第四十二夜 パーティ攻略15階層
「私、パーティでここに来るのは初めてだよ」
「え? その組んでるパーティの人達と来なかったの?」
エレンは短期間結成した新パーティの人達と一緒にダンジョンに来ていた。
現在の階層は5階。エレン一人でも十分だった場所は5人もいればもはや暇を持て余すほどだ。
そんな時、エレンがふと呟いた言葉をベルネが拾ったのだ。
「来たけど、その人達が強すぎるからね。
必死にレベルアップするために見守ってもらう形でダンジョンに潜ってたんだ」
「それって実質ソロと同じですねよ.....」
「それで何回かまで行ったんだ?」
「確か20階層だったかな」
「「「「20階層!?」」」」
エレンのサラっと告げた言葉に4人は思わず驚く。
それパーティで組んでる自分達が15階層で躓いてるのにエレンはたった一人でその場を突破してしまったからだ。
その衝撃の事実と自分達の不甲斐なさが相まって何とも次の言葉が見つからない。
そして、エレンは汚れなき眼で4人に「何階層まで行ったことあるの?」と聞いてくるのだ。
邪気が感じられないからこそ返答がしにくい。
すると、ウィルが若干の焦り顔で高らかに告げた。
「お、俺達はな、30階層まで行ったことあるんだぜ!」
「バカ! 何見栄張ってるの!」
「単に聞いてるだけですから普通に答えればいいですよ!」
「正直、15階層で止まってるのは自分達の実力不足なんだから素直に言った方が良いっす!」
「いた! わかった、わかったから! なぐるな! 特にメニカの杖で殴るのやめろ! 超痛いから!」
エレンに対抗して文字通りの見栄を張ったウィルは他のベルネ、メニカ、ボードンから集中リンチを受けた。
恐らく、男として女に負けてるのが悔しかったのだろう。
男はプライドの生き物だ。それを傷つけられることを酷く嫌う。
とはいえ、ダンジョンでそんなことを言ってる人から死んでいく
これは冒険者の中ではある意味鉄則のようなものだ。
それをすぐに理解した他の三人は少々手荒な方法で止めに行ったのだ。
そして、敵からのダメージではなく、見方からのダメージでボロボロのウィルをそのままにベルネがすぐに訂正する。
「ごめん、うちのすっとこどっこいが。私達は情けない話、パーティでも15階層のボスが突破で来てなんだよね」
「そうなんだ。でも、私も攻略法をあらかじめ聞いてからの戦いだったし、それにグレンちゃんの手も借りたからちゃんと突破で来てるかと考えると怪しいんだよね」
「十分だと思いますよ。私達も何度も相対して攻略法もなんとなくわかってるのに、周囲のザコ敵に囲まれてジリ貧になってる感じですし」
「後半なんて魔力が尽きてくるっすからね。若干ふらふらになりかけてくるともうダメで、後は逃げ帰るだけっす。毎回何とか逃げ帰ってる感じっすけど」
「それね、少しでも立ち止まったら死ぬと思ってとにかく疲れてるのに足動かしてるもの。
そのせいか俊敏性が少し上がったような気がしなくもないけど、あんまし嬉しくないのよね~」
「わかる~」
「わかります~」
エレンに話しかけてると思いきや、いつの間にか3人のボス攻略あるある談義が始まってしまった。
そのことにエレンはニコニコして聞きながらも、内心戸惑っている顔をしていた。
正直なところ、エレンの魔力はかなりあって15階層のボス戦の時も魔力をバンバン使ってそこそこの苦労で倒せたのだ。
とはいえ、その苦労はザコ敵処理やボスアタックというよりもボス攻撃の回避の苦労であったが。
そのせいで話にはついていけるものの絶妙に話題に入り込んでいけない。
なので、ゆっくりと横移動しながら、ダメージを受けているウィルに一応の回復魔法をかけていく。
すると、その光景を見ていたのかメニカが話題を変えた。
「エレンさんって回復魔法使えるんですか?.....ってことは、光属性なんですか?」
「そうだね。それに私の光はアンデットにも有効みたい」
「ってことは、神聖属性ってことじゃないですか! す、すごい......」
「ど、どういうこと?」
一人だけ感動にも似た声を上げているメニカにベルネとボードンが困惑の顔を浮かべる。
そして、メニカが「とにかくすごい」といった感じで二人に説明していくと理解した二人は「すげー」と感嘆な声を上げた。
「これはもうあわよくば20階層以降も問題ないわね」
「確か、そこはアンデッドやゴースト系の魔物が出るらしいっすからね」
「ともかく、俺達はまず15階層からだろ?」
エレンの回復によって復活したウィルは若干エレン以外の3人を睨みながら告げた。
しかし、それもそうだ。15階層以降の話なんてもはや考えたって意味がない。
まずは15階層を突破することが最優先。
その言葉に「それもそうね」とベルネが頷くと5人は下層を目指して歩き始めた。
15階層までの道中は主にエレンに役割と連携を確認するための作業戦闘が多かった。
ウィルが長剣使いで、ベルネが拳闘士、ボードンが盾持ち片手剣で、メニカが魔術師と言った感じだ。
そこに同じく魔術師のエレンが加わったことで、このパーティはさらに安定した。
いつもは数で圧倒された場合、メニカが先に行動不能に陥り、ジリ貧で押されるというパターンが多かった。
しかし、そこにエレンが入ったことでメニカとの相互フォローとともに、味方へのバフ及び遠距離攻撃が手出来るようになった。
ある程度動きを覚えたエレンはパーティで連携して戦う事の喜びを知りつつ、自分の与えられた役割を理解していった。
そして、パーティ戦闘での後方から俯瞰的に見たパーティの動き方について、ハクヤから教えてもらった知識を活かして全員に教えていく。
15階層攻略に対してかなり躍起になっていた4人はエレンの言葉にも真摯に耳を傾け、その行動を出来る限りの範囲で実践していく。
その動きを再度試しては互いの情報を共有して、試して動きを見て理解して共有してと何度も同じことを繰り返し、そしてエレン達は15階層のボス戦の扉の前までやって来ていた。
「ついにここまで来たわね」
「急ピッチですが、やれることはやりました」
「まあ、後は当たって砕けろっす」
「いや、砕けちゃダメだろ。ともかくだ、何度目かのリベンジと行こうぜ。準備はいいか、エレン?」
「いつでもバッチリだよ」
気力も体力も魔力も十分。それぞれの手持ちに緊急用回復ポーションと魔力ポーションは持ち合わせた。
後は出たとこ勝負。もちろん、ある程度の動きの想定はしているが、それでも臨機応変な行動が求められる。
しかし、一人ではない。ウィル達から見ればエレンが、エレンから見ればウィル達がいる。
たった一人増えたことにウィル達は妙な安心感を覚えていた。
そして、エレンも同じでこれが本当に一緒になって戦うことだと実感した。
「それじゃあ、行くぞ」
ウィルが扉を押していく。そして、開いた隙間にウィル達は中に入っていった。
そこはだだっ広いドーム型の空間。そして、その中央に巨大な人型をした牛の魔物――――ミノタウロスがいた。
ミノタウロスは5人の存在に気付くと右手に持っているこん棒を叩きつけ、大きく吠えた。
その瞬間、地面からボンっと5,6体のちっちゃいミノタウロスが現れた。
ミノタウロスの子供だ。しかし、力は普通の冒険者と同じかそれ以上。油断すれば死ぬ。
「それじゃあ、作戦通りにいくぜ!」
「「「「おぉ!」」」」
ウィル、ベルネ、ボードンは三人バラバラの方向に少し走る。
すると、前衛と後衛の間に開けた場所が出来、ミノタウロスの子供は後衛を狙いに走ってくる。
「
「水刃破断!」
エレンとメニカはお互いを邪魔しないように砲撃型とホーミング型に分け、エレンが杖の先から出した白い光を横薙に払い殲滅。
それを避けたり、遠くにいて回避したりした残りはメニカの水の刃が仕留めていく。
それによって、ミノタウロス本体は無防備となり、同時に三方向からの攻撃が始まった。
ウィル、ベルネ、ボードンがそれぞれで攻撃をしていく。
ミノタウロスの魔物は反撃をするも、1対3という状況に対して苦戦を強いられていた。
「
「
そこにメニカとエレンがそれぞれ前衛に防御力と攻撃力アップのバフをかけていく。
「モオオオオォォォォ!」
イラ立ったように吠えたミノタウロスはこん棒を大きく振りかぶり、そして横薙ぎに払った。
「
ボードンが盾を構え、ミノタウロスにこん棒を振り抜かれる前に当たりに行った。
自身にも防御アップの魔法をかけたが、ミノタウロスの衝撃は大きくそのまま吹き飛ばされる。
「ボードン! くそっ!
「よくもやってくれたわね! 突壊功!」
ウィルが長剣に自身の炎を纏わせそのままミノタウロスに斬りかかり、ベルネが魔力を込めた右拳をストレートに殴った。
その攻撃はボードンが作り出した隙を活かした攻撃で、どちらとも胴体を大きく傷つけた。
それに体を揺らめかせたミノタウロスから二人が距離を取るとミノタウロスは大きく息を吸って叫ぼうとした。
「やばいです! 援軍の第2波が来ます!」
「全員、一旦後衛の場所まで戻れ!」
「わかったわ!」
「う、うっす!」
「その必要はないよ」
「「「「え?」」」」
エレンの言葉に全員の目線と行動が一瞬止まる。
しかし、エレンは気にすることなく結界魔法を行使するとそれをミノタウロスの頭とアゴにセットし、思いっきり叩きつけた。
「モガッ!?」
それによって、ミノタウロスは自分の舌を噛み、痛さに悶えた。
「今だよ! 一気に畳みかけよう!」
「おう!
「 突壊功!」
「砕断刃!」
「
「
前衛の3人が胴体を同時に攻撃し、その攻撃した個所にメニカとエレンの砲撃が飛んでいく。
その砲撃は途中で絡み合い、一つに合わさるとミノタウロスの負傷個所に直撃した。
そして、そのままミノタウロスを貫通し、ミノタウロスの背後の壁まで直撃する。
砲撃が止むとミノタウロスは前のめりに倒れた。
その地響きを感じながら、ウィル達は思わず困惑した表情をする。
「すげーあっさり勝っちまった」
「そ、そうね。嬉しさというよりも驚きの方が大きいわ」
「俺もっす」
「私もです」
「でも、勝ったことには変わりないんだよ。これで15階層突破だね」
エレンの言葉に全員が「そうだな。勝ったんだな」と理解すると大きく拳を天井に突き上げて喜び合った。
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