Track.6-20「関係者以外、立ち入り禁止なんだけど?」
それに対し、木場朱華乃、乾九郎、アドルフ・ヴォルフの3人は全員が霊基配列の固着化してしまった、もう魔術士にはなれない者たちなのだ。
しかし霊基配列を介さずとも魔術は行使できる。
その方法のひとつは、体外に存在する自らのものではない霊基配列を用いること――これは、
ただしこの場合、その
また、クローマーク社のみならず多くの民間魔術企業が製作している魔術道具もまた、擬似的に魔術を行使するものである。
そしてもうひとつは、そもそも霊基配列を介さない魔術を行使すること。
つまりは瞳術あるいは躰術を行使することだ。
瞳術・躰術に分類される魔術は霊基配列を介さない、人体のその部位に宿る
基本的にはその器官が持つ性能を向上させるものが多いが、中には目から
チームWOLFの3人――朱華乃、九郎、アドルフは後者の方法で、魔術士になれないなりに魔術士として生きる道を見出した。
霊基配列が固着してしまったために通常の魔術は行使できないが、それゆえ瞳術・躰術の
そんな魔術士とは呼べない魔術士のことを一部では、
魔術を使えなくても、魔術士として最前線に立つことが出来る。
それを、自分たちなら、チームWOLFなら、証明できると信じているからだ。
「調子乗んなよくらァ!」
右腕で掴む実果乃の右腕にさらに左手をも絡ませ自らの頭の方向に引き込みながら、その右腕を挟む形で実果乃の前面に飛び出した両足を伸ばしながら、そして全身を反らすようにして実果乃を巻き込んで地面に倒れ込んだ。
飛び付き腕拉ぎ十字固め。
「ガッ!」
「おッしャァこらァ!」
九郎と実果乃の身長差は20cm以上はある。その体格もまた、九郎は鍛え抜かれたゴリゴリであり、対して実果乃はどちらかと言えばガリガリだ。
実果乃からすれば巨躯が自分を巻き込んで背中から倒れ込んだのだ。その重みが加算された重力加速度で硬い石畳に墜落した背中は、衝撃を分散させずに胸部へと突き抜けさせ、その痛みに実果乃は張り付いた薄ら笑いをほんの一瞬だけ失った。
「おィおィ――!?」
「うふ、うふふふふ――」
しかしそれもほんの一瞬だ。乱れたロングスカートから伸びる脚もまた黒く変色すると、一度大きく両足を振り上げて地面に突き立て腰を浮かすと、その体勢のまま起き上がろうと身体が九郎ごと持ち上がっていく。
「あはは、あはははははっ!」
身体が反対方向に“く”の字に折れ上がりながら、そこから背筋が戻るように身体が持ち上がる。
完璧に腕を
しかしそこから離脱せんと腕を放そうにも、どういうわけか右手も左手も、その黒く変色した腕から離れない。どれだけ力を入れても、また抜いても、ピタリと接着したまま動かないのだ。
「ねぇ――本当、邪魔なんだけど?」
「おィ、まさかァ――――」
そして実果乃は完全に立ち上がると、伸びた右腕――九郎付き――を一度だらりと垂らしたと思うと、まるでボールを遠くへと放り投げるサッカーのゴールキーパーのようなフォームで九郎をぶん投げた。
「――がァボあッ!!」
九郎は3メートル向こうの停車しているワゴン車の側面に叩きつけられ、ぐったりと地面に伏す。
それを見届けた実果乃はやはり張り付いた薄ら笑いのままで振り返る。その視線の先には身を寄せ固唾を飲んでいる二期生メンバーの7人が映っている。それを護る朱華乃たち4人や、あまりの衝撃に配置箇所から動けずにいる唯好たち3人、加えて運営スタッフや収録スタッフたちなどは視界に入っているがぼんやりとぼやけ映っていないも同然だ。
「お待たせぇ――」
ひたりひたりと歩を進める、標的を定めた
歩を進める最中で一度ぶるりと身体を震わせた実果乃の表皮は、もう首元まで真っ黒に染まっている。
その双眸ですら、白目が外側から墨が滲むように黒く染まっていっている。反対にその瞳は爛々と紅く燃えるように輝いている。
しかしその目は、
「――
「……
小首を傾げる実果乃だが、その直後、目を見開くことになる。
突き出された左手の手首から、渦を巻いて赤い羽虫――
芽衣専用の手甲型丙種兵装・
吸い上げた血は輸送管を通じて手甲の外側に送り出され、その血に命じて芽衣は
飛来した赤い蜉蝣たちは四方から実果乃に襲いかかると、呆然とする実果乃を取り囲んで実に呆気なくその黒い皮膚に張り付き――弾かれる。
しかしまだ黒く変色していない顔から体内へと侵入した蜉蝣たちが、実果乃の狂気に塗れた精神を蹂躙し、在るはずのない憎悪を掻き立ててそれら全ての対象を
「……心ちゃん、援護お願い」
「了解しました。海崎統括、ご許可いただけますか?」
『――分かった。茉莉、下がって東側の通りの警戒に移れ。鹿取はスケアクロウの援護に回れ』
「ありがとうございます。ベリもとさん、ちょっと目まぐるしくなります」
『うん、解ってる。全力でいいよ、喰らいついて見せるから』
対象の数的情報を正確に計測する
動体視力を爆発的に向上させる
対象の位置や部位を正確に捉え遠隔攻撃を命中させる
そして――睨み付けた対象を石へと変化させる禁忌の瞳術、
「――さっき、邪魔だから退いて、って言ったよね?」
実果乃は立ち上がった
「関係者以外、立ち入り禁止なんだけど?」
それに対して
「はぁ?別に聞いて無い――――っ!?」
そこに降ってきたのは、数本の黒い槍――
咄嗟に飛び退いた実果乃と
「……本当、邪魔だって言ってんでしょ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます