第115話 そうだ海へ行こう!
「シリウス先生、レイナ・レンドーンです。ご用事があるということなので参りました」
「ああ、入れ」
うーん、先生に呼び出されるって緊張するわね。前世でも職員室への呼び出しって、怒られなくても雑用を頼まれたり良い思い出はないわ。
ひょっとして最近
「失礼しま――あれ、エイミー? それにディランにルーク、パトリックまで」
「こんにちはレイナ様」
このメンバー。ひょっとしなくてもこのメンバーはマズいわ。特にエイミーがいるってことは十中八九
「これでそろったな。それで集まった理由についてだが、だいたい察していると思うが魔導機関係の話だ」
ほら、やっぱりね。だんだんと私の生活の比重が魔導機に侵食されている気がする。ただちょっと、自分専用機の〈ブレイズホーク〉を貰ってから愛着が湧き始めたのが自分でもちょっと怖いわ。
「それで、私たちは何をすればいいんでしょう……?」
「心配するなレンドーン、今回は実戦ではなくて性能試験だ。そのためにキャニングもいる」
「……性能試験、ですか?」
「そうだ。お前たちにはちょっと海水浴に行ってもらおう」
☆☆☆☆☆
「う、み―――――!!!」
季節はもう秋だけど、やっぱり海に来ると何か開放感あるわね!
前世も今世も島国生まれ島国育ち。何か心の
「スイカを持ってくればよかったわね」
「スイカ? スイカを持ってきてどうするんだ?」
「愚問ねルーク。割るのよ」
「割る!? 普段食べ物を粗末にするなと言っているのにか!?」
「もちろんその後美味しくいただくわ」
青い空、青い海、白い砂浜、そして……。
「これがあるのよね……」
「そうですよレイナ。今日の僕たちの目的は魔導機の試験です」
「ええ、存じ上げていますわディラン」
そして魔導機。その水中稼働試験をするために私たちは海に来たのだ。本当にこんな金属の塊が泳げるのかしら?
「どうだいレイナ、この僕の専用機〈ブライトスワロー〉は?」
「なんというかその……白いですね」
今砂浜に並んでいる魔導機は全部で四機ある。私、ルーク、ディランの専用機。そして新造のパトリック専用機だ。
夏の間に完成したというパトリック専用魔導機〈ブライトスワロー〉は、特徴がないのが特徴と言いたくなるシンプルな機体だ。
陽光を照り返す純白のボディカラーに包まれたその機体は、〈ブレイズホーク〉なんかと違ってごてごてと装備がついていない。剣と盾、そしてマントというシンプルな騎士スタイルだわ。
「……これで完成なんですよね?」
「ああそうだよ。まあ、すぐに実力をお見せしよう」
実力を見せるイコール実戦と考えると、私はいっこうに実力を見る日が来なくても構いませんわ。パトリックには悪いですけれど。
「みなさーん、そろそろ始めましょー!」
「うん、すぐ行くわエイミー!」
☆☆☆☆☆
「待って待って待って、エイミーの事を信用していない訳じゃないんだけど、これほんとに大丈夫なわけ!?」
「大丈夫ですレイナ様。風魔法を利用して潜水時の制御を可能にしていますから。理論上は空気のない水の中でも大丈夫ですし、圧力なんかも調整するので深く潜っても大丈夫ですよ」
潜水試験と言っても新しい機能がついたわけではない。元々付けていた飛行時などに気圧を制御する風魔法の変換システムを応用して、ただ水の中に入るだけのものよ。
潜水後は同じく風魔法で操縦席内の安全を確保し、水魔法で機体の動作をサポートする。言うは簡単だけど、潜る私は果てしなく不安だ。
別に私はカナヅチじゃないのよ? 潜水艦どころか鉄製のお船もない世界で、いきなり十歩飛ばしぐらいで水の中に魔導機突っ込むのが怖いのよ?
「それでは、潜水開始!」
「あわあわあわ、ちょっと待って。あなた魔導機関係は本当に容赦ないですわね!?」
☆☆☆☆☆
「ね、大丈夫だったでしょう?」
「はあはあはあ……、まあ海の中は中々綺麗だったわ」
大丈夫だったけれど怖かったわよ。
何が怖かったかというと、魔導機が思ったより水の中で機敏に動くの。空飛んでいる時と同じくらいの速さで。エイミーと出会うタイミングが違ったら、間違いなく私はこの子の事を異世界転生者と疑っていたわ。
「これで試験終了ね。さあ、帰りましょう」
「それがそうはいかないんですよ」
「ディラン、どういうことですか?」
わーわー言って個人的に疲れたし、海はもう嫌というほど堪能したので帰りたいんですけど。え、ワガママ? それはそうよ、だって私は悪役令嬢のお嬢様ですから。
「それについては僕が説明しよう」
「パトリック?」
「実はこの付近で海難事故が相次いでいるんだ。もしかしたら海賊の仕業かもしれないから、ついでに調べようってね。幸い僕たちの魔導機には飛行能力があるから、周辺の無人島の調査もすぐさ」
なんだろう。ついでと言っているけれど、どちらかというと潜水試験の方がついでっぽく感じるわ。このパトリックの笑み、最初からこっちが本命だったんじゃないかしら?
「じゃあ早速出発しよう。二手に分かれて、チーム分けは僕とレイナ、ディランとルークで。エイミーはここに待機して何か異変があったら教えてね。よろしいですね、殿下?」
「……くっ、これで貸しは一つ返しましたからね」
「良いですよ、僕はまだいくつかお貸ししているので。さあ行こうかレイナ」
「え、ええ。すぐ戻るわね、エイミー。ディランとルークもお気をつけて」
貸しとか借りとか何の話でしょうか。まあいいわ。さっさと終わらせて帰りましょう。
☆☆☆☆☆
「ポイントD異常無し。これで四か所異常なしですね」
点在する無人島や岩礁に潜んでいる者がいないか空から探し始めてしばらく。既に四か所の目標を調査したけれど、今のところ何も異変はないわ。
「これじゃあ僕とレイナのお空のデートになっちゃうね」
「パトリックったらまたご冗談を。でもまあ、何もない方が良いですね」
私たちに割り当てられた目標はあと三か所。本当にこのまま何もなければ良いんだけれど……。
「ポイントEを目視……どうやらデートの邪魔が入ったみたいだね」
「あれって……魔導機ですわよね? 少しずんぐりむっくりですけれど」
「そうみたいだね。所属不明魔導機を六機確認。警告の後攻撃開始」
いやいやいや、海賊って聞いていたから私はてっきり木造船に乗る漁民くずれの集団を創造していたわよ。それが魔導機、しかも恐らく新型って。
パトリックのこの落ち着きよう、ある程度予測していたみたいだ。ということはやっぱりハメてくれたみたいですわね。
「ディラン聞こえるかい? こっちは当たりみたいだ」
『こちらの方も接敵しました。数は四』
「別動隊もいたか……、増援は期待できないね」
「ええ、数は不利ですけど見つけた以上は仕方ありません」
「じゃあ一応呼びかけを……逃げたね」
パトリックが呼びかけるまでもなく、私たちの接近を確認した不明魔導機は五機が海中へと逃げ出した。少し形の違う一機だけがこちらを窺うように見ている。
「僕は逃げた五機を追うよ。レイナ、多分隊長機だろうけどあの一機は任せても大丈夫かい?」
「わかりました。今回の作戦についていろいろと聞きたいことはありますけれど、あの一機はお任せくださって結構ですわ」
「じゃあということで、すぐに戻るよ愛しのレイナ」
さあて、普通の魔導機と違って泳げる見たことの無い形の新型ねえ~。タコか太ったペンギンみたいな形ですけど油断は禁物。タコ焼きにしてあげますわ!
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