Track.6-23「待たせたな」
一方、一期生メンバーは一期生メンバーで、二期生メンバー同様に一箇所に集まってクリスマスライブに差し込まれる映像の収録を行っていた。
場所は横浜赤レンガ倉庫――現在はクリスマスマーケットという催しのために、建物自体にもクリスマスの飾りつけがなされ、夜にはイルミネーションも炊かれる。
その、歴史ある赤い建物と建物との間の広場とも言える幅の広い歩道で、その異界は開かれた。
赤い森――まるで
一期生メンバー9人と、それを護る警護員18人、そして収録スタッフ、運営スタッフの全員が開いた
メンバーやスタッフはギリギリのラインで守り抜いた。
しかし警護員はその殆どがその
ちょうど夜勤から日勤に引き継がれた直後の異界転移だったために、担当する警護員は通常時の倍の18人がいた。日勤9人と夜勤9人だ。
しかし夜勤明けの夜勤担当9人――
何があるか判らない・何も無いかもしれないという状況を警戒し続けるというのは激しく集中力を削っていく。剰え、勤務中は食事を採れず、生理現象ですら最小限に我慢するのが普通だ。待機はあっても休憩は無く、気の休まる一瞬など無いも同然だ。
それでも何も無いという結果が続くと、段々と人は慣れ始め、結果張り詰めていたはずの緊張の糸は
日勤担当の9人――
日夜総じて。
弛れを見せていないのは、それぞれのチームの
そして
「右京さん、まだかかりますか?」
「黙ってろ
チームFOWLの4人は一期生メンバーについてそれを防衛する役割を負った。それは、異なる襲撃に警戒しながら、目の前で傷ついていく仲間を見殺しにしなくてはならない。
手を出せば本当に護るべき者を危険に晒す。
優先順位を間違えてはいけない。
理性と感情とがギリギリで互いを削り合う中、ただ
しかし
弦術士である糸迫右京は、周囲に目を凝らさなければ見えないほどの細い
また鉱術士である錫方弥都もまた、地面を創り上げる鉱物に働きかけて周辺の地形を探査する魔術を行使していた。
異界に飛ばされたことでオペレーターや本部と連携が取れないため、
そして防衛陣の前衛に立つ、
気体寄りの
「くそっ」
右京が舌打ちとともに下卑た言葉を発した。弥都もまた同じような表情をしている。
「右京さん、そっちもダメっすか」
「ああ――この霧にはどうやら、異界の意にそぐわない
結果、霧に阻まれ索敵と周辺地形把握はどちらも座礁した。
警護員たちの動きが精細を欠くのも、どうやらこの霧のせいらしい。
「右京さん、なら俺がやります」
堪らずに霧生が左手に
「加瀬、待て!」
「もう待てません!
そして左手を突き出し、大気をかき混ぜるように薙ぎ払うと、荒れ狂う風が吹き荒んでは立ち込めていた薄紅色の霧は追いやられて視界が開ける。
「ギィッ!?」
「ギギャッ!!」
「馬鹿、待てと言っただろう!」
「――っ!!」
その暴風に、蹂躙を行っていた
右京が制止したのは、そうなるだろうと見越していたからだ。
「させないっ!」
ソレが襲い掛かると同時に太刀を振りかぶった詩遊子は
しかし
長い黒髪を振り乱して跳躍を繰り返す様は樹上の
「ギィヤッ!」
「く――っ!」
「ギャギィ!」
「が――っ!」
それぞれ、魔術の行使直後の硬直を狙われ、その長い爪で胸部と腕に傷を負う。その爪の一撃は厄介ではない、切断されるほどの深さではないし、骨を折るほどの重みも無い。
ただ厄介なのは、その爪から浸透する毒だ。殆どのメンバーはその毒により、四肢の自由を奪われつつあった。無事なのは太雅と玲冴、茜と右京、弥都くらいのものだ。
「ケェェェェェエエエエエエ!!!」
「くそっ、またアレか」
霧生を襲った
するとその腹部がぼこりと盛り上がり、
当初、襲いかかってきた
「ケェェェェェエエエエエエ!!!」
そして、詩遊子を襲った方もまた同様の金切り声を上げる。4体目が産まれようとしているのだ。
「させるかぁっ!」
太雅が突出し、右手を突き出す。
「
しかし
「しまっ――」
「ギェアアアアアア!」
断末魔とも聞けるその声と同時に振り上げられた青褪めた腕。
伸びた五指の黒い爪が、振り下ろされ――――
「――
そこには音叉型の術具を構える女性の姿があった。
すぐ近くでは、空間を割り裂いたことで出来た極彩色の渦。
眼前に展開されたのは、斬撃を伴う暴嵐の渦。切り刻まれ、黒ずんだ血飛沫を上げて
「待たせたな」
そして。
もう1人の声と影。
「これ以上増えると面倒だから全力で行かせてもらう――
前方に突き出す形で構えた両掌から迸る無数の光弾。それは2体の
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