或る家族の一日

カレー餅

第三者視点から見た日比野一家

 僕の名前は御手太郎。最近は日比野一家の生活をよく見ている。


 ・・・ここだけ聞けば僕はただのヤバイストーカー野郎だが、僕は決してそんな奴ではない。僕の両親は共働きで、2人とも海外出張していたのだが、コロナ騒動のせいで帰るタイミングを失ってしまい、僕は今家に1人だけの状態なのだ。

 お金も送られてこない中学生の僕が生活できるはずもなく途方に暮れていると、お隣の日比野さんのお母さんからうちで暮らす?と言うありがたい提案を頂いたので、お言葉に甘えて今は日比野家で暮らしている、というわけだ。

 元々お隣同士仲が良かったのもあって、居心地が悪いといったことはなかった。同級生の宗二とは友達だし、その妹の静華ちゃんは口数は少なかったが僕のことを歓迎してくれた。そのお母さんの明子さんや、お父さんの堂蔵さんもとても優しい。

 

 「おーい、太郎!朝ごはん出来たってさ!一緒に行こうぜ!って何書いてんだ?」


 そう言いながら宗二は僕に近づき、書き終わった日記を見る。


 「日記だよ、日記。夏休みの宿題であっただろう?」

 

 「げ、宿題かー。お前マジで毎日日記書いてんだな。俺なんか最終日にババーっと適当に描くのによ」


 「僕はすぐ忘れるから早めに書いておきたいんだ」


 「はー、真面目だなーお前。てゆーかなんでこんな時間に昨日の日記書いてんだ?」


 「昨日書くのを忘れてたんだよ」


 「書くのを忘れてたのか・・・」


 そんな会話をしながら、僕たちはテーブルにつく。僕たち以外はみんな席についていた。


 「まあ、来たのね御手くん。それに宗二も。じゃあ食べましょう!」


 「ん。お腹すいた。2人とも遅い」


 「・・-・」


 「まあそう言うなよ静華。お父さんはなんか喋ったら?」


 「ごめんね、静華ちゃん」


 「・・・別に、良い」


 「まあ、取り敢えず食べましょう!」


 『いただきます』


 そうしてみんなは各々に食べ始めた。今日のメニューはご飯と目玉焼きと味噌汁。そして秋刀魚の塩焼き。とても美味しい。


 「うん、やっぱ母さんのご飯は美味い!こんな美味いのになんでいつも父さんがご飯作ってんだ?」


 「・・・(´・_・`)」


 「ああ、別に父さんのご飯がまずいって言ってる訳じゃ無いって。ただ気になったんだよ」


 「・・・( ◠‿◠ )」


 「いつも作るのは面倒なのよ。私栄養管理士の仕事してるし、料理=仕事みたいなものなのよね。家でまで仕事のこと思い出したくないし。まあ、お父さんは料理人だし、料理が好きだから普段からやってくれるのよ」


 そう言って明子さんは気怠そうに話している。


 「にしても、やっぱ目玉焼きにはソースだな。どこかの醤油がいいとか言ってる人にはこのうまさが分からないなんて、残念だなあー」


 ピリッ。


 「・・・は?それはこっちの台詞。醤油こそ至高。ソースは邪道」


 ピリピリッ。


 「はあ?逆に決まってんだろ。なんで醤油なんかつけて食えんのかが俺には分からんね!」


 「・・・このさっぱり感がわからないとは、お兄は残念」


 「あ?」 「は?」


 わお、また始まった。味の不一致による兄妹喧嘩。周りの空気がピリピリしてきたぞ。


 「・・・大体なんでそんな物付けて目玉焼き食べるのかがわたしにはわからない」


 「こんな物とはなんだ!醤油つけてるやつに言われたかないね!」


 「・・・むむむむむむ」

 「ぐぐぐぐぐぐ」


 どんどん激しくなってきた。まあ僕はこの争いには関わりたくない。絶対面倒なことになるから。


 「じゃあ父さんに決めてもらおうぜ!どっちかなんて考える必要ないけどな!」


 「・・・父さん、どっち?まあ、決まってるけど」


 「・・・( ゚д゚)」


 ちょっと堂蔵さん、そんな目でこっちみないでください。


 『どっち!?』


 「・・・(=^▽^)σ」


 「・・・そうだね。折角だからお兄の友達に決めてもらおう」


 え?


 「そうだな。太郎に決めてもらおうか」


 え?


 「太郎はどっちだ?まあ決まってるだろうがな!」


 「・・・決まってるよね?」


 堂蔵さん、こっちに振りやがったー!?


 僕はすぐに堂蔵さんの方を向く。すると、


 「・・・( ✌︎'ω')✌︎」


 うわ、ピースしてやがる!?なんて嬉しそうな、そしてうざい顔つきしてるんだ、あの人!


 『どっち!?』


 やべえ来た。


 「え、ええーと」


 『・・・』


 「・・・・・・ワサビ、かな?」


 『・・・』


 「・・・」


 「・・・( ´_ゝ`)」


 『ちょっとそれは、ないかなー・・・』

 「すいませんでしたー!?・・・っていうか明子さん!何しれっと遠ざかってるんですか!?」


 「ごめんなさいね。関わりたくなかったから」


 『ひどい!?』


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8月15日 土曜日


 今日は日比野一家の争いに巻き込まれました。最初は堂蔵さんに振られていた目玉焼きソース派醤油派戦争が、いつの間にかこっちに振られていました。僕はわさびをつけて食べるのがいいと答えると、全員から『こいつマジ・・・?』みたいな目を向けられました。それもこれも全部堂蔵さんが悪い。









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或る家族の一日 カレー餅 @omotti

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