第22話 白で何が悪い!

「そこの怪人! 子どもたちから離れなさい!」


 空にふわふわと浮かぶ魔法少女ホワイトリリーが、ハンバーガー怪人に向かってそう叫んだ。


「あかん……間に合わへんかった」


 そんな姿を見て、ベルは隣でうなだれている。

 いや、自業自得じごうじとくでしょ。


 純白のスカートが揺れる。まるで背中にワイヤーがついているみたいにゆっくりと、重力に逆らって、地面へと降りてくる。

 まさに、空から現れた天使。怪人も、大人も、子どもたちも、離れた位置にいる私でさえも、その幻想的ともいえる美しさに言葉を発せないでいる。


 そして、時間がゆっくりと進んでいるかのようにやさしく地面へと着地する――


「おいみんな! このおねーちゃん、パンツも真っ白だったぞー!」


「俺も見えた!」

「おれもおれも!」


 なっ。

 なにいいいいいいいいいいい!?!?!?


「丸見えだったよな!」

「なー!」

「俺の方からはピンクのリボンついてるのが見えたぞ!」

「なんだよそれ、しょうがくせーみたいなパンツじゃんw」

「どうせなら、もっとエロいのが見たかったぜー」


 なにを言っている君たち――いやガキどもよ。


 魔法少女の下着を見れるとか、どれだけありがたいことかわかってるの!?

 男子ならもっと喜びなさいよ! 私だって見たかったのに!

 ああ、もっと近づいていれば……。


「なんや、なんであんさんも落ち込んどるんや」

「ほっといて……」


 魔法少女オタクとして、一生の不覚だわ……。

 ていうか小学生みたいってなによ! 中学生だって白の下着くらいはくから!


「私だって今日は白だし……」

「ん? 白がなんやって?」

「な、なんでもないから!」


 念のためスカートを押さえとく。見れば、ホワイトリリーも同じ仕草をとっていた。


「ちょっと君たち!」


 さすがのホワイトリリーも、恥ずかしいみたい。


「女の子の下着が見えてもそんな風に言っちゃダメ!」

「えー? なんでだよー」

「だったら上から来なけりゃいいじゃんかよー」


 ほんと、最近のガキども言うことを聞かないというか、素直じゃないというか、にくたらしい。


「しょうがないでしょ! 魔法少女は空から現れるのがお約束なんだから!」


 そのとおり! ホワイトリリーってばわかってる!


「あーあ、どうせ来るなら仮面バイヤーの方がよかったぜー」

「だよな。俺はヤバレンジャーが来てほしかったぜー」

「こらー!」


 気づけば、ハンバーガー怪人そっちのけで言い合っている。怪人に襲われてるところを助けに来たはずなのに……。

 ていうか、魔法少女が子ども相手に取り乱しているの、なんだか意外だなあ。彼女の正体は何歳くらいなんだろ。


「なんかようわからんけど、これはチャンスや!」


 しめた、とばかりにベルが顔を上げる。そしてしっぽをアンテナみたいにぴょこ、と立てた。同時にハンバーガー怪人の身体が硬直する。どうやら怪人にテレパシーみたいなのを飛ばしたみたいだ。

 怪人はホワイトリリーの背後に移動すると、やけにムキムキな腕をふりかぶって、


「やったれ怪人! このスキをついてホワイトリリーをやっつけるんや!」

「バガー!!」

「えい」


 びびびび。


 ホワイトリリーが怪人の方を見向きもせずに指だけを向け、ビームを放った。


「バガガガガアアッ!」


 そして当たり前のように直撃。アニメみたいにぷすぷすと煙を上げて、ハンバーガー怪人はその場に倒れこんでしまった。


「そ、そんな……」

「さっすがホワイトリリー」


 子どもに気を取られていても怪人にはまるで攻撃のスキを与えない。れする。


「あんさん、オレらとホワイトリリー、どっちの味方なんや!」

「私は魔法少女が好きだって何回も言ってるじゃない!」


 無理やり悪の組織に引き入れられただけだもん。


 怪人が起き上がらない。見た感じ、これ以上の戦闘は望めそうになさそうだ。起き上がったところでまたやられるのがオチだろうけど。


「くあ~! ここまできてまたやられっぱなしかいな!」


 頭をかきむしるベル。その苦悩っぷりを体現するように、首についた鈴もちりんちりん鳴る。


「こうなったら……奥の手や!」

「奥の手?」


 まだ怪人を用意してるんだろうか。まあ、なんにせよ、どうせ負けるだろうから今回は撤退した方が――


「おいあんさん! 今ホワイトリリーのパンツが見えたで!」

「え! ほんと!?」


 そういうことは早く言ってよ!


「ほんまや! 俺のところで屈んでみい」


 私はベルの隣で寝そべって目線をベルの高さに合わせる。が、見えるのは真っ白なスカートだけで、男のたちが言っていたピンクのリボンつきの純白パンツはまるで見えない。


「ちょっとベル? ぜんぜん見えないじゃな」


 ぷに。


 やわらかい感触。私が文句を言い終わる前にベルの肉球が、私のひたいに触れた。


「あ」


 思い起こされるのは、この前のビルの屋上。


「だっ」


 強制変身。

 からの、痴女極まりないコスチューム。


だましたわねえええええっ!」


 食ってかかるようにベルをつかむ。そしてぶんぶんと振る。

 だけどベルは悪の組織にぴったりなあくどい笑みを浮かべて、


「なーっはっは! 騙されるあんさんが悪いんやー!」

「あ、あんたねえ」


 早く解きなさいよ、と言うよりも早く、私の身体から光があふれ出した。


「ちょ、ちょっと待って!」

「いーや、待たへん」


 この前と同じく、制服は消え徐々に裸になっていく。ほんと勘弁して! ほら、向こうには男の子たちもいるんだし、教育によくないって!


「タ、タイム! 話し合お? ね?」

「問答無用や! その力、今度こそオレに見せてくれや!」

「やめてってばあああ~!」


 そんな悲壮な叫びは誰に届くこともなく。

 私の身体は、視界は、まばゆい光に包まれた。

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