第174話

 十月十日、セリアス団は朝一で女神像を経て、封印区画へと直行した。

 メンバーはセリアス、イーニア、グウェノ、ハイン、ジュノー、メルメダ。ソアラは鎧と一体となり、テレパシーで話しかけてくる。

『マスターと戦えること感無量です。さあ、早くご出陣を!』

「そう急かすな」

 封印区画ではエディンが待っていた。

「来たか、勇敢なる剣士たちよ。そなたらなら勝てると、われも信じておる」

「よしてくれよ、王様。オレたちは別に正義の味方ってわけじゃねえんだからさ」

 グウェノの左脚では叡智のタリスマンが、ハインの右腕では剛勇のタリスマンが輝く。

「拙僧らの底力を、かの王に見せてやるとするか」

 イーニアの胸元でも慈愛のタリスマンが穏やかな光を湛えた。

「この日のために私たちは……」

 タリスマンを持たないメルメダやジュノーも体調・装備ともに万全に整っている。

「思い詰めても逆効果よ? イーニア」

「僕たちもフォローしますから。軽く片付けて、打ち上げと行きましょう」

「……はい!」

 最後の封印を前にして、リーダーのセリアスはコズミック・スレイヤーを引き抜いた。それを逆手に持ち替え、メンバーに目配せする。

「始めるぞ。開け、五十年前の封印よ!」

 聖剣が祭壇の中央に突き刺さった。

 長い地鳴りのあと、封印区画の壁や床に波動が広がっていった。それまで石だった血管が脈動を始め、まるで生き物の臓器のような姿を露にする。

「げえっ? 気色悪ぃなあ……」

「これが封印区画の正体なんですね。かの王は、ここから外へ……」

 エディンがその名を口にした。

「まさに『胎内』とはこれのことぞ。われはここで、やつの邪気を食い止めよう」

「ああ、頼む」

 セリアス団は最後の秘境『胎内』へ挑む。


 同時刻――城塞都市グランツは厳戒態勢の最中にあった。

すでに住民の避難は完了し、王国軍と冒険者たちは外壁で敵を待つ。バルザックは布陣の中央で指揮を執りながら、セリアス団の無事と成功を祈っていた。

「このまま何も起こらなければ、一番なんだが……」

 シビトの大群が押し寄せるような事態になれば、優秀な兵も損耗は避けられない。第二の災厄など始まらず、過剰な防衛は自分の狂言として片付けてしまいたかった。

 部下のサフィーユが双眼鏡越しに目を凝らす。

「……っ? し、少佐! ゾンビです!」

「来たか!」

 かくしてバルザックの期待とは裏腹に、五十年前の悪夢は再来した。

 指揮官の勇ましい檄が飛ぶ。

「シビトを一匹たりとも街に入れるんじゃないぞ! 総員、戦闘開始ッ!」

 それに呼応して、王国軍の精鋭たちも雄叫びをあげた。

「おれたちも行くぜ!」

 ギルドを始め、冒険者の面々も果敢に突撃する。

 城塞都市グランツの存亡を、そして大陸の未来を懸けた一大決戦が、幕を開けた。


 封印区画の下には『胎内』が広がっている。

 焦燥感に駆られながらも、セリアス団は慎重に歩を進めた。

「これを一日で突破しろって? どこまであるんだか」

「街のほうも気掛かりだのう……シビトなんぞ出ておらなければ、よいのだが」

 これまでの秘境とは異なり、おぞましい邪気が充満している。あの『赤い神殿』に似ている気もして、セリアスは固唾を飲んだ。

「それはそうと……その鎧、重くねえのか? セリアス」

『失礼な男ですのね。女性に重い、ですって?』

 ソルアーマーの精霊が緊張感をぶった切る。

「……羽根のように軽いぞ」

「へえ~。鍛え方が違うんだなあ、やっぱ」

 この面子で『胎内』に挑むのが、すこぶる不安になってきた。

「道は分かるか? イーニア」

「いいえ。コンパスも反応が強すぎて……」

 コンパスの針はぐるぐると不規則な回転を続ける。

「勘で進むしかないわね。セリアス、そういうのは得意でしょう?」

「簡単に言ってくれるな……」

 脈打つ通路の向こうから、わらわらと奇妙なモンスターが近づいてきた。脈動せし坑道で出会った、あの蜘蛛のようなミミックが怪音波を放つ。

「正体を隠す気もねえのかよ? あいつら」

「右は僕がやります!」

 逸早くジュノーが駆け、ミミックの一体を真っ二つに仕上げた。

 セリアスもコズミック・スレイヤーを引き抜く。

「イーニアとメルメダは温存してくれ」

「オレの矢はもったいないなんて、言うんじゃねえぞ? そらっ!」

 しかしセリアスより先に、グウェノの矢がミミックを二体まとめて貫いた。

「ふ……飛ばしすぎてないか?」

「セリアスこそ。今回は相当、気負っちまってんだろ」

 最後の一体はハインが蹴飛ばす。

「さあ行くぞ!」

「あっ、待ってください! ハイン」

 出だしは上々。だが、休む間もなく次のモンスターが出現する。

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