第一章 SNS幽霊事件ー虎鶫隼翔の捜査ー②
校長さんに教えてもらった住所は近くの私立高校だった。
ちくしょう、よりにもよって私立かよ。
公立の高校よりも理事長みたいに上の立場に立ってる人間のプライドが高いってイメージがあるから、下手すりゃ敷地に入るのすら拒否されるかもしれない。実際には危険性のある捜査協力ってよりは情報提供の意味合いが強いんだけど、一般人からしたらどれも一緒だろうし、警察に関わる事自体を嫌がられたら変わらない。
「……で、だ」
「んー? どうしたの?」
少女の声が返ってきた。場所的にいえば俺のすぐ真横から。
「俺はまだ正門すらくぐってないんだけど、どうしてお前はもう俺の横でスタンバってるの? なんで刑事の行動が先読みされてる訳?」
「いやはや、相変わらずタイガーからは幽霊の香りがプンプンするなー。流石! 幽霊専門刑事の名は伊達じゃない! って感じだね。その幽霊に好かれる体質を分けて欲しいよ!」
答えになってない答えを返してきたのは、俺の周りをクルクルと回っている少女。着ているのは高校の制服みたいだけど、今時の高校生らしく適度に着崩されている。いやまぁ、今時の高校生の流行りなんて知らないからイメージ先行だけどさ。
「だーかーらー、俺は一度だって幽霊なんかに会った事はないの。それに幽霊専門刑事って愛称もお前が勝手に吹聴してるだけだろうが。最近は警視庁の人間からもそう呼ばれてるんだからいい加減にしてくれないかな」
「へへん! ようやく世間からタイガーが幽霊専門刑事だって認められてきたって事だね。良かったじゃん。これで地道に言いふらしてた私の努力も報われるよ!」
「良くないっつーの。それに、俺をタイガーと呼ぶなって言ってるだろ。虎鶫ってのは鳥の仲間だぞ。決して肉食獣みたいな野蛮な生き物じゃないんだ」
「そんなの分かってるってば。じゃあバードって呼んでほしいのかな? だったらまだタイガーの方が響き的に良いと思わない? 刑事的に」
「刑事的にっていう意味がさっぱり分からない。ていうか、どうして俺の愛称は動物英語限定になっちまう方向性で固まってるんだ?」
「だってそういう雰囲気放ってるんだもーん」
一連のやり取りに頭を抱えそうになる。
このいけ好かない少女――出羽麗奈(いずわれいな)は、何故か俺の担当する現場だけに度々足を踏み込んでは幽霊がどうこう言って捜査をかき乱す、ただの厄介高校生。……のはずなんだが、悔しい事にこいつの幽霊に関する知識は俺よりもずっと豊富なので、今回みたいに苦渋の決断として頼るときもある。こいつは事件の真相とかよりも本物の幽霊に会いたいだけなんだろうけど、警察としてはちゃんと生きている人間の犯行にしたい一心で捜査してるんだから、協力してもらっているとはいってもとことん息は合わない。
そのはずなのに、何故かこいつが殺人現場の黄色テープの内側に入っても誰も文句を言わない所に上からの圧力を感じるんだよなぁ。
だからって俺は探偵もの小説の無能刑事みたいに泣きついたりしないがな!
「それにしても、まさかタイガーの方から来てくれるとは思ってなかったよ。丁度これから会いに行こうと思ってた所だったしさ」
「というか、学校はどうした学生。まだ平日のお昼前だぞ」
「今日は自主的にお休みの日でーす。期末テストも終わっちゃったし、別に張りつめて勉強しなきゃいけない時期でもないしね」
それはアリなのか?
「つーかさ、お前みたいな未成年がこんな昼間から出歩いてて補導されたりしないの?」
「私もちょっとは顔が広いからね。特にここら辺の警察官なんてさ、私の顔を見る度に『あぁ、幽霊刑事さんのお連れでしたよね』とか言ってくるレベルだしね!」
思わず吹き出しそうになった。
俺が幽霊刑事とか言われているのは分かってたけど、まさかこいつとニコイチで数えられているわけじゃないよな? こいつから幽霊の情報を聞く事はあるが、あくまで警察と民間人の関係だぞ! 警察官だってそこまで馬鹿じゃないよな!
「……俺に用って、幽霊が関わってそうな事件でも起きたか?」
「そんなトコ。てかさ、タイガーも私に用事があったんでしょ? もしかして同じ事件を追ってるんじゃないの? 刑事とJKの以心伝心的にね!」
「同じ事件って、まさかお前も例の行方不明事件を?」
「ビンゴ! その、霊の誘拐事件だよん!」
「あからさまに文字を変えるな。お前がどこまで調べているのかは知らんが、アレはどう考えても人間の仕業だろ」
だから今回はこいつの幽霊好きに付き合う必要はないんだ。幽霊の線が薄いんだから、そっちを詳しく調べる必要もないだろうし。……ったく、事件に幽霊が関係している可能性があるなら、その真偽も捜査しなきゃいけないって制度が出来ちまうから『幽霊法案』は嫌いなんだ。もう可決された法案だから案の部分は消えて『幽霊法』って名前らしいが、気に入らない。
大橋ちゃんには安っぽいプライドだって笑われているけどさ。
気に入らないもんは気に入らないんだよ。
「その根拠は? タイガーが持ってる情報網じゃあ、この辺りの幽霊情報だって掴めてないんじゃないの?」
「……俺が調べた限りじゃ何も出てこなかったぞ。つーか、どうしていち高校生のお前の方が警察って組織よりも広い情報網を持っているのかが不思議でしょうがないんだが」
「いやいや、流石に幽霊関係だけだよ。……話を戻すけど、この辺りには確かに幽霊の目撃情報があります。タイプは地縛霊に近いかな。あの辺の枠組みって正確に決まってるわけじゃないから、定義付けは意外と曖昧なんだけど」
「地縛霊だと?」
地縛霊っていうのは、自分が死んだって事に気付いていない霊が、死んだ時の土地とか建物とかから離れずに漂ってるヤツ。深夜の高速道路に出てくる謎の女辺りが有名だろう。麗奈が言ったように意外と地縛霊っていうのは曖昧な存在らしく、その場所に足を運んだ人間を呪い殺すために特定の場所から離れられる奴もいるようだし、地縛霊だからってずっと固定されているわけではないみたいだ。
あくまで調べただけだけどな。実際に出会った事がないんだから知識でしかない。
「地縛霊って、この地域で自殺か事故でもあったのか?」
「それが意外と厄介なんだよねー。私もそこで躓いちゃったからタイガーを頼ろうとしてたんだよ。地縛霊の目撃証言はあるのにさ、実際にそこで死んじゃった人の情報は何にもないんだもん」
「幽霊情報の方がガセなんじゃないのか? いくら幽霊だっつっても、何もない所からひょっこり現れたりはしないだろ」
「そうでもないよ。昔には人の意識だけで出来た幽霊なんてのもいたみたいだし。無意識の集合意識とかそっち系ね。どっちかっていうとそれは妖怪に近いんだけどね」
麗奈はそう言うと、急に俺の左手を握ってくる。
「ま、いいや。タイガーついてきてよ。例の地縛霊が出るって場所に案内してあげるから」
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