第六十三夜 ダークエルフ達の正体
「盗まれた!? え、それにおい袋じゃないの!?」
「ええ。冒険者では割となじみ深い道具ね。もっとも中身はまだ見てないけど、少なからずかなりのものが餌として使われたと思う」
ミュエルが突然告げる言葉にルーナは思わず動転する。その一方で、エレンはミュエルが言った発言が気になった。
そして、それについて質問すると答えたのはハクヤだった。
「魔物をおびき寄せるためのにおい袋なんだよね? それってどうして冒険者にはなじみ深いの?」
「一般的な使い方だと経験値稼ぎのためだな。自分の魔物戦闘に対する実力をあげるためのもの。魔法なんかは使っていかないと威力上げられないから。まあ、エレンちゃんには少し酷な内容だと思うけどな」
「意味もなく魔物を殺すのは良くないと思う。ちゃんとわかってくれる魔物もいるんだし」
「こら、ちゃんと“そういう連中もいる”って言葉を伝えてあげなさい。もちろん、それだけじゃないわ。
冒険者達はクエスト以外の討伐した魔物を換金してお金を得るために魔物を集める時や単に食料として魔物をおびき寄せる時もある」
「ちなみに、俺達もそういう意味では弱めの魔物寄せ袋はもってる。ポーションは毒にも回復薬にもなるってな」
「なるほど、使い方次第なんだね」
「あ、あの......私のことお忘れではありませんか?」
ナチュラルにハブられていたことにルーナは慌てていた時よりも明らかにショックな顔をしていた。
そんなルーナにハクヤが「落ち着くのを待ってたんだ」と軽やかに嘘を言い、それに対するエレンとミュエルから痛い視線が送られるのを無視しながら話を続ける。
「それで? 一旦持ち物を確認したのか?」
「あ、それはまだ」
ルーナはいそいそ隣に置いてある大き目な肩掛けバッグの中を調べていく。
一つ一つ確認しているせいかその中から下着とかを出していることに気付いていない。
それが出て来た途端、ハクヤの視線が一気に強くなる。もちろん、ハクヤは見るようなこと(見たらエレンからキツイ説教がくるので)してないが、全く信用してなさそうな視線がずっと届いている。
ハクヤが「こんな信用なくすことしたっけ?」とやや半泣きで待っているとルーナが「ない! ない!」と叫び出した。
「何がなかったの?」
「鬼神薬なの。鬼神薬がどこにもないの!?」
「鬼人薬って?」
「鬼人族が使う特殊な身体能力向上アイテム。心臓が強い種族しかあまり好まれず、人族にも使えるんだけど最悪興奮しすぎで心臓が破裂する」
いわゆるドーピングアイテムのようなものだ。しかし、それは鬼人族だけの知りえない特殊な製法で、ハクヤはおろか情報屋のミュエルも知らない。
その言葉にエレンは思わず「うわぁ」と声を漏らした。恐らく想像力豊かな思考故に想像してしまったのだろう。
そんなエレンにルーナが気づくと先ほどの慌てっぷりはどこへやら。エレンに対して得意げにアドバイスし始めた。
「あ、別にそれに限った使い方だけじゃないよ。用は興奮剤なんだからその成分を薄くすれば夜の床にバッチリ使える」
「そこのところ詳しく!」
その言葉にエレンは目にも止まらなぬ速さで紙と羽ペンを取り出すとメモを取り始めた。
「エレン、落ち着け。それをメモしてどうする。おい、ミュエルも.....ってなんでお前もメモしようとしてるの?」
「こ、これは......鬼神薬はあまり情報流れないし、あ、新しい情報だったから」
目を泳がせるミュエルに「まあ、お前は情報屋だもんな」と納得するとミュエルは大きく息を吐いた。
そして、ハクヤはミュエルからルーナに視線を変えて告げた。
「で、それがないんだろ?」
「そ、そうだったああああああ!」
「慌ただしい奴だな」
ハクヤが尋ねるとルーナは思い出したように頭を抱え「どうしよう。どうしよう」と一人でに悩む。
すると、エレンが慌てるルーナの手を取り優しく告げる。
「落ち着いて。ハクヤが言ってたでしょ?『ここであったのも何かの縁』だって。もし手伝えることがあったら私達に言って。協力するから」
「う、うぅ......あ"り"か"と"う"こ"さ"い"す"うううう!」
「今度は泣き始めたわね」
「もう感情が忙しい奴だな」
そして、ルーナが泣き止むまでしばらく待って落ち着いたところでミュエルが質問した。
「そういえば、なんで
「いざとなった時のため。今はまだ言えないけどが、その目的のために切り札として持っていたの。それにその鬼神薬は私が唯一作り出せた成功例」
「まさか鬼神薬の製法継承者がいるとはな。でも、それって他言無用のはずでは?」
「あたしがピンチの時に助けていただいたし、こうして親身になって聞いてくれるので信用できる相手だとして話しました」
「わからないわよ? グルになって聞きだしているかもしれないし。現に興味津々の子もいるしね」
「うっ」
「ははは、それぐらいなら可愛い方よ。あたしが小さい頃にはもっと酷い裏切りがあったから」
ルーナはその時の過去を思い出しているのか声も表情も暗い。そして、親身になって聞いているエレンも思わず暗い顔をしているが、一人難しい顔をしてる人物がいた。
「ハクヤ? 何か知ってるの?」
「え......あ、いやさすがにな。鬼神薬を盗んだとされるダークエルフについて考えてたんだよ」
「そうね。建設的な話をするなら可哀そうだけど過去に浸ってるより未来をどうにかしなければいけないわ」
「そうだね......ごめん」
ルーナはわずかに溜まっていた涙を拭うと話を戻した。
「それで、その鬼神薬を盗まれて何が問題かと言われるとその質にあるの。私が作り出した鬼神薬は通常濃度の倍。1回ぐらいの使用じゃ問題ない鬼人族であっても、使ったら心臓が破裂する可能性がある」
「そんなものを盗むってことはよっぽど使いたい理由があるかあるいは......」
「それを元手に高値で売るつもりかもな。特にその鬼神薬を知らない連中に」
「でも、それだけ強力だとさらに使われるのは限られてくるよね? 鬼人族でダメなら人族も当然ダメだろうし、エルフやドワーフだって無理だろうし」
「もし使える連中を見繕うならドラゴン、もしくはその一部を受け継ぐ竜人族。そして――――魔族」
「でも、魔族で使える種族なんて本当に限られてくるわよ? いいとこ飼いならしたドラゴン種であるワイバーンに与えるぐらいか。といっても、気性の洗いワイバーンを手懐けてる人がいればだけど」
「ちなみに、もし心臓が破裂しなかったらどうなるの?」
「そうだね......鬼神薬って名前の通り使えば鬼人族が崇める鬼神様に勝るとも劣らない力を得るとされるの。
通常の鬼神薬でもそうなんだけど、使えば興奮して急激に血の巡りがよくなり全身が紅くなる。
それによって五感はもとより思考力も上がって事実上の第六感も使えるようになる。当然、身体能力も上がる。
ちなみに、鬼神薬の由来は先ほど言ったこともあるけど、鬼神様は全身が紅かったら興奮して赤くなるのも由来とされてるよ」
「それってやばすぎじゃない?」
「だから、私達だって使う際は厳重な注意を図ってるし、使うタイミングは族長に許された時のみ。もしくは、村に一大事が起こってすぐにでも対処しなければいけない時」
ルーナからの情報をもとに色々と考えてみるが、あまり根拠となるものが薄い感じであった。
もとより、ルーナが接触したとされるダークエルフ三人組の情報が何もない。
そこで一旦考えに行き詰まりを感じたハクヤはそっちの方向に話題を変える。
「そういえば、ダークエルフの三人組にあったといったが、それはいつぐらいかわかるか? 奴らの目的とかも含めて詳しく教えてくれ」
「う~んと、確か初めて会ったのが二週間前? ぐらいで、たまたま森で数日分の食料を確保に出向いていたところで、強めな魔物と戦っていた例のダークエルフ達がいたんだよね。名前は確かアン、ドゥ、トロワだった」
それを聞いたハクヤは「それって生きていた時の世界のどこかの国の数の名前じゃなかったけ?」と思いつつも、話の腰を折らないように飲み込んだ。
「そのダークエルフ達はどうして戦ってたの?」
「なんかいきなり背後から襲って来たんだって。それで、基本は魔法を当ててたけど、剣とか槍で攻撃する人もいたかな」
「背後から襲われた......戦うときに近接武器......それで他には?」
「で、助けたあたしが『なんでこんなところにいるの?』って聞いたら、『エルフの集落を探してる。どこか知らないか?』って聞かれた。
まあ、私は知らなかったから素直に答えたら三人が相談して『魔物が怖いからしばらく一緒に行動させてくれ』って」
「特徴は?」
「基本銀髪だったよ。でも、三人とも違う色が所々混じってた感じだった」
「ダウトだな。そいつらはダークエルフじゃない」
「どうしたのハクヤ?」
ルーナの話を聞いて理解を示したのはハクヤとミュエルだけで、一人内容についていけずに頭の上にはてなマークを浮かべているエレンはハクヤの言葉に思わず尋ねた。
すると、ハクヤはルーナの言葉からエルフの特徴の矛盾点を挙げていく。
「まず、エルフとダークエルフの違いの特徴として挙げられるのが肌と髪色。ダークエルフは総じて美しい銀髪なんだ。他の色が混じることはない」
「他にもあるの?」
「あるな。エルフとダークエルフは見た目こそ違いがあるが、身体能力的にはあまり差がない。そして、“森の民”と呼ばれるエルフは耳が良く魔物の位置を素早く特定でき、そして物理武器にはほぼ遠距離射程武器を使う。つまり弓だな」
「それじゃあ、あのダークエルフ達の言葉も使っていた近接武器も全て本来のダークエルフの戦闘スタイルじゃないってことなんだね。知らなかった」
「そして、最大の嘘がダークエルフがエルフの森を知らないということだ。確かに同じ場所で住んでいないが、ダークエルフが住んでいるのはエルフが住む聖樹の真裏と来た。
加えて、同じ聖樹を崇める種族として全く交流がないはずがないから、その言葉は全くの嘘だ」
「待ってハクヤ、それじゃあ唯一同じだった肌の色が褐色って......」
何かに気付いたミュエルは思わず唖然とした反応をする。そして、答え合わせをするようにハクヤが告げた。
「ああ、魔族だ」
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