Track.4-2「こっぴどくやられたようですなぁ!」
弦術――字義通りそれは、
弦術で操る弦は、“接続”と“伝達”そして“繊維”の三つの要素を持つ。魔術士の教育に取り入れられているのはこのうち、“接続”だ。
点と点を結び、片方が持つ情報を片方へと伝達する――それが、現代の魔術士にとって必須とも言える
また、
事実、近年目覚ましい発展を遂げた“クラウドコンピューティング”という技術は、このグノーシス領域への
そして弦術士にのみ享受される
今しがた奏汰を襲っている部下に施された
最後の
これは
“何か”とは物体に限らず、この要素を極めた弦術士は“炎”や“水”、“風”や“感情”などをも創造することが出来たと言われている。
現在、放課後の人のいない多目的教室に陣取った糸遊愛詩が展開している弦術の数々は、彼女がその三要素全てに於いて一定以上の実力を有していることを物語っていた。
まず彼女が纏う
次に彼女が両手から放出する幾万本の
巧妙なのはそれ以外にも、実は講堂内に縦横無尽に張り巡らせている弦だ。軽くそして抵抗を感じさせないほど薄く・伸縮性と強度に富むその弦は、攻撃を躱すために跳び回る奏汰の身体に絡んでいくが彼はまだそのことに気付いていない。
部下たちを操る弦よりも講堂を封鎖する弦を仄かに見えづらくしたのは、
そしてその包囲網が外部から受診する振動が
無論、敵が真界にいることなど奏汰は知る由もない。
そして7人の部下全てが意識を失い、しかし物言わぬ傀儡となって襲来を続ける中で、漸く自身の身体に絡む弦の存在に気付いた奏汰が徐々に速度と体力を失っていく混乱に塗れた戦闘劇は一時間をも超えて続けられ、
「阿座月さんに言われた通り、ここらが潮時っ――」
8人が講堂に現れるや否や、部下7人の操作を
「――させるかよっ!」
しかし講堂に踏み入るよりも早く、としか言いようの無い迅速さで事態を察知した龍月が抜いた“妖刀・
「ちぃっ――間瀬の旦那、こっぴどくやられたようですなぁ!」
快活に嗤う龍月の声はもう愛詩には届かない。おそらく逆探知はされていないだろうが、念のためと愛詩は急いでその場を離れ、帰途に就いた。
掌の傷は、新しく創り出した弦で縫い、被せた“皮膚”を癒着させることで痛み以外を無かったことにする。
(うーん、やっぱりみんな強いんだなぁ――私ももっと、頑張らなきゃ、だ)
心の中で自己を鼓舞し、そして愛詩は新たな糸を別の異世界へと
自らの同胞たる、
そして、奏汰は。
調査団が持ち帰った戦果を聞き、一応の労いと称賛を口にした。一応の、とは、その言葉が彼の本心から湧き出たものでは無いという意味だ。
確かに幹部11人を生きて連れ戻すことが出来た。調査団に死者はおらず、また
しかし奏汰は自らを恥じた。その戦果を、自らが指示して勝ち得なかったこと。そして外部委託した民間企業の魔術士に二人の重傷者を出してしまったこと。
何よりも、当の首謀者は異界内で死亡してしまったこと。調査団の面々が目の前に居なければ、どう報告をしたものかと頭を抱えたいくらいだった。
それでも奏汰は告げる。
「みなさん――お疲れ様でした。
おかげで、
勿論これで終わりではありません。異界を調査し、残党がいないか、目ぼしい新たな情報は無いかを明らかにしなければなりません。
ですがそれは僕の今後の仕事です。
みなさんにはこんなに尽力していただいたのに、僕の不甲斐なさで十全の結果とすることが出来なくてとても残念に思います。
それでも、みなさんが誰一人欠けることなく帰還してくれて良かった。
それだけは本当に、心から感謝を伝えたい。ありがとう、ございました――」
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