第56話賢者マリアの死

俺達が王都へ凱旋すると、盛大な祝賀パレードが執り行われた。


王へは魔王城にいたのは魔王ではなかったと説明したが、王は民の平穏のために魔王だったこととすると決断した。


国王は謹慎中の勇者エリアスを呼び出し、再度裁判を行った。


そして、アリシア、ベアトリス、アリスの名誉回復、シュツットガルド公達の悪政の件の主犯として、そして、禁忌の魔法、『魅了』を使用した罪で裁いた。


当然、極刑だ。


『エリアスは死を賜っても、皮肉な笑いを浮かべていた』


裁判の後、王都の宿舎で休んでいると、貴族の馬車が来た。


貴族の従者が俺を呼び出した、誰だろう?


彼の主は「ドレスデン伯爵」賢者マリアの父だった。


俺はドレスデン伯爵に呼び出された。何故、マリアでは無く、父親なのか、理由はわからないが、マリアは命の恩人だ。行かないのも不義理だ。そもそも、貴族の呼び出しに応じない訳にも行かない。


俺は馬車に乗せられ、いつか泊まったマリアの屋敷、つまり、ドレスデン伯爵の屋敷へと招かれた。


屋敷内には活気が無かった。


『何かあったのか?』


従者は俺を貴賓室に招くと、直ぐにドレスデン伯爵がやってきた。


「あなたがレオン殿ですか?」


「はい、伯爵様、マリア様にはお世話になりました」


「私はマリアの遺書を君に渡す事と、君にお願いがある」


「マリアさんの遺書?」


俺は思わぬ言葉に驚いた。


「マリアさんはまさか......」


「自害した。毒を飲んだ。私への当て付けだ」


「何故?」


「君は知ってるのだろう、マリアとエリアスの事を?」


「はい、マリア様から聞きました」


「マリアはエリアスの極刑が決まると、毒を飲んだ。私宛の遺書を読んだ。あの子はエリアスより先に逝った様だ」


「そ、そんなマリアさんが......」


マリアさんはエリアスを愛していた。


エリアスが唯一特別な女性として見ていた人、それがマリア。


「これが君への遺書だ」


「拝見します」


俺はマリアの遺書を読んだ


『レオンへ。馬鹿な女だと思うだろう。


 私はエリアスを想い、先に逝く、私は地獄へ堕ちるだろう。女神様は自害する様な人間を許さない


 だが、これでエリアスと地獄で再会できる


 地獄で私があやつを十分に教育する。それが私の務めだ


 父は凹んでいるだろうか?


 私は父への恨みを散々書いた


 父は自身の栄達の為、エリアスの家を滅した


 罪の無い人が大勢処刑された


 エリアスの心が黒く染まったのは父のせいだ


 私の家が悪魔の様なエリアスを生み出したのだ


 我が家の責任は大きい。お前の幼馴染や妹も元はと言えば私達の責任とも言える


 我が家の罪を私が背負うという意味もある


 お前と初めて会って、お前が虚数の魔法使いだと知って、決意していた


 お前は私の期待に答えて、エリアスの代わりに魔王を討伐してくれた


 お礼を言う。これで心おき無く逝ける


 最後に二つ頼みがある。一つはエリアスへの私の遺書を渡して欲しい


 そして、私がエリアスを想い、先に逝った事を知らせて欲しい


 エリアスがもし、それで人らしい心をほんの一瞬でも取り戻してくれれば、


 私は満足だ。頼む


 それともう一つは魔王のことだ。お前達が倒したのは本当に魔王だったか? 


 私は夢見の賢者の予言に従い、もう一つの調査を行っていた


 王は本当にあの王なのだろうか?


 賢王と名高いあの王が、この4年間で2度も大きな過ちを犯した


 一つはエリアスの家の処断だ。誰しもが我が家の罠だと考えていた


 確かに動かぬ証拠はあったろうが、もちろん捏造じゃ


 それが見抜けぬ王だったろうか?


 そして、お前の幼馴染と妹の刑......二つの過ちは勇者と虚数魔法使いに起こっている


 こんな偶然はあるのか?


 夢見の賢者は国内に魔王が侵入していると予言した


 誰が一番怪しいか?


 これは罪滅ぼしだ。お前の幼馴染と妹を死刑にした本当の犯人ともいえるのは誰か?


 私は死者だ。もう調べることもできぬし、わかっても魔王に対抗できる力はない


 お前に託す』


「マ、マリアさん」


マリアさんはエリアスの為に死んだ。彼女は最後の一瞬でもいいから、人間らしい心をエリアスに取り戻して欲しいのだ。


そんな理由で自分の命を......


それに国王が魔王?


「君に頼みがある」


ドレスデン伯爵は突然俺に声をかけて来た。俺に何かを頼むつもりらしい。


「なんでしょうか?」


「この家を継いで欲しい」


「......」


突然なので、驚いた。


「俺は奴隷です」


「エリアスに奴隷にされたのだろう?」


「元は平民です」


「どちらにせよ、君は何処かの貴族の家を継ぐ事になる。君は英雄なのだ。国王は君に貴族の地位を与える。貴族にとって、英雄を家に招くのは永栄だ」


「あなたはまだ、自身の栄達など考えているのですか?」


「違う、私は隠居する。そしてこれはマリアの遺志だ。君への罪滅ぼしだ。君の幼馴染と妹を奪った罪滅ぼしだ。マリアの遺書に君の幼馴染と妹の事が書いてあった。私もショックだった。娘だけで無く、多くの人が私の所業で、悲劇に見舞われた。自身の娘が死んで、皆の気持ちが良くわかる。愛する者を失った悲しみを......」


「......」


俺は何も言えなかった。


「私は宰相の座を辞す、そして、この屋敷の中庭を貸してくれ、野菜でも育てたい。今は、もう、政治や人と関わりたく無い。私の我がままを聞いて欲しい」


「しかし、私が突然こんな大きな屋敷になんて」


「だから、どの道、大きな屋敷を持つ貴族になるのだよ。君は」


「考えさせて頂きます」


「真面目に考えて欲しい、言いにくいが君は、片腕や、片目を失っている。これから生活するのは難しいぞ。それこそ貴族にでもならないと生活出来ない。もう、魔王はいないのだ」


俺はとにかく、結論を保留し、マリアの亡骸に冥福を祈り、マリアのエリアスへの遺書をもらい、この屋敷を後にした。

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