Track.6-2「全身全霊での戦いだ」
株式会社クローマーク本社ビル2階の大会議室。長机を連結させて作られた“口”の字の机に、
所謂上座の位置に陣取るのは、今回の依頼が非常に大規模なものとなったために指揮を取る形となった本社上層部。中央には常務・
上座に対して右側、上層部に近い位置にはクローマーク中央支部長・
そして
チームFLOWの隣、上層部の左側で近しい方には今回の警護で団員を支援し連携を推しはかるオペレーターチーム6名がずらりと並ぶ。その中には、
勿論、
本来であれば、このような大規模の魔術警護を民間魔術企業で行う場合、
「それでは定時となりましたので、会議を始めさせていただきます」
警護部長の倖田が発し、大会議室内に独特の緊張感が漂う。まずは挨拶を、と倖田に促された常務の和泉が面々を見渡し、目を細めて口を開く。
「壮観だね――今回の依頼はすでに通達のあった通り、今をときめくアイドルグループの魔術警護だ。期間は11月16日から12月27日までの6週間、を、24時間体制でメンバーひとりひとりを護る。機関員も投入しての、社の総力を上げた全身全霊での戦いだ」
凪いだ水面に
芽衣はそわそわとどこか落ち着かない、痒みに似た感覚を覚えながらも、横目でちらりと茜や心を盗み見た――2人とも、とても落ち着いているように見える。
ぺち。膝に載せた手に小さな衝突の感触。逆隣を見ると、航が鋭い顔で前を向いている。
“集中しろ”――そう言われているのだと気付き、芽衣は一度目を閉じると、自らの首から脳へと循環する
(何で会議に集中するだけで魔術使ってんだこいつ……)
航は脳内で項垂れたが、しかしこういった場面で
敢えて航は
それは欠伸を噛み殺す代わりでもあるが、どちらかと言えばそれは
無論、検証が必要だが正当防衛的に、または緊急避難的に行使されることはあるが、対象が違法に魔術を行使しない限り、一般人に対する魔術の行使の殆どは厳罰の対象となる。
逆に言えば、他者を対象にしない限り魔術士は合法に魔術を行使し放題である。自らが対象であり、言い換えれば自分が同意しているのだから、この場において躰術をいくら行使しようがその効果範囲が自らに留まる限り法に抵触することは無い。
「我々本社役員も含め、一同が一丸となって業務に当たることを期待する。以上」
簡潔に纏められた言葉は意外にも短いものだった。話し始めてから3分も経っていない。
「常務、ありがとうございました。続きまして、
まるで瞑想のように目を細めて聴いていた魔術士が立ち上がり、一同に対して頭を下げた。
「ご紹介に預かりました、
告げながら見渡すと、航と目が合う。その目付きはまるで、「お前んとこはどうなってんだ」と追及するようだ。
その様子が少し可笑しく、込み上げてくる笑いを咳で払う。
「すでにご存じの方もいらっしゃるとは思いますが、
会議室内の緊張に異なる色が混じり出す。会議室内で入社から歴の浅い者はチーム
そもそも、
しかし初は続ける。実に朗らかな表情と口調で以て、
「開いた異界の数は千を超えます。その規模、大小も様々で、現在
「攻略は出来たのかな?」
中央支部長・石動が訊ねる。
初はにこりと微笑むと、確かにひとつ頷いた。
「ええ――そして決定的な事実の、確信に至りました」
「それは?」
「それはこの場でお話できることではありません。ただ言えるのは――
実は、この監査・助言役というシステムは半ば
だから民間側からして見れば、不測の事態に
しかし勿論、その分監査の目は厳しくなる。
「私の上長からも、クローマーク社さんに関しては最大限助力するよう言付かっております。拙い身ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」
再度頭を下げた初に、一拍の間を置いて周囲から拍手が沸き起こった。
「――上長って、間瀬さん?」
「だろうな。だってあの人、間瀬さん直属の調査団の1人じゃん。間瀬さん、遅れてくる3人の中にいたりしてな」
周りに合わせて拍手をしながら問う芽衣に、茜は答えた。
その問答を横顔のままで聞きながら、航は思考を練る――いつもの、考え事を口に出してしまう癖を抑えつけて。
(――まぁ間瀬は、アイツに貸しもあるだろうしな)
思い出されるのは、飯田橋での異界と、そしてつい先日の
前者は直接対峙した上で記憶を奪われるという失態を見せ、後者は異界との接続・通信を
十中八九、間瀬は今回の
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