第39話ベアトリスの告白

「いい加減そいつにリザレクションをかけてやれ」


俺はベアトリスに言った。アリスは痛みをこらえ、うずくまっていた。


「まだ、いいんじゃない?それくらいの傷じゃ直ぐには死なないわよ、剣豪は」


「お前ら仲間なんだろう? 何故そんなに冷たくできる? ベネディクトだって仲間だったんだろ? あの時すぐにリザレクションをかけてれば生きていられた筈だ」


「なんであんなぽっと出の女の為にそんなことしなきゃいけないの? リザレクションは結構精神への負担が大きいの。すっごく疲れるのよ」


「つ、疲れるってお前、人の命だぞ!」


「虫けらの命に何の価値があるの?」


「ベアトリス、いい加減にしろ! これからはお前をもう妹とは思わない。俺の事も二度と兄とは呼ぶな!」


「本当、お兄ちゃんって酷い人ね。いったい私がいつもどんな気持ちだったか知ってるの? 知らないでしょう? そうやっていつもいつも自分の正義感を周りに押し付けて、私のことを傷つけて......お兄ちゃんてさ、私のことどう思ってたの? 私はね、お兄ちゃんのことがね」


「待て、ベアトリスお前、何を言って......」


だが俺の言葉は遮られてしまった。


「レオンのことが好きだったの。兄ではなく、一人の男の人として......レオンはそうじゃなかったでしょ? 違うの? 好きでもないのにどうしていつもいつもあんなに優しくしたのよ、おかしいでしょう? 好きじゃないならあんなに優しくしないでよ! 兄妹で愛し合って何がいけないのよ! 何か悪い事でもあるなら教えて!」


聞かなければよかった事もある。ベアトリスの気持ち......


そんな事考えた事もなかった。だって俺たちは兄妹なんだから。


俺は妹を散々に甘やかしてきた。


大切な、本当に大切な妹だ。だけど、一人の女として見たことは無かった。


「ベアトリス」


「何よ、どうせ気持ち悪いとかって思ってるんでしょ? いいわよ、もう。あんたなんか必要ない。だって今の私にはエリアス様がいるから。エリアス様さえいれば他に何もいらないの」


「ベアトリス、俺の事を恨むのは構わない。だけどな、これ以上エリアスと一緒になって悪事を働くのだけは止めるんだ」


「私達が悪事って? いったい何のこと言ってるの? 悪事を働いたのはお兄ちゃんの方でしょ?」


「俺達は商隊を護衛していただけだ。冒険者として」


「嘘よ、エリアス様が悪い奴らだって」


「そもそも犯罪者なら、殺すよりも生きたまま警護兵に引き渡した方がいいだろ? それを何故関係無い人まで殺す必要がある?」


「だって、エリアス様が、悪い奴らだから殺して構わないって」


「エリアスが言ったら、誰でも殺すのか?」


「殺すわよ。当たり前じゃないの。エリアス様はいつも正しいのよ」


「ベアトリス、お前騙されている。良く考えてみろ。悪人だからって、全部が全部殺して言い訳がないだろう?」


「そ、そんなの知らないわよ」


「もういいだろう」


エリアスが不機嫌に割り込んできた。


「お前ら、さっさとその二人のごみを持って帰れ。俺の気分が変わらないうちにな」


「......」


俺はベアトリスの事が気になったが、ここは無事に逃げる方が先決だ。


今の俺ではエリアスに勝てるかどうかわからない。


「レオン殿」


イェスタが俺を急かした。


「わかってる」


俺は渋々承知した。


「二人の遺体をもらい受ける」


俺達はシモンとベネディクトの遺体を引き取ると、その場を後にした。

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