第243話 見せつけろ女子力

 それは突然の出来事であった。北の大国バルシア帝国が、突如としてドルドゲルス王国に攻め込んだのだ。大戦が終結して僅か半年。仮初の平和は一瞬にして崩れ去った。


 後世の人々は言う。予兆はあったと。グッドウィン王国にて蠢いた謀略の数々、そしてアスレスの王都アラメの襲撃。それらを示して、この再び巻き起こった大戦の予兆であると言う。


 しかし当時を生きた人間にとって、これら一つ一つの点である事件を線として結びつけろと言うのはどだい無理な話であった。少しずつそれぞれの事件の裏側を知る王侯貴族たちでさえそうであったというのに、一般民衆においてはまた戦争が起こるなどと言うのは不謹慎な冗談にすらならなかった。


 とにかく、が張り巡らせた謀略はバルシアの侵攻という最悪の形で次の段階を迎えた。最強の騎士は敗れ、強固な王都ロザルスは再び失陥の憂き目にあった。


 時をほぼ同じくしてアスレス王国においては、当時の王家に不満を持つ貴族や民衆が蜂起し、全土が内戦の様相となっていた。


 ことここに至り、多くの者が気がついたのである。大戦は終結したのではなく休止していただけだと――。


 エリオット・エプラー著「あの争乱の裏にいた魔物、その正体」より抜粋――。



 ☆☆☆☆☆



「魔導エンジン同調良好。敵の飛行魔導機の接近無し。ドルドゲルス国境を越えますわ!」


 開発責任者にして、暫定的艦長の座についたエイミーの声がブリッジに響く。私は艦長って渋いおじさまのイメージがあったけど、案外さまになっているわね。


 王都ウィンダムを出てまだ数時間、もうドルドゲルス国境か。実に早い。前世のジャンボジェットと変わらないくらいの性能をしているのかしら? まったく何を食べたらこういう発想が出て来るのか聞いて……聞いたら最後、丸三日は語るでしょうから、まあそれはいいや。


「どうですかレイナ様? この〈ゴッデスシュルツ号〉の乗り心地は?」

「すごく快適よエイミー。こんな物まで開発するなんて、ほんとすごいのね!」


 名前はともかく、恐ろしいほどに快適なのは間違いない。実はエイミーこそ転生者と言われても、もはや驚かないわよ? 黒幕だったら私のメンタルは死ぬけどね。


「お褒めに預かり光栄ですわレイナ様。といっても、私だけの力ではありませんの」

「どういうこと?」

「思い悩んでいた時に一陣の風が! その風がやんだ時、ふと私の頭にアイデアが降りてきたのです! これを天啓と言わずなんといいましょうか!」


 あー、そう言えば〈バーズユニット〉の時にも似たような事を……。直接確かめてはいませんけど、これはたぶん……。


「艦長! ドルドゲルス王国軍の魔力通信の反応をキャッチしました!」


 報告するのは、これまた暫定的にオペレーターとなったクラリスだ。前大戦の時も似たような事をしていたし、慣れた手つきで機器を操作している。


「どこですか?」

「マルツ市のようです。現在はここに防衛線を敷いているようで、諸侯軍の結集を呼び掛けています」


 マルツ市というと前大戦でヴィム君たちと合流したところだったわね。確か西部の中心都市だったから、そこまでドルドゲルスは追い詰められていると?


「そのマルツ市が見えてきたな。あれは……囲まれているのか?」


 シリウス先生が言うように、膨大な数の魔導機がマルツ市を包囲しているみたいだ。バルシアは物量自慢だと聞いていたけれど、まさかここまでとはね。


「クラリスさん、グッドウィン王国軍が救援に来たと魔力通信を」

「はい、シリウス様」

「魔導機部隊はマルツ市の防衛部隊と共に戦線を再構築するぞ!」

「「「了解!」」」


 シリウス先生の号令で、みんなピリリと気合が入る。数は少ないとはいえ精鋭ぞろいだ。大軍を前にひるむことはないわ。


「あの、シリウス先生――いえ隊長。ちょっとよろしいですか?」

「どうしたレイナ?」

「私は単騎で先行させていただきますわね」



 ☆☆☆☆☆



『お嬢様、準備はよろしいですか?』

「ええ、大丈夫よクラリス。パイロットスーツがぴっちりなくらい」


 トラブルが起きてでドレスを着て魔導機に乗るのがほぼ常態化しているけれど、ちゃんと魔導機用の操縦服はある。そしてその最新型である今私が着ている物は、妙にぴっちりしているレオタードタイプだ。


『安全性を考慮したものです。我慢ください』

「わかっているわよ。さあ、そろそろ!」

『お嬢様、ご武運を。〈ブレイズホークV〉、投下!』

「〈ブレイズホークV〉、レイナ・レンドーン参りますわ!」


 ガコンと音がして、航空艦から〈ブレイズホーク〉が投下される。私はすぐに魔力を注ぎこんで飛行状態に移り、グングンと加速させる。


「――見えた! うわあ、近づくと余計多く感じるわね……」


 大半は主力機の〈スカラー〉かしら? 他にも形が様々なものがちらほら。


「まずは手始めに〈バーズユニット〉ガンナーモードで展開! はい、景気よく《火球》百連発!」


 ドドンがドンと熱球が撃ち込まれ、バババボンと爆発が起こる。こっちに気がついた。迎撃の魔法が飛んでくる。でもこの距離だ。この子の性能なら、魔法を展開するまでもなく回避できる。つまりは撃ちあいではなく一方的なシューティング。


「命が惜しいのなら下がりなさいよ? 向かってくるなら容赦しないわ!」


 サブアームを展開し右腕部に再接続。前方に伸びた右腕は赤く大きく、アンバランスなものになる。


「照準……敵部隊中央。魔力良し。火力遠慮なし。女子力万点!」


 さあ見せましょうか、私の自慢の女子力を。――え? 火力は女子力に含まれない? そんな馬鹿な。


「押し寄せる敵を焼き払うわよ! 必殺! 《紅蓮の太陽砲ソルブレイズキャノン》ッ!!!」


 瞬間、超極太のビームが〈ブレイズホークV〉の巨大な右腕から発射され、敵を数十機単位で焼き尽くす。


「まだまだあッ!」


 私はそのまま右腕を動かし、地上の敵を焼き払う。ちょうどレイナのレの字を描く感じだ。この世界カタカナありませんけどね!


「ふぅ……。お料理は火力がモノをいうのよ!」


 特に中華料理はね! 私の一撃で敵軍は大混乱の阿鼻叫喚。抉られた地面がその威力を物語る。あー、やっとまともに敵の大軍に撃てたわこれ。元々こういう時に使う為の装備なのよ。さすがにオーバーキル気味な気がせんこともないけれど、備えて良かった火力と非常食ってね。


「レイナ様!」

「アリシア! 他のみんなは?」

「無事に着陸してドルドゲルス軍と合流しました。ユリアーナさんやヨハンナさんは無事でしたけれど、多くの方が安否不明みたいです」


 うーん、なんだかんだ知り合い多いし心配だわ。というかまたしてもモグラのお姉さん過労案件。


「――! 《光の壁》よ!」


 攻撃の気配を感じて、防御魔法を展開する。すると鋭く魔法が飛んできて私の魔法とぶつかって激しい閃光を散らした。


「ウフフ、さすがの火力ねぇレンドーン」

「この声は!」


 一機の魔導機が私たちの近くに降り立った。黒い装甲に虹色に輝くライン。細身の騎士を思わせるけど、手にはごついハルバード。ブリジットが乗っていた〈ワルキューレ〉を強化したタイプのようだ。


「その声、今度こそルシアね!」

「この高貴さ、他に誰がいるのかしら? そうよ、私こそがルシア・ルーノウ。頂点に君臨すべき女」


 ちょっとみない間に随分とまあ夢見がちになったものね。乙女ゲームとか少女漫画のライバルポジって後々主人公と仲良くなることが多いけど、この子に限ってそれはあるのかしら?


「ブリジットは……、死んだわよ……」

「知っているわ。綺麗に燃え尽きたようね」

仇討あだうちかしら? ごめんなさいとは言わないわよ」

「仇討ち……? いいえ、私は私としてここにいる。この〈ワルキューレスヴェート〉に乗って!」


 それがあの機体の名前。ブリジットの機体と似ているけれど、ただならぬ雰囲気を纏っているわ。


「さあ、全力で来なさいレンドーン。貴女の全力を、私の全力が叩き潰してあげる。それこそ勝利というもの!」

「言われなくても! アリシア、合体よ!」

「はい! 合体開始!」


 アリシアの〈ミラージュレイヴンV〉がほどけるように展開し、私の〈ブレイズホークV〉の各部に装着されていく。


「「合体完了! 超ヒロイン合体〈グレートブレイズホークV〉!!!」」


 顕現するのは偉大なる巨人。私とアリシアの前に、負けはない。


「さあ決着をつけるわよ、ルシア!」

「ウフフ、楽しみましょうかレンドーン」


 恨みだとか復讐だとか、今ここで全て断ち切ってみせる!

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