第一章 SNS幽霊事件ー虎鶫隼翔の捜査ー④
しばらく歩いていると、目的の人物が待つマンションに到着した。
庶民的とは絶対に言えないけど、高級マンションとまでは名乗れないって感じの建物だ。多分だけど、一五階建てとかそこらへんだろう。
麗奈から見せてもらったSNSのプロフィールじゃ一人暮らしの若い男性って感じだったけど、一体どんな仕事に就いたらこんな建物に住めるようになるんだろう。警察って公務員だから安定はしてるけどそこまで稼げるってわけじゃないもんなぁ。通勤用の電車代を少し高く出してでもできるだけ安い土地に住もうとしてる俺の意見です。
「部屋番は1207だって。結構高いところに住んでるね。階層的にも値段的にも」
「……今更なんだが、顔も見たことないやつに住所や部屋番まで教えるって危なくないのか?」
この行方不明事件が解決したら生活安全課あたりにでも相談しとくべきなのかも。
内装まで金をかけてそうなエレベーターに乗って目的の階に移動していると、麗奈が制服のポケットからスマホを取り出しつつ、こう切り出してきた。
「タイガーはさ、こういうSNSで幽霊の目撃情報を載せてる人って、本当に幽霊が居るって信じてると思う? 動画投稿サイトで廃墟に忍び込む撮影者とかもそうだけどさ、本当に幽霊が出るって信じてたら、普通は敬遠しちゃうと思うんだけど」
「お前に言われても説得力はないが、まぁ、普通はそうなるんじゃないか? それより、幽霊が『居る』『居ない』の話なら、俺だって『居ない』派なんだけど」
「むむむ。そろそろタイガーも認めちゃいなよ。リピートアフタミー、幽霊は存在しまーす」
「……馬鹿馬鹿しい」
幽霊が居るか居ないかって議論は、結局のところ個人が信じるかどうかに過ぎない。立派な化石が見つかって骨格標本として博物館に展示されている恐竜だって、居ないと熱弁を振るう人が未だに後が絶えないというんだから、決定的な存在証明の
ない幽霊を信じろと言われてもそりゃあ困るだろう。
一応、俺達のこの世界じゃ幽霊は『科学的に証明された存在』らしいけど、そもそも科学的とは一体何を指してるんだ? 無数の方式からそれっぽいものを当てはめて再現性のある実験によって導き出された変わることのない理論。そんなわけあるか。本当に科学的に証明されているのなら、どうして常人は幽霊を知覚できないんだ? 霊感が必要だというのなら、今度は霊感という感覚的なものを証明する必要があるはずだ。だけどそこまで穴だらけの研究論文でも、今の社会では幽霊を『科学的に証明された存在』というものとして扱っている。この『証明は出来ないけど、理論的には正しい』状態は、きっと長くは続かない。いずれ他の科学者がそれに対する逆説的論文を発表して、結局は居るんだか居ないんだか分からない存在になるはずなんだ。
簡単に言っちゃうと、一時的な社会現象。
そんな一時的なブームの為に俺の人生を掛けてたまるかよ。
「でもさ、今では『幽霊殺人』なんて名前がついちゃってるけど、そういうのって昔から存在はしてたじゃん。有名な『入っただけで呪い殺される家』とか行方不明事件が立て続けに起きる墓地とか廃墟とか」
「だから何だってんだ。もしも本当に幽霊が殺人してたからって俺達じゃどうにもできないだろ。法律ってのは人間を裁く用の指南書だ。幽霊なんて超常の存在をどうやって裁けばいいんだよ」
ほんと、頭が痛くなる。
いつからここはホラー映画の世界になったんだ? 不思議な出来事は全部幽霊のせいでした、じゃないんだよ。
そんな風に話していると目的の階に到着したらしく、エレベーターの扉が開いた。
それじゃ、最後の聞き込みと行きましょうかね。
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