界に戻っていったはずです。」
「それではなぜ自分たちはもとの世界に戻れなかったんでしょう?」
「・・・それは我々もわかりません。我々の力の範囲外となります。」
「普通であればもとの世界に戻っているんですね?」
「そのとおりです。過去にこの世界に来られた方たちはいましたが、死亡した方以外はすべてもとの世界に戻っているはずです。
残念ながらちゃんともとの世界に戻ったかまではわかりませんが、この世界から存在が消えているのは確かです。逆に他の世界に行ったと思われる方たちがこちらの世界に戻ってきているのは確認していますので大丈夫だと思います。」
あのときの説明は間違いではなかったと言うことか?
「自分たちも戻ることはできるのでしょうか?」
「もとの世界に戻れるかどうかについてはこちらでも分かりません。確認できないかやってみますが、それでも時間がかなりかかってしまうと思います。」
「「ぜひ、お願いします!!」」
「わかりました。今回は特別にあなたたちに精神回路をつないで話しましたが、今後も同じように話ができるとは考えないでくださいね。我々も神託や人の手助けをすることはありますが、通常は個人的なことに対しての神託は行いません。」
残念だけど、しょうがないかな。
「ただ、何かのトラブルがあったようなので、帰るまでの間の手助けとして私の祝福与えます。帰れるときまでこの世界を楽しんでください。」
「「ありがとうございます!!」」
頭の中から気配が消えた感じがした。
神父さんがやってきて「熱心にお祈りされていましたね」と声をかけてきた。夢じゃないよな?
教会を後にしてから少し早めのお昼をとることにした。彼女のおすすめのパスタのお店だ。
「さっきのことどう思う?」
「わざわざ下界へのチャンネルを開いてまで話してきたと言うことはなにか手違いがあったんでしょうね。」
「とりあえずもとの世界には戻れるというのはできそうだけど、問題は期間だなあ。」
「神様の感覚でかなり時間がかかるって人間で言えばかなり長期になると考えてもおかしくないわね。」
「たしかに。」
いつかは分からないけどもとの世界に戻る可能性は出てきたということだ。それまではなんとしても生きていかなければならない。どこかに就職して普通に過ごしていればいいというのは確かなんだが、ちゃんと稼ぐことはできるのかが問題だ。ジェニファーさんもどうするか悩んでいるようだ。
戻れる可能性はあるが、神様の感覚だと下手すれば数年単位だろう。場合によっては数十年となる可能性だってある。
こうなってくると気になるのが体の成長が止まっているという点である。いまのところ実感はないが、体の成長は止まると言っていた。こちらの人たちの通常の寿命は40~60年くらいで長生きの人でも80年くらいらしい。もちろん魔獣とかもいるのでもっと若いうちに亡くなる人も多いらしいが・・・。
人族系は種族により老化のスピードは違うが、老化スピードが遅いと言うだけで今の自分の年齢の容姿で安定するのはちょっと違和感をもたれてしまう可能性が高い。まあ10年くらいなら大丈夫だとは思うけど、それで戻れなかった場合まで考えた方がいいかもしれない。
かなり希少だが老化を抑える薬もあると言うことを聞いたことがあるので、冒険者だとそれを手に入れたということもできる。やはり普通にどこかで働くよりは冒険者として生きていく方がいいかなあ?冒険者をやりながらスキルを手に入れて、それを元にお金を稼ぐという手もあるかもしれないしね。
「ジュンイチ、一緒に冒険者としてやっていく気はない?」
いろいろと考えていると、ジェニファーさんからそう言われる。どうやら自分と同じような結論になったみたいだ。
「元の世界には私の大切な人がいるのよ。こんな形で別れたままもう会えなくなるなんて絶対にいやだわ。絶対に・・・。」
小さな声で自分に言い聞かせるようにつぶやいている。大切な人って恋人かな?これだけかわいいんだから、そりゃ恋人くらいいるよなあ。うん、別に残念とか思ってないよ。異世界小説のような展開は無理なことはわかってるよ。
とりあえず今度の休みの時に詳細を決めることになり、ジェニファーさんは仕事に戻ることになった。自分は午後に狩りに行くことにしたんだが、さすがに時間も短かったこともあり、今日の収入は半日で340ドールだった。索敵を使ってもそんなに簡単に見つかるわけでもないからねえ。
まあ冒険者になって2ヶ月程度の初心者が一応生活できるだけ稼いでいる時点で贅沢言うなという気もするけどね。
宿に戻ってからシャワーを浴びて夕食を食べる。夕食は焼き魚の定食だ。部屋に戻ってから早々に眠りについた。
ちなみに神様からもらった祝福について調べてみると、秘匿スキルのところにあった。アミナの祝福となっており、効果は知識吸収上昇となっていた。学識に関するスキル成長速度アップかな?これはかなりありがたい。
他にクラスのところに神の祝福というものがついていた。こちらの効果は物理耐性上昇と魔法耐性上昇となっている。防御力が向上したと言うことなんだろうか?
クラスに神の祝福と書かれているのはちょっと気になるが、まあ普段はそんなに見せることもないので大丈夫と信じたい。全く持っている人がいないというわけでもないみたいだしね。
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