第597話 ティナとデュランダル

「見事な剣だ、俺の持つ紅魔刀と氷魔刀をここまで耐えるとは……だが、武器が優れていても使い手が未熟ならば宝の持ち腐れだがな」

「ぐぅうっ……!?」

「終わりだ」



ティナが所持する大剣に亀裂が入り、更に彼女の身に付けている鎧も罅割れが広がっていく。このままでは男の圧倒的な腕力によって武器も防具も破壊され、身体も押し潰されてしまう。そう判断したティナは最後の賭けとして腰の袋に手を伸ばす。



(お願いします……力を貸してください!!)



必死に腕を伸ばしてティナは腰の袋の糸を引き千切ると、小袋の中に手を伸ばす。やがてティナを守る大剣と防具が砕け散ろうとした瞬間、彼女は袋の中から漆黒の大剣を抜き放つ。



「はぁあああっ!!」

「ぬうっ!?」



袋から有り得ない大きさと要領の大剣が引き抜かれた事にナナシは驚くが、更にその漆黒の大剣から衝撃波を放たれ、彼の身体が吹き飛ぶ。この袋の正体はティナが所有していた正真正銘の「ストレージバック」であり、その中にはレイナが作り出してくれた「聖剣デュランダル」を収納していた。


外見はただの小袋にしか見えないが、この袋にはあらゆる物体を入れる事が出来る。この小袋はティナが黄金冒険者に昇格した際、ある依頼を引き受けた時の報酬として受け取った物である。



「くっ……がはっ!!」

「……まだ、楽しませてくれるか」



ティナは血反吐を吐きながらも壊れてしまった大剣を手放し、何とかデュランダルを松葉杖代わりにして立ち上がる。その様子を見ていたナナシは口元から血を流しながらも笑みを浮かべ、再び向かい合う。


レイナから受け取った聖剣デュランダルはティナも扱えるように改竄されており、彼女は身に付けていた鎧を外す。罅割れた鎧を身に付けていても意味はなく、次にナナシの攻撃を受けた時は壊れるのは目に見えていた。それならば重たい鎧を身に付ける理由もなく、彼女はナナシと向き合う。



「勝負は、これからです!!」

「ほう……威勢は良いが、その状態で戦えるのか?」

「舐めないでください……私も黄金冒険者です」



ナナシに対してティナは踏み込むと、彼女は先ほどまでとは打って変わった素早さでナナシの元へと迫る。明らかに彼女の速度が上昇した事にナナシは驚くが、すぐに二つの剣を重ねて彼女のデュランダルを受け止める。



「この程度……ぬっ!?」

「はぁあああっ!!」



放たれた刃をナナシは受け止めようとしたが、思っていた以上にティナの斬撃は重く、彼は後方へと押し込まれる。明らかにティナの動きと力が上がっている事に気付いたナナシは彼女の身に付けている鎧を目にした。



(重い鎧を外した事で本来の力と速度を発揮したか!!)



ティナが普段から身に付けている鎧はただの鎧ではなく、彼女の力を抑えるための拘束具の役目も存在した。ティナは人間とドワーフの間に生まれたハーフであるため、その腕力は本物のドワーフにも劣らない。


ナナシとティナはその場で激しく打ち合い、一見はナナシが防戦一方に追い込まれていた。しかし、実際の所はティナの方が精神的に追い詰められている。



(強い!!これほどの相手、今までに戦った事がない!!)



どんな攻撃を繰り出しても正面から受け止め、弾き返してくるナナシに対してティナは冷や汗を流し、一方で最初は本来の速さと力を取り戻したティナに翻弄されていたナナシも冷静に対処を行う。



「ふんっ!!」

「うぐっ!?」



鎧を外して身軽になったティナだが、逆に言えば防具を外した事で身を守る術を失い、攻撃の合間にナナシが繰り出した蹴りによって彼女の身体は後ろへと仰け反る。それを見てナナシは追撃を加えようとしたが、再びティナはデュランダルの力を発揮した。



「はああっ!!」

「ぬうっ!?」



デュランダルが放つ衝撃波に関してはナナシを防ぐ事は出来ず、身体が吹き飛ばされないように大剣を地面に突き刺す。並の人間ならば身体が押し潰されてもおかしくはない威力なのだが、耐久力も巨人族並なのかナナシは一歩も引き下がらない。


尋常ではない腕力、頑丈さを誇るナナシを前にしてティナは頭を切り替え、人間と戦っているのではなく、実際に巨人族と戦っているのだと思い込むようにする。巨人族との戦闘ならばティナも何度か経験しており、彼女はデュランダルを叩き込む。



「はあっ!!」

「面白い……もっと楽しませろっ!!」



攻撃の後に至近距離から衝撃波を放ち、ナナシを追い詰めようとするティナ。それに対してナナシは逃げもせずに正面から彼女の攻撃を受け、獰猛な笑みを浮かべた。その表情を見てティナは背筋が凍り、この男だけはここで自分が何とかしなければ他の者の身が危ういと判断した――

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