第29話エリスの嫉妬

俺は焦った。エリスがもう激怒なのだ。


確かにとあれだけ他人とキス何回もしたら不愉快だろう。


逆なら俺は怒り狂う。


しかし、あれはあくまで従者契約の儀式なのだ。


「エリス、許して」


俺はいても立っていられなくなって、エリスの部屋を尋ねた。


俺たちはアルベルティーナの屋敷に宿泊させてもらっていた。


しかし、普段なら俺の部屋に遊びにくるエリスが今日は来ない。


絶対怒っている。


俺はエリスの部屋を訪ねた。


『コンコン』


ノックして俺はエリスに声をかける。


「エリス、いるかい?」


「いますよ。キス魔のレオン様」


やっぱり怒ってる。


「昨日はごめんね。虚数魔法の実験だったんだ」


返事がなかった。


「エリス、部屋に入れてよ。お願いだから」


しばらく、返事がなかったが、しばらくして返事があった。


「私の言う事、何でも聞いてくれます?」


「もちろんだよ。何でも聞くよ」


「じゃ、入っていいですよ」


俺はエリスの部屋のドアを開けた。


鍵はかかってなかった。


もしかして、エリスは俺が来るのを待っていてくれた?


俺は少し嬉しくなった。


俺のエリスへの依存度は日々増していた。


許嫁と妹にゴミ屑の様に捨てられた俺にとって、エリスは最後の希望だった。


エリスは俺に甘えてくれる。俺に好意を持ってくれる。


そんなエリスがとても愛おしい。。


エリスが家族に捨てられて奴隷となったのも、大きかったのだろう。


エリスが俺に良くしてくれたのも、俺に共感したからだと思う。


「エリス、昨日はごめんね」


「レオン様、レオン様はなんで私に謝るんですか? 奴隷の私になんか、レオン様の恋愛には関係ないじゃないですか?」


俺は驚いた。俺はエリスも俺の事が好きなんだろうと、だから俺についてきてくれたし、いつも懐いてくれたんだろうと勝手に思っていた。


俺の片思いだったのか?


「エリス、そんな事言わないでくれ。俺は君が好きなんだ」


「なら、どうしてこんなに宙ぶらりんなんですか? 私、レオン様のなんなんですか? レオン様は私の事、対等だっていいましたよね? でも、私はレオン様のなんなんですか? やっぱり、ただの奴隷なんですか? 変な期待させないで下さい。ただの奴隷なら身の程をわきまえます」


俺はエリスの言葉に驚いた。俺はエリスにはっきり彼女になってくれとは言ってなかった。


そうに決まってるじゃないかと思っていた。


でも、言葉にしなければ心配になるのか?


エリスは昨日のキスの事で心配になったんだらうか?


俺がはっきり好きだと言っていないから。


「ごめんね。エリス、俺、きちんと言ってなかったね。俺はエリスの事が好きなんだ。だから、だから俺と付き合ってください」


俺は今更ながら恥ずかしくなった。これで断られたらどうしよう。


今更、ドキドキした。なんで俺はこんなに基本的な事を忘れるんだろう。


俺はエリスと正式な彼氏彼女の関係になっていない事に今更気がついた。


「本当に、本当にいいんですか?」


「当たり前じゃないか、俺はエリスを失ったらもう生きていけない。俺にはエリスしかないんだ」


「本当ですか? 奴隷の私とお付き合いなんて? 本当に信じていいんですか?」


「何を言ってるんだ。今は俺も奴隷じゃないか!」


「レオン様は違います。違法に奴隷にされた。多分、訴えれば、平民に戻れます。でも、私は正真正銘の奴隷なんです。レオン様とは釣り合わない」


「そんな事ないよ。エリスは俺が荷物持ちの役立たずの頃も優しかった。君だけが、いつも優しかった。俺は本当に感謝しているんだ」


エリスはにこりと笑顔を見せてくれた。多分、俺にも笑顔が浮かんでいる筈だ。


「レオン様は勇者パーティで戦っていた時も、私に優しかったですよ」


俺は驚いた。正直にいうと勇者パーティで戦っていた頃はエリスに優しくした覚えはない。


「それは、ごめん。恥ずかしい事だけど、俺、勇者パーティで戦っていた頃、エリスに優しくしてあげられなかったと思う。ごめんね。本当にごめんね」


「いえ、レオン様は私を人間として扱ってくれた、だから、優しい人だってすぐわかりました」


「え? でも、俺、あの頃、戦いに必死で人を気遣う余裕なんて......生き残るのが、やっとで、他のメンバーみたいにタレントなかったから」


「それでもレオン様は私を人として扱ってくれたのです。他の皆さんは私を人と思ってなかったと思います」


俺はショックを受けた。俺の故郷には奴隷はいなかった。


だから、エリスとの接し方はわからなかったし、正直、優しくなんてしてなかった。


俺は自分の命を守るのがやっとだった。


それなのに他の人はエリスを気遣ってなかったなんて。


それは、つまり、他の人はエリスを人として見ていなかった。アリシアもベアトリクスも......


俺はイェスタについて聞いてみた。


「イェスタはどうだったの?」


「イェスタ様は昔も今も変わりません。イェスタ様は貴族だから、あれが貴族の接し方なんだと思います」


俺はつい聞いてしまった。


「アリシアやベアトリスは?」


エリスは黙りこんだ。


「ご、ごめん」


俺は察した。アリシアやベアトリスはエリスを人として扱っていなかったんだ。


「ごめん、ごめんね」


何故俺が謝らなければならないかはわからなかった。


でも、俺はひたすら謝った。


そんな俺にエリスがイタズラっ子の様な笑顔を浮かべて「レオン様、そんなに謝らないで下さい。それに、今は私の事好きでいてくれるですよね?」


「も、もちろんだよ」


俺は心の底からエリスにそう思った。エリスはイタズラっ子の笑顔でこういった。


「今日は何でも言う事聞いてくれるんですよね?」


「うん。もちろん」


「じゃ、添い寝して下さい」


エリスはそう言うとベッドに入ってにっこり笑った。


俺はエリスに添い寝をしてあげた。そんな事でエリスはずいぶんと喜んだ。


「レオン様、お鼻が高いですね。エリス、レオン様のお鼻大好き」


エリスは幼女の様に俺に甘えてきた。


彼女は14歳の時に奴隷として売られた。


今まで人に甘える事はなかったんだろう。


エリスの愛らしい笑顔を見て俺は思った。


この笑顔は絶対守る、離さない。


「エリス」


「なんですか? レオン様」


「キスさせて」


「は、はい」


そう言って、エリスは目を閉じた。

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