エピローグ

第82話「大団円」

 イチコたちは揃って墓地へと戻ると、枯れたツタが巻かれたアーチを仰いだ。


「ほんの少し離れていただけなのに、すごく久々に帰ってきた気がするわね」


 長い戦いの果てに帰ってきた一同はイチコの意見に賛同しながら、墓地へと足を踏み入れた。


「たっだいま~!」


 自身とセシリーの帰りを告げる為、とびきり元気な声をあげた。

 イチコたちはセシリーの帰還を他のレイスたちも喜んでくれると思っていたのだが、


「あれ? みんなどうしたの?」


 何かを遠巻きに見ながら集まっているレイスたちに声をかけると、最初に聞こえてきたのはリコリスの「ぐるるるっ!」という唸り声だった。



 墓地を守っていたリコリスは、不審者を見つけ、唸り声を上げていた。

 イチコは慎重にリコリスの元へと、行くと、そこには3体のレイスが正座させられており、1体がリコリスの肉球に押しつぶされていた。


「あっ! あんたはっ!!」


 リコリスに押しつぶされているレイスには見覚えがあった。それどころか、残りの3体にも。

 それは、ゴールドバーグ家を襲撃したなんでも屋の男たち。

 そのリーダーであるアラギがいま、リコリスによって組み伏されていた。


「ぬぅ、お前はいつぞやのレイスか。ということはロメロもいるのか? なんだ? その目は? ああ、この状況か? 私たちはどうやらお前らに殺されたことでレイスになったようだ。しかし、この体は些か慣れぬな。この大猫フェリダーのレイスにすら我ら全員でも後れをとるとは。だが、この格好は気にするな。フェリダーという金の生る木に踏まれるというのもなかなか悪くない。金の圧と匂いを十分に堪能できるからな」


「なかなかにヤバめの変態だったということは分かったわ。とりあえず、リコリス、そのままで」


 イチコはアラギの他3人を見回すと、女性2人はイチコに怯え、残りの大柄な男はぼんやりと呑気している。


そして、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。


「あんたら、ここに来たってことは、セシリーの配下ってことよね。セシリーはアタシの侍女予定だから――」


 イチコはアラギをまず指さすと、


「あんたは一応リーダーだから執事ね。で、そっちのデカいのは料理人。そこのカメレオン女は家政婦長、で、そっちのが女中よ」


 明らかに巨乳の女性だけ不遇するが、恐怖を身に刻まれている彼女たちは、大人しく頷く。


「ふっ、ふふふっ、まさかこんなに早く使用人が見つかるなんて僥倖ぎょうこうだわ! そして、ロメロ様は、もちろん旦那様に……なんてっ!」


 最後だけ小声で呟くが、セシリーにはばっちり聞こえており、いつものイチコに思わず笑みをこぼす。


「それなら、サイカは従者になりますね!」


「そうね。ふふんっ、セシリーもなんだかんだで乗り気じゃない!!」


 妄想ではなく、本当に起こしたい未来に想いを馳せるなど、いままでしたこともなかったイチコは自然と目が輝く。


「次は屋敷を手に入れて、さらに肉体も! そして、アタシもセシリーもラブラブのバラ色の生活を送るわよ! って訳で、今日は前祝もかねて騒ぐわよっ!!」


 ロメロの持ってきた酒とツマミを堪能し、全員が眠りについた朝方。

 イチコは目を覚ますと、朝日が瞳へと差し込む。


「あの日、井戸の中で掴みたくても掴めなかった光がこんなに近くに感じられるなんてね」


 太陽の光を大切につつむように手を握った。


「ふふっ、水臭いですよ。イチコさん、これは私たちの光ですよ」


 そっとセシリーの手が覆いかぶさる。


「そうですね。僕も微力ながら、その光を守らせてください」


 ロメロの手も加わる。


「2人とも……ありがとう」


 手に入れた幸せを守る為、新たな幸せを手に入れる為。

 悪霊令嬢イチコは追放された異世界で、これからも呪い続けていく。



               (了)


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悪霊令嬢、異世界に追放される。 タカナシ @takanashi30

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