寒緋の怨

作者 田所米子

夫と弟の恋のために、自分を徹底的にないがしろにされた女は

  • ★★★ Excellent!!!

さて、ここでいうのもはばかられますが、私は昔、四年間ずーっと好きだった人が同性愛者だったことがあります。
早く恋人がいると言ってくれればよかったのに。話すにも値しない存在だと思われていたのでしょうか。あれほど仲が良かったはずだったのに。
私はその人の「彼」とも知り合いで(一緒に同じ部活してた)、夏のとある日、その人から「彼と距離を置いて欲しい」と頭を下げられました。
衝撃でした。失恋以上の何かを味わったような気がします。

もし、その人が目の前の「彼」に出会わなかったとしても、私がいくら好かれるよう頑張ったとしても、そもそもその人とは結ばれるような資格は私になかった。資格がないのにずっとつきまとっていた。一緒に蕎麦を食べたりドーナッツを食べたり、神社で「今年こそ告白できますように」だなんて野望をぶちまける資格さえなかった。私が女だから。私に向かってシャッターは閉じていたのです。

だから、その人にも「彼」にも申し訳なさ過ぎて、辛くてたまりませんでした。

……などという昔の複雑極まりない傷を……何故か思い出す作品です。
思えばきちんと「失恋」だと苦しんでいなかった気がします。彼らの関係は素晴らしいものなのだから祝福してあげなくてはいけないと、自分を抑圧していました。悔しがったり悲しがったり、二人の不幸を祈ってしまう自分は差別主義者なんだと。
けれどこの話を読むと、私の経験とはまるで違いますが、ちゃんと悲しがってもいいし、怨んでもいいのだと過去の自分を抱きしめることができました。

弟を愛した夫。そもそも自分と結婚したのも弟と近づくためのもの。
そんな少女は、どうすればよいのでしょう。夫と弟の恋のために、自分を徹底的にないがしろにされた女は。
私とは違ってそもそも夫を愛していなかったでしょうし、弟と夫が何をしていようと関係ありません。でも、夫と弟はヒロインを見下し続けた。
そもそもヒロインなど介さなければよかったのに。しかも下手なごまかし方をして、彼女を見下して。
その怨みたるや、まるで寒緋桜か血の赤を思わせます。

おそらく、良識ある人はヒロインのその怨みに眉を顰めるものでしょうが、私は自分の経験から、とても愛しく思えるのです。

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