23. 異世界55日目 同じ異世界人と遭遇するが・・・

 いつもの時間に起きてから支度を調える。宿は値段相応という感じなんだが、アーマトの時よりベッドの状態が良くない感じだ。やはりどこか別の宿に移ったほうがいいかなあ?

 とはいえ、どのくらい滞在するかもわからないし、まずは狩りをして見込まれる収入を把握しないといけないか。宿の移動はその後だな。もう一泊分のお金を預けてから郊外へと向かう。



 林の中に入ってこの辺りに生息している鬼蜘蛛や大蛇、大蟷螂を狩っていく。索敵を使うことで奇襲を防げるのがよかった。そうでなかったらいきなり攻撃を受けてしまう可能性もあるからねえ。


 鬼蜘蛛は自分の頭くらいの大きさで、大蜘蛛よりも強い毒をもっているので注意が必要だ。みためは鬼蜘蛛の方が地味な色合いで、素材はお尻にある袋を持って帰ればいいようだ。特殊な繊維の材料に使われるらしい。

 大蟷螂は子犬ほどの大きさのカマキリだ。両手の鎌の攻撃がちょっとやっかいで、結構切り傷をつけられてしまう。ただ手足を切断されるほどの威力があるわけではないのでまだ大丈夫。問題は団体で攻撃してくるのでやっかいなことこの上ないというところだ。1匹いると30匹いるという具合だ。しかも使える素材がないのでお金にはならない。初級治癒魔法が使えるので防御は無視してひたすら狩っていく感じだった。

 大蛇はアーマトの町の近くにいたものよりちょっと大きな感じがする。大蛇で面倒なのは素材の解体の方だった。丁寧にしないとお金にならないんだけど、時間もかかってしまう。早く解体魔法を覚えたい。


 あまり狩りをする人がいないのか思ったよりも効率よく狩りをすることができた。今日は早めの4時に上がることにしたが、成果は鬼蜘蛛が5匹、大蛇が2匹、大蟷螂が50匹くらいか?



 浄化魔法も使っているうちに進化したのか、最初は濡れた布で拭き取ったくらいのレベルだったのが今では水で軽く洗い流したくらいまできれいになるようになっている。狩りの後で簡単に綺麗になるのでかなりありがたい。

 イメージ通りに魔法が進化するって気持ちがいいものだなあ。おかげで服の洗濯も大分楽になった。最終的には洗濯しなくていいレベルまで進化させたいものだ。



 町に戻ってから素材を売ると全部で760ドールとなった。まずまずだな。買い取りのお店でも宿の情報を仕入れてみるが、なかなか決め手に欠ける感じだ。このあとなにか進展がないかと役場の中に入ると声をかけられた。


「あなたがニホンのジャパンからきたと言っていたジュンイチ?」


 振り返ると、冒険者という感じではなく、町にいる人たちのようなワンピースのような服を着た女性だった。なんか見たことがあるんだけど、もしかしてジェニファーさんか?


「ニホンのジャパンからきたと言っていたジュンイチなの?ニホンやジャパンって場所はどこで聞いたの?」


「My name is Junichi. I am from Japan.」


 とりあえず英語で話しかけてみた。もし分かるんだったらなにか反応を示すだろう。発音がおかしいかもしれないけど、英語を知っていたら少しは反応すると思う。


「え?」


 彼女の顔色が変わった。やっぱり英語を知っていると思っていいだろう。


「英語は苦手なのでこのくらいしか話せません。自分の出身が日本だからそう説明していたんですよ。ジェニファー・クーコさんでいいのかな?ササミさんとスイサイさんだったかな?という名前に聞き覚えはありませんか?」


「まさか・・・。」


 声を出しそうになるのを押さえるようにしてから小さな声で話しかけてきた。


「少し場所を移して話せない?」


 もちろん断る理由はない。

 受付の窓口で何か話した後、鍵をもらって戻ってきた。


「こっちへ。」


 どうやら役場の中の部屋を借りたようである。



 部屋の中にはテーブルと椅子があり、彼女が座った対面の椅子に腰を下ろす。彼女が何か小声で言ったと思ったら彼女の声がはっきり聞こえるようになった。


「聞かれても困るかもしれないので私たちの声は他にほとんど聞こえないようにしたわ。ただなにかしようとしたらすぐに解除するからそのつもりでね。」


 風魔法で空気の振動するエリアを制限したのかな?こんなこともできるんだな。さすがに少し警戒しているのは仕方がないか。


「あなたは地球からやってきたってことでいいんだよね?10日間ってことだったのになぜ戻れないの?どうやって戻ればいいの?どうやって私のことを知ったの?」


 矢継ぎ早に質問を投げかけてくるがすぐに答えられないことが多い。


「ちょ、ちょっと、落ち着いて。順番に話すから。それとそちらの状況も教えてほしい。」


「あ、ごめんなさい。ちょっと焦りすぎてしまったみたいね。」


「まず自分のことから話をするね。自分は地球の日本からこちらの世界に転移された高校2年生の大岡純一郎と言います。簡単に説明すると、今から50日ほど前にササミさんのいた場所に転移されました。このときにあなたの姿を見かけました。」


 とりあえずこちらのことを話さないと警戒して話が進まないだろう。


「・・・。ああ、やっぱりあの時いたのがあなただったのね。夢だと思っていてあのときはあまり周りのことなんて見ていなかったわ。」


「説明の後、自分はこの町の北東にあるアーマトという町に転移されました。10日間と言うことで冒険者のようなまねごとをやっていたんですが、10日たっても元の世界に戻れませんでした。

 どうなっているのか?本当に戻れるのか?といろいろと悩んだんですが、結論は出ませんでした。そのときにあなたのことを思い出して、会って状況を確認してみようと言うことを目標としてやってきました。ちなみにあなたのことは異次元課のササミさんに名前とこの町に転移されることだけ聞いていました。」


「私のことを聞いていたのね。よかった。同郷の人がいるだけで大分心強いわ。」


「とりあえず帰る手段もわからないので、地球の時よりも身近であるという神様に祈りを捧げていますけど、特に返答はなく、帰る手段についてはまったく思いつかない状態です。」


「そうなのね・・・。」


 かなり落ち込んでいるようだが、ここで嘘を言ってもしょうがない。


「私はね・・・・。」


 この後聞いた彼女の話を要約すると、彼女はアメリカの高校2年生らしい。日本のアニメや漫画に興味があったので異世界物の小説なども読んでいたようだ。残念ながら日本語は片言程度みたい。

 せっかくなので自分と同じように冒険者に登録して、魔法を覚えたり、魔獣を狩ったりして無理のない範囲で異世界を楽しんでいたようだ。


 10日目に転移されなかったとき、しばらく宿に引きこもっていたようだが、何か行動しないとということでとりあえず生きていくために働くことにしたようだ。運良く泊まっていた宿屋で住み込みの手伝いとして働かないかと言われて手伝いをしているようだ。

 今回の話は知り合いの冒険者から自分のことを聞いたのでやってきたらしい。「ニホン」や「ジャパン」という単語がやはり気になったようである。



 まずは自分のガイド本を見せて自分のスキルなどについて説明を行う。ここで隠し事をしても信頼は得られないからね。文字もいくつかわかるし、表記の順番が自分のものと同じなのである程度理解はしてくれたようだ。

 そのあとお願いすると彼女のガイド本を見せてくれた。同じような感じで表紙に時間が表示されており、中にいろいろと説明が書かれていた。一応異世界人補正のせいか読むことはできたんだが、書かれている文字が英語だった。読めても意味が分からない。

 とりあえずガイド本の中のスキルについて説明を受けながら確認し、そのあと確認をとってから彼女の鑑定をさせてもらう。


 ガイド本に書かれているスキルはこんな感じだ。


戦学-1、武学-2、防学-1

体術-2、片手剣-1、弓-2

演奏-3、歌唱-2、絵画-3、彫刻-1、舞踊-3、料理-2、裁縫-2

算学-2、自然科学-2、社会科学-4、生物学-2、植物学-2、地学-1、神学-2、医学-3、天文学-1、言語学-4

英語-5、スペイン語-4、ドイツ語-3、フランス語-3、中国語-2、日本語-2、ヤーマン語-5、ライハンドリア公用語-5

思考強化-1

商人-2

ガイド本-1


 鑑定結果はこんな感じだった。


名前:ジェニファー(ジェニファー・クーコ)

種族:猿人(異世界人)

生年月日:998年12月15日

年齢:17歳

国籍:ヤーマン国

職業:冒険者(初階位)

賞罰:なし


資格:なし

クラス:なし


スキル:

体術、片手剣、短剣、弓、一般魔法、火魔法、風魔法、水魔法、土魔法、治癒魔法、回復魔法、演奏、歌唱、絵画、彫刻、舞踊、料理、裁縫、英語、スペイン語、ドイツ語、フランス語、中国語、日本語、ヤーマン語、ライハンドリア公用語、思考強化、鑑定、商人、解体


知識スキル:

戦学、武学、防学、魔法学、魔素吸収、魔素放出、魔素操作、算学、自然科学、社会科学、生物学、植物学、地学、神学、医学、天文学、言語学、ガイド本



 どうやら合気道やフェンシング、日本のアニメに影響されて弓道をやっていたみたいでこれらの戦闘系のスキルがあるらしい。こっちに来てから短剣について少し習い、魔法と併せて魔獣を倒していたようだ。


 勉強は結構普通にこなしていたが、数学や化学は苦手だったらしい。ただ言語数が半端ない。あと一般教養と思われる舞踊とかが結構あるなあ。


 鑑定スキルを手に入れるためにいろいろと勉強はしたみたいだが、話を聞くとまだ知識スキルが見えないようなのでレベル-1なのだろう。


 ガイド本の話をすると、同じように学校の教科書や本のデータは取り込んでくれていたみたいだが、他のところはあまり読まなくてデータの追記がされていることには気がついていなかったみたいだ。機能は自分と同じみたい。



 今の仕事は朝の0時から2時までと5時から7時までの4時間勤務となっているようで、宿の受付、食堂の給仕をメインでやっているようだ。

 10日間に1日の休暇があるが、事前に話をすれば状況にもよるが休みを取ることはできるようだ。その分給料が減るみたいだけどね。1日あたり200ドールだが、宿泊と食事はただになるので結構割のいい仕事のようである。


 休みの日は魔獣狩りをやったり、買い物をしたりとかしていたみたいなんだが、まだ狩りの回数は数えるほどのため、冒険者の階位はまだ初階位らしい。

 彼女の休みは3日後なのでそれまでは休み時間などに情報交換をしようと言うことになった。



 せっかくなのでその宿の食堂で夕食を食べさせてもらったんだが、メニューになんか見慣れたものが並んでいた。オムライスって名前になっているけど、これって彼女が考えたんじゃないのか?

 聞いてみるとどうやら漫画に出てきておいしそうだったので家で研究していたようだ。せっかくなのでこれを食べていくことにした。久しぶりに食べたなあ・・・。


 宿に戻ってからシャワーをあびて荷物の整理をする。明日にはジェニファーさんの宿に移るつもりだ。一泊400ドールと今よりは高いが、そっちに移った方が情報交換しやすいし、宿もよさげだったからね。



~魔獣紹介~

鬼蜘蛛:

並階位中位の魔獣。森や林に生息する蜘蛛の形をした魔獣。大きなものは大人の頭くらいの大きさで、巣を張るわけではなく、木の上で獲物が通るのを待ち、頭上から襲いかかる。隠密スキルを持っているせいか、索敵に引っかかりにくく、見つけるのが難しいため、木の下を通る場合は注意が必要。

麻痺毒を注入する牙を持っており、大蜘蛛よりも毒性が強く、大人でも全身がしびれて動きにくくなる。見つけた際にはできるだけ退治しておくことが推奨される。麻痺した獲物は糸で縛ってから食べられるため、生きたままという恐怖と痛みを味わうこととなる。

見た目よりは素早いが、足を切ってしまえばとどめを刺すのは楽な作業となる。1本ずつでも足を切り落としていくようにするとよい。

素材としての買い取り対象はお尻にある糸を作り出す袋で、この中にある液体から特殊な繊維を作ることができる。この繊維で作られた衣類は高級品として取り扱われている。体には若干の毒が含まれているため食用にはできない。


大蟷螂:

並階位下位の魔獣。林や草原に生息している300ヤルドくらいの大きさの蟷螂の形をした昆虫型の魔獣。昆虫型に多く見られるように集団で行動するため、1匹見つけると少なくとも30匹はいると考えた方が良い。100匹を超える集団でいることも確認されている。

両手の鎌で攻撃してくるが、威力は低いため、手足が切断されることはないが、かなりの切り傷を負うことになる。集団での攻撃となるため、無傷で討伐できることは少ない。鎌部分以外の装甲は堅くないため、頭を切り落とすのが有効であり、防御は無視してひたすら倒していくことが多い。

素材としての買い取り対象はない。食用ではないが、一部地域では食べられている。

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