Track.6-22「お茶碗持てなくなんだろうがぁっ!」
初の両手に握られた双剣は柄尻が長い飾り緒で連結され、それを手にした初は怒涛の
「“
左手の直剣を振る。すると初と実果乃との間にあった3メートルほどの距離はそのひと振りで消え、初は実果乃のすぐ真後ろで右手の剣を振りかぶっていた。
「――!!??」
「“
天からほぼ垂直に振り下ろされた右手の剣の斬撃を、実果乃は当然のように頭部を守るために黒い腕を
黒く変色した部位は有り得ないほどに硬化し、物理的な攻撃も、そして魔術などの霊的な攻撃をも受け付けない。
しかし初の振り下ろした双剣の片方――右手の
その軌道上にあった実果乃の左腕は、その斬撃が通過した部分だけ、まるで切り裂かれたかのようにぱっくりと開く。
「っ!?」
実果乃は再び目を見開き、その事態にほんの一瞬呆然とした。
「ふっ!」
返す刀で
「あがぁっ!」
「沖縄では、“痛い”のことを“あがぁ”と言うらしいですね。沖縄出身ですか?」
実果乃もまた
しかし再生能力はあくまでも、傷を塞ぐ力だ。
分け離れた部位は最早“自らの身体”とは異なる。
魔術業界に斬術が最も普及されたのは、対象の部位を切断することでどれだけ凶悪な再生能力をも無効化するからだ。
だからこそクローマーク社における攻撃のための兵装、甲種兵装の全ては斬撃武器であり。
だからこそ
切り離す、という行為は、ただそれだけで幻獣や異獣・異骸にとって脅威となるのだ。
ただしそれは、あくまでも一般的な相手の話だ。
そして実果乃は、一般的な相手とは言い難かった。
「お前、ふざけんなよっ!左手斬り落としたらお茶碗持てなくなんだろうがぁっ!」
切り落とされた左腕の断面から肉色の糸が何本も飛び出したかと思うと、切り離された前腕の断面からも同じ糸が伸び、それらの糸は絡み合うと切り離された前腕が引き戻されて断面同士が接合した。
そしてその前腕を大きく振りかぶると、薙ぎ払い気味に初を強く殴打する。
「“
轟く声と同時に、初を殴り飛ばした実果乃の周囲にいくつもの斬痕が出現し、その銀色の軌跡が実果乃の身体を切り刻む。
しかしやはり黒く変色した部位に突き立てられた斬撃の軌道は甲高い金属音を放ちながら弾かれて消える。
だから、実果乃に通じた斬撃は頭部に襲来したものだけだ。
「がっ――――ぁ、」
顔面をずたずたに切り裂かれたが、しかしその傷は切断ではないために直ぐに塞がる。
痛みに苦悶の呻きを零しながら、実果乃は顔を抑えて傷を接合させていく。
「なら何度でも喰らわせてやるよ――そら、もういっちょ!“
再度、実果乃の周囲に銀色の霧が立ち込め、それが渦巻く斬撃の嵐となって降り注ぐ。
しかし今度は、初もその攻撃の最中に飛び込んでいく。
「“阿形、開け”」
斬撃と斬撃との間隙を縫って接近した初は、右手に持つ阿形の力を解放しながら実果乃の右脇腹から左肩にかけてを切り開いた。
そして初が離脱すると同時に銀の霧は開いた肉の内側に密集すると重ねるように斬撃を集中させる。
「がが、がががががが――っ」
「“阿形、開け”」
「んじゃこいつはどうよ?
ひとつに束ねられた斬撃は、巨大で強大なひとつの斬痕を作り出し、初が切り開いた右肩から鼠径部にかけてのラインに重なるように射出される。
「――――っっっ!!」
激しく黒い血飛沫が上がり。
その斬撃の軌道に沿って二つに分かれた実果乃は、しかしその全身に罅が入ったかと思うと、まるで荘厳なステンドグラスを割ったかのような極彩の破片を散らして、目の前から消えた。
「――――逃げられたようですね」
初は呟き、周囲の気配を探知して敵がいないことを確認すると、自らの
その隣に並び立った
「逃げた、って?」
「
「ふぅん」
「しかし一先ずは、事態は防げたようです」
敵を退けた初のもとに心が駆け寄る。
「碧枝さん?それに、鈴芽ちゃんまで……」
「よっす、久しぶり」
「どうして……?」
「大変お待たせしました――異界攻略が終わったので、間瀬さんチームが駆けつけた、ってところです。一期生メンバーの方にも2人ついています」
「え、じゃあ谺さんと百戸間さん?」
「いえ。攻撃手段を持たない百戸間は僕と
「じゃ、じゃあ、一期生の方に行ったもう1人、って?」
初はにこりと微笑み、その名を口にする。
「勿論、間瀬さんですよ」
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