第96話 レッツパーリー!

前書き

今回冒頭のみルーノウ公爵視点です。

――――――――――――――――――――――――――――――


 今日は我がルーノウ公爵家にとって運命の日である。


 計画は順調に進行している。賛同者は確実に集まっている。大義名分の為に傀儡かいらいとして取り込もうとした第二王子に拒否されたのは痛手だが、かくなる上は我輩わがはい自身が王となりルーノウ朝を開けばいいだけの事。


 今年度のエンゼリア王立魔法学院の卒業式の日、我が娘ルシアが配下を使って第二王子を始めとした貴族の子弟を人質にとる。その隙をついて我輩は決起。一挙に王都を制圧する。


 あの憎きレンドーンを始めとしてコソコソ嗅ぎまわっている連中がいるようだが問題ない。あとわずか、あとわずかの時間であの愚昧な王を取り除き、この国に新たな秩序が生まれるのだ。


 アスレス王国なんぞと融和などもってのほか。成長著しいドルドゲルスと結んでこそ真なる道は開けるのだ。さあ、集う同志諸君に檄を飛ばしに行こうか。



 ☆☆☆☆☆



 今日は私にとって運命の日だ。


 事前対策は万全ではないかもしれない。人に漏らせないから協力者もいない。可能な限り遠回しな言い方で各方面に準備を頼んだけれど、確実とは言えないわ。


 今日、私が入学して二度目のエンゼリア王立魔法学院の卒業式が行われる。そこでルシア一派が行動を起こすのはもはや必定。でもお父様も王都で頑張っているはずだから私も頑張らなくちゃ。


 お父様からお手紙が届いてから、今日この日まであっという間に日々は過ぎて行った。嵐の前の静けさというやつか、ルシア一派はこの期間大人しいものだった。


 私はこの日の対策に気を取られながらも、学年末テストには全力で臨み無事順位をキープ。ディラン達上位陣の牙城は崩せなかったものの、十分優良成績者として胸を張れる成績だった。


 さあ、悪役令嬢には悪役令嬢。パーティーの始まりですわ。オーホッホッホッ!



 ☆☆☆☆☆



 この日なんらかのアクションをルシア一派が起こすと言っても、泳がせることを考えれば常に監視することはかなわない。というわけで私は、ひとまず昨年と同じくお料理研究会の活動に励んでいた。


「サリア、ここはまかせていいかしら?」

「はいレイナ様。お任せください!」


 去年に比べたら人数も増えたので、ドタバタ感を今年は感じない。

 順調。本当に順調に今年の卒業パーティーは進行している。このまま何も起きないと錯覚させるくらいに。


「じゃあレイナ、俺もあっち手伝ってくるわ」

「ダメよルーク、あなたはこっち」

「お、おう……」


 腕を引っ張って強引にルークを連れて行く。公爵家だから聞かされていると思ったけれど、もしかしてルークは聞かされていない?


 たぶんこの会場で私と同じように「ルシアを泳がせつつ警戒すること」を確実に伝えられているであろう人物は、ディランとパトリックの二人だ。ディランは王族として、パトリックは警備を請け負う一人として、自然な形で有事に備えているみたいだ。


 というわけで、私のカウンター計画的には必要なルークを連れ歩いているわけだ。ルーク狙いのご令嬢方から少しピリピリした視線を感じるけれど、気にしない気にしない。


「レイナ、さっきから何を考えこんでいるんだ?」

「うひゃああ! ライナス!?」

「驚きすぎだろう。さすがにボクも傷つ――オレが声を掛けてやったのだから感謝しろ」


 うわビックリしたわ。ライナスが近づいて来ていたのに全然気がつかなかった。


「ご、ごきげんようライナス。少し考え事をしていましたわ」

「それは知っている。オレが聞いたのは何を考えこんでいるかだ」

「それは……」


 たぶんライナスは今日の事を知らされてはいない。

 どうしよう、ルシアの事を言って協力を求めるべきかしら?


「よおライナス、絵の解説なんかはいいのか?」

「ルーク……。ああ、今は休憩中だ」


 私は会場を見渡す。この会場の誰が味方で誰が敵なのかまるでわからない。少なくともこの中の何割かの人間は、クーデターへの参加者だ。


「なんだ……?」

「何か始まるのかしら?」


 私は聞こえてきた声の方を振り向く。騒めいている参加者の視線は、ある一点に注がれていた。


 ――ルシアだ。


 上方、貴賓室用のテラスから会場を見下ろしている。その脇にはアレクサンドラ、ブリジット、キャロルが控えている。


「パーティーにご参加の皆様、ルシア・ルーノウ公爵令嬢ですわ」


 ルシアが使ったわけではないと思うけれど、風魔法で拡声された声が会場に響き渡る。不穏な気配を感じ取ったのか、ライナスとルークが私をかばう様に立ってくれる。


「本日は皆様にお願いがあってここに立っております。……私の人質になっていただけませんか?」


 会場からは「人質?」「どういうことだ?」とピンときていない参加者の困惑の声が上がる。


「分かり易く説明いたしましょう。今宵、我が父ルーノウ公爵は愚昧なる現国王を打倒し、この王国の正統なる支配者となります」


 「クーデターじゃないか!」「ふざけないで!」今度起こった声は困惑ではなく、怒りが多くまじっている。どうやら賛同者はそこまで多くないようね。


「素直に協力していただけると嬉しかったのですけれど……兵たちよ!」


 ルシアの呼び声に呼応するように、例の仮面の集団がどこからともなく現れる。また警備に小細工をしていたのでしょうね。広大なエンゼリアをアデル家だけが警備する訳にもいかないから。


「さあ、愚昧なる現国王を見限り、我がルーノウ家につくものは名乗りを上げなさい!」


 参加者に紛れながらその時を待っていたのでしょうね。男女何人かの生徒、そして幾人かの来賓がルシアの呼びかけに応じて兵たちの側に参加する。


 ……あれ、考えていたより少ないような?


「これだけですの……? ウォルター・レディック、タバサ・ガーノウ、ケイナン・ブラントリー、何故こちらに来ませんの!」


 どうやら呼びかけに応じた人数が少ないのは、ルシアにとっても予想外らしい。たぶんこれが“泳がせておけ”の意味の一つですわね。お父様が何かしたんだわ。


「……そう、裏切るのね。もういいわ。兵たちよ、残りの者を拘束しなさい!」

「そうはさせない!」

「――ッ! ディラン殿下……!」


 剣を掲げてやってきたディラン殿下にルシアは動揺の声を上げる。それに現れたのはディランだけではない。


「騎士団突入! 参加者を護り、造反者を捕縛しろ!」

「パトリック!」

「無事かいレイナ。感づかれないように少し離れたところに兵を伏せていたから遅くなった。すまないね」

「いいえ、大丈夫ですわ!」


 さすがディランにパトリック。やっぱり準備をなさっていたのですね!

 というか二度も三度も使った手には引っかからないわよ。ちゃんと対策して当然ですわ。


「くっ……! こうなったら!」


 不利を悟ったのかルシアが取り巻きを連れて外へと逃げていく。


「レイナ、ここは僕たちに任せて君はルシア嬢を」

「わかりましたディラン。そうだ、ライナスはアリシアの護衛をお願いできますか?」


 アリシアは去年も生身で魔導機へと挑んでいった。マギキンのヒロインと言う重要キャラである以上、何か危険な出来事が起こる可能性は大きいでしょうね。そこで攻略対象キャラの一人が護衛にいれば安心だ。


「アリシアを……? わかったオレに任せてもらおう!」

「お願いします。さあ、行くわよルーク!」

「おう!」



 ☆☆☆☆☆



「ルシア……とその取り巻き達! 大人しくお縄につきなさい!」

「レンドーン……! あなたはいつも私の邪魔をして……!」


 いえ、邪魔をした記憶はないんですけれど。邪魔をされた記憶なら多大にありますけれど。


「諦めろルーノウ! お前たちでは俺とレイナには勝てない!」

「あらルーク様もそう仰るのですか? その女は邪神と契約して人ならざる力を手に入れている。みんな騙されているのですわ!」

「……邪神? 何を言っている……?」


 何々どういうこと? ルシアはあのおとぼけ女神の存在を知っているの? ルークは追い詰められた人間の妄言だと思っているようだけれど、私には心当たりがありまくりなんですけれど。


「どのみち終わりなのは私たちではありません。あなた方ですわ!」


 ルシアがそう言って右手を掲げると、彼女たちの背後に複数の魔導機が現れる。

 あれは光属性魔法の《光の鏡》だ。光を操作してある物をないように見せかける魔法。現れたのは複数の〈ブリッツシュラーク〉と、ルシアが乗り込む――


「――〈シャッテンパンター〉、やっぱりルシアが……!」

「終わりですわ、レンドーン!」

「それはどうかしらね?」

「――何!?」

「《砂嵐すなあらし》! こっちよルーク!」


 目暗ましをして私たちが向かうのは会場の一画。そこにはとして飾られている私の〈ブレイズホーク〉とルークの〈ブリザードファルコン〉がある。


 悪役令嬢には悪役令嬢を、魔導機には魔導機を。

 さあ、ここからがパーティーの始まりよ!

 ダンスは上手に踊れるかしら、悪役令嬢さん?

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