第5話 少しはフォローしてよ!

 二人は橋本駅近くにあるイタリア料理の店でランチを取った。有吾がボロネーゼ、真波がカルボナーラを頼んだが、真波が女性特有の「一口ちょうだい攻撃」を展開し、それに抵抗する有吾と激しいバトルが繰り広げられた。

 向井の自宅マンションは七階建てで比較的新しい。外観にはタイルが施され、暖かさを感じさせるベージュで統一されているが、その色彩を無視するように立ち入りを制限する規制線が一部に張られていた。

 マンションの正面玄関に向かうと、そこにはスーツ姿の中年男と真波と年齢差がない女性が並んで立っていた。その近くにパトカーが停車されていたことから、真波は神奈川県警の職員だと見当をつけてバッヂを見せた。

「刑事局刑事部捜査第一課の北条です。急なお願いで申し訳ありません」

「仕事ですから」

 二人は短く答えた。警視庁のベテラン刑事に比べれば丁寧だが、どこか突き放してくる印象がある。お前たちは招かれざる客だということを無言で押し付けているようだ。だが、そんなことを気にしない男もいる。

「そんじゃ、出入り口付近の確認から始めるか」

 周囲を見回しながら有吾が言うと、二人の刑事は訝しい目を向けた。真波が慌てて紹介する。

「こちら、氏家研究所の調子有吾博士です」

「えっ、民間事業者から招いている識者……ですか。もっと年配の方を想像していましたよ」

「若くて頼りなさそうに見えるかもしれませんが、教授級の待遇を受けている研究者なんですよ。口が悪くて捻くれ者で、自分勝手で嫌みな男ですけど、博士号を二つも持っていますから」

「おい、後半は単なる悪口になっているぞ」

「本当のことを言っただけです」

「パスタをやらなかっただけで、なに怒ってんだよ」

「たった一口をケチる男とか、サイテーですよ」

「男は領土を侵されると頭にくるんだよ、そうだよな?」

 有吾が男性刑事に尋ねると、苦笑いで返した。

「一口くらい分けてくれても、罰は当たりませんよね?」

 真波が女性刑事に同意を求めると、やはり苦笑いが返って来た。

「男の脳と女の脳は違うんだよ」

「それがわかっているんだから、女に合わせてくれたっていいじゃないですか。それが男の優しさというものでしょ」

「言っただろう、俺は佳い女にしか譲歩しない」

「サイッテー」

「俺は最低じゃない、最悪なんだよ」

「同じことじゃないですか!」

「あの〜、お取り込み中のところ申し訳有りませんが、さっさと現場検証を済ませてもらえませんか」

 呆れた口調で男性刑事が言うと、二人は一時休戦協定を結んで玄関の確認を始めた。オートロックがついた自動ドアを抜けた正面にエレベーターが設置され、右手には郵便受けが並んでいる。

 有吾がキョロキョロしながら訊ねた。

「防犯カメラが有ると聞いたが」

「天井に設置されていますよ」

 見上げると自動ドアを抜けた所に左右二箇所、ドーム型のカメラが出入りする人を捉えていた。

「正面玄関からエレベーター前まで捉えています。エレベーター内にもカメラがありまして、死角はありません」

「最近不具合があったとか、更新作業をしたとか、変わったことはないか」

「ありませんね。事件前後の時間帯で抜けている映像もありませんし、異常なしですよ」

「その映像に反町京子は写っていなかった。それでも重要参考人になっているのは、他に出入り口があるからだな」

「ええ。裏に通用口があります」

 エレベーターから5メートルほど外れた場所に、スチール製の扉が設置されていた。

「こちらもオートロック式ですが、防犯カメラはついていません。内側から開けるのは自由ですが、外から入るには住人が持つ鍵が必要です」

「これが新島との会話で最後に言いかけた事か」

 有吾が確認すると、真波は頷いた。

「彼女が帰ってしまったので尻切れとんぼに終わっていましたが、誰かが内側から開けて出て行くときに、住人の振りをしてここから入ることが可能なんですよ。そのまま端の階段を使って上がれば、カメラに映り込むことはありません」

「殺すことは誰にでも出来た、そういうことだな」

 建物の裏手に出ると、そこには駐車場と駐輪場が設置されていた。隣の建物との間には道路があり、車がすれ違う程度の幅はある。

「この裏口を利用する住人は多いのか」

「駅に向かうには正面玄関の方が近いので、通学通勤には防犯カメラを通って行き来しますが、それ以外では裏口を利用する住人の方が圧倒的に多いそうです。車や自転車を利用するには裏口から出た方が便利ですし、コンビニや深夜営業のスーパーに近いのも裏口なので」

「なるほどね」

 頷きながら道路に出ると、有吾は敷地脇の道路に自動販売機が設置されているのに気づいた。それを起点にして、建物から離れて行く。

「ちょっと博士、どこへ行くんですか」

 真波の呼びかけにも答えず一本向こうの道まで歩くと、左右の人差し指と親指を九十度に広げ、それを重ね合わせて長方形を作った。徐にファインダーを覗き込むようなポーズを見せる。

「記念写真でも撮るつもりですか?」

「なんの記念もないだろうが」

「そこは『君と僕が出会った運命の日だから』とか言って欲しいところですね」

「今日は間違いなく仏滅だろ」

「例え仏が滅しても、天使の私がいるから大丈夫ですよ」

「……お前、すげえな」

 有吾は「ここに立ってお前も見てみろ」と真波を促した。不承不承ながら隣に立って同じように覗き見ると、ハッと目を見開いた。

「この構図、どこかで見覚えがありますよ」

「新島のスマホだよ。帰宅を確認したら、ここから向井を望遠で捉えていたんだ」

「通用口も見えるし、部屋の窓も見えるから電気の点灯や消灯も確認できる。ストーキングにはもってこいの場所ですね」

「シャッターチャンスを逃さないよう、裏口から出てくる人を片っ端から撮っていたんだろうな。愛しているとはいえ、恐ろしい執念だ」

 二人の会話を聞いていた男性刑事が呆れ顔で肩をすくめた。

「どうやらサッチョウは警視庁と同じく、どうしても新島を犯人に仕立て上げたいようですね」

「いや、そういうわけでは……」

 自治体警察の機嫌を損ねたくない真波は顔を引き攣らせた。

「五年前の事件でメンツを潰された警視庁を慰めたいのか、それとも直轄の首都警察だから守ってやりたいのか知りませんが、公正を欠いた調整は止めて頂きたい」

「いや、警察庁としてはどちらかを贔屓にするつもりはなく、あくまで円滑な捜査に寄与するために調整をしているわけで……」

「その割にはこうして現場まで足を運んでいる。通常なら捜査本部に顔を出す事さえ珍しいのに」

「いや、それは民間事業者である博士が現場を確認したいということで、その要望を叶えたまでのことで……」

 真波が警察庁のスタンスを明確にしても、神奈川県警には言い訳にしか聞こえなかった。真波に対して詐欺師でも見るような目を向けている二人の刑事を見て、有吾が嘲笑を浮かべた。

「バッカじゃねえの」

「なんですって?」

 二人の刑事が睨みつけてきた。真波が慌てて有吾の袖を引っ張る。

「ちょっと、止めてください」

 そう言われて引っ込むような男ではない。

「サッチョウは自治体警察なんて眼中にねえんだよ。それを贔屓だの肩入れだの、自意識過剰にも程が有るだろ」

「単に我々が僻んでいるだけだと仰りたいのですか」

「そのとおりだよ。お前らはきっと、アポロの月面着陸は捏造だとか、アメリカ政府はニューメキシコ州のロズウェルで宇宙人を匿っているとか、そういった陰謀説や都市伝説を信じるタイプだろ」

 図星を突かれた二人は、思わず顔を顰めた。

「科学的根拠の無い妄想を事実だと思い込むのは軽い統合失調症だ。カウンセリングでも受けてその偏執的な考え方や分裂気質を叩き直せよ」

「あなた方がこうして現場にいる事実が、何よりの根拠でしょう」

「よく考えてみろよ。サッチョウが本気で警視庁に肩入れする気なら、こんなバカでドジで口うるさい夢見る天然小娘を捜査に加えると思うか?」

「ちょっと! 私の事を悪く言い過ぎでしょうが!」

 怒り出す真波の横で、男性刑事が頷いた。

「博士の言う事にも一理ありますね」

「少しはフォローしてよ! 同業者でしょ!」

 泣くぞ! と子どものような脅しで真波が牽制すると、有吾と二人の刑事は互いの主張を鞘に収めて向井の自宅へ移動した。

 エレベーターで六階に向かう。降りた正面にある601号室が向井の部屋だ。ここにも扉を塞ぐように規制線が張られている。カメラ付きのインターフォンを確認した有吾は、鍵穴を覗きながら訊ねた。

「角部屋か。602の住人は事件当日に物音を聞いていないか?」

「出勤中で不在だったそうです。一応、職場の確認も取ってあります」

「水商売?」

「町田にあるキャバクラに勤めています。上下の住人にも聞きましたが、特に争うような物音は聞かなかったと証言を得ています」

「鍵穴をいじった跡もないということは、向井は犯人を招き入れたと考えた方が自然だな」

 男性刑事が手袋をはめた手でドアノブを捻った。ドアは音を立てることなくスムーズに開いた。

 室内は1LDKの洋室で、入ってすぐキッチンとその先にリビングが広がり、向かって右手に四畳半ほどのベッドルームがある。必要最小限の家具と電化製品しか置かれていないが、シンプルながらセンスを感じさせる部屋作りがなされていた。

「オシャレな部屋」

 真波が感嘆を漏らすと有吾は頷いた。

「流石はデザイナーだな。モノトーン調にまとめられていて落ち着きがある」

「綺麗好きな方だったようですね。イケメンで清潔感があるなんて、つくづく惜しい人を亡くしましたよ」

「男は多少汚れているくらいで丁度いいんだよ。ここまでくると潔癖性だろ」

 それを聞いた男性刑事が口を挟んだ。

「向井は定期的にプロのルームクリーニングを頼んでいまして、事件当日の昼間に特別清掃を実施しているんです」

「フローリングの床がピカピカなのは、ワックス塗り立てだからか。これだけ綺麗になるのなら、俺も頼もうかな」

「博士の部屋は汚いんですか?」

「それほどでもない。ゴキブリは三日に一度しか出ないから」

「充分汚いでしょうが! ちゃんと掃除してくださいよ」

「研究が忙しくて掃除する暇がないんだよ」

「カノジョに頼めばいいじゃないですか。いないんですか?」

「世界中の女性が俺の恋人さ」

「バッカじゃないの」

「おい! 貴様が言って欲しそうな事を言ってやったんだろうが!」

「世界中の女性が恋人なんて、自分は浮気性バリバリだって宣言しているようなものじゃないですか。こういう時は『カノジョって運命の人のこと? だったら今、僕の目の前にいるよ』と言うんです」

「……お前には勝てねえ」

「当たり前でしょう。こう見えても私、生粋の『妄想女子』ですから」

「そうにしか見えねえよ」

 呆れながらリビングへ向かう。正面にバルコニーへ出るガラス戸があり、向かって左側の壁に沿う形で薄型テレビが置かれていた。その反対側にはテレビと向かい合う形で二人掛けのソファがあり、真ん中に小型のテーブルが置かれている。もう一つ、キッチン寄りに一人掛けのソファがあるが横に倒れていて、その傍には人型が残されていた。

「向井はここで死んでいたのか」

「一人掛け用のソファに座っていたところ後ろから紐状のモノで首を絞められ、倒れ込んだようです」

「テレビの正面にある二人掛けのベンチソファではなく、あえて一人掛けのソファに座っていたということは――」

「二人掛け用には犯人が座っていた。やはり犯人は招き入れられた人物、顔見知りの犯行ということですね」

 真波が言葉をつなぐと、有吾は曖昧に頷いた。

「あくまで座っていたという事が前提だ。もしかしたら立った状態で締められているかもしれない」

「試しに博士の首を絞めて、事件当日を再現してみましょうか」

「……貴様、俺に殺意を抱いているだろ」

「いやだなあ、博士なら殺しても死なないでしょ?」

「矛盾が命懸けってどういうことだよ!」

 二人のやり取りに苦笑いを浮かべながら、男性刑事が口を挟んだ。

「座っていた状態で殺された蓋然性が高いんですよ。ソファの背もたれ上部に毛髪が複数付着していたので、締められた時に後頭部をそこに押し付けたと考えられます」

「なるほど、だがテーブルの上にはグラスもカップも出ていない。片付けたのか?」

「最初から何もありませんでした」

「飲み物一つ出さないというのは変だな」

「犯人が断ったのかもしれません。すぐに失礼するからと」

「そうであるならば、犯人は最初から殺す気満々で来たということだな」

 有吾はその部屋にあるものを一つ一つ見て行った。だが目に付くモノも違和感もない。

「反町京子とは連絡を取り合っていた。ここに招かれていた可能性もある。神奈川県警が疑いの目を向けるのも頷けるな」

「ということは、博士は反町京子が被疑者の最有力候補だと見ているのですか」

「わからねえ。向井の遺体から薬物反応は出ているのか?」

「いいえ、何一つありませんでした」

「だとしたら、反町京子による犯行であっても実行犯は別にいるな」

 二人の刑事の目の顔つきが変わった。真波も驚きの声を上げる。

「なぜそう言えるんですか?」

「写真に写っていた自動販売機と比較すると、向井は身長180ほどあってモデル体型、比較的がっちりしている。それに対して反町京子は今年で何歳になる?」

 その質問には男性刑事が答えた。

「六十ですね。小柄な女性で実年齢より老けて見えます」

「いくら後ろから襲ったとはいえ、そんな非力な婆さんが相手なら振りほどけるだろ」

「薬物反応は出ませんでしたが、スタンガンで体の自由を奪ったのかもしれませんよ」

「だったら傷痕が残る。司法解剖でそれが判明していれば、神奈川県警はスタンガンの入手ルートを洗っていると警察庁にも情報が入るだろ」

「まさか、秘密裏に捜査を進めているとか?」

 真波が訊ねると、二人の刑事は有り得ないと首を振った。

「首を絞めた痕跡以外に不自然な点は見当たりませんでした。その解剖結果は警視庁、警察庁双方にも届いているはず」

「ですよね。そうなると、向井が招き入れた客は反町京子の他にもう一人いるってことですか?」

「もしくは反町京子の代理人と称して一人で来たか。あくまで反町京子が主犯だったらという仮定での話しだけどな」

 そう答えてから、有吾はキッチン周りを見て行った。ケトルとフライパンがあるだけで、調理具が充実しているとは言いがたい。

 続けて冷蔵庫を開けてみると、やはり外食が多いのか食材や調味料はほとんどなかった。ミネラルウォーターやスポーツドリンクに混ざって、発売されたばかりのボジョレーヌーボが未開封のまま寝ている。すぐに食べられるモノといえば、生ハムとチーズだけだった。

「寝に帰るだけの場所って感じだな」

「それだけ仕事に没頭していたのでしょう。だからこそ、五年前にアイディアを盗まれて激怒した」

「お前から見てどうだ、この部屋に女の出入りを感じるか?」

「女の匂いはしませんね。向井にとっては仕事が恋人だったのかもしれません」

「もしくは新島のストーキング対策で、ここには呼ばなかったのかもしれないぜ。向井の交友関係はどうなっているんだ?」

 有吾が訊ねると、女性刑事が手許の資料を開いた。

「特定の恋人がいた形跡はありません。ダテ・モードはアジアへの本格的進出が決まり、向井はそのプロジェクトリーダーに選ばれていたため、仕事に燃えていたようです」

「二十代の若さでビッグプロジェクトの責任者か。社内での僻みも多かったんじゃないのか」

「それが、向井を悪くいう同僚や関係者はいないんですよ。みんな彼の実力と人柄を認めているようで」

「そんな向井を殺害する動機を持つものは限られているってことだな」

「新島朋子か、それとも反町京子か。博士はどちらだと思います?」

「判断できねえな。もう面倒くせえからさ、ジャンケンで決めれば良いんじゃね?」

「バカなことを言わないでくださいよ。どこの世界に殺人犯をグーチョキパーで判断する警察がいるんですか」

「お前が史上初の『ジャンケンデカ』になれば良いだろ」

「そんな黒歴史、作る気はありません」

「そうハナから否定せずに考えてみろって。無実なのにジャンケンで負けたら、お前ならどうする?」

「そりゃ身の潔白を主張しますよ」

「そのために自分がシロである証拠をかき集めるだろ?」

「当然でしょう」

「つまり重要参考人が自ら証拠集めをしてくれるんだ、楽チンじゃん」

「……博士、もしかしてこの捜査に飽きていません?」

「そんなことはねえよ。ただ嫌気がさしているだけで」

「それを飽きと言うんでしょうが! 本当にB型は飽きっぽいんだから」

「密室トリックとか、大胆な劇場型犯行なら燃えるけどよ、どっちが殺したのかなんて捜査は地味すぎるだろ。犯行前後の言動を地道に洗って行くしかねえんだからさ」

「はは〜ん、そういうことですか」

 真波がニヤニヤ笑いながら有吾を見た。

「なんだよ、そのイヤらしいブサイクな目は」

「ブサイクは余計でしょうが! 博士、本当は犯人像が見えなくて困っているんじゃないですか?」

「はあ?」

「真相解明はできそうもない。このままでは専門家としてのメンツに関わる。そこで事件が退屈だと言い訳を述べ、逃げようという魂胆ですね」

「何を言ってんだよ。こんな事件、俺クラスが本気になればチョチョイのチョッチュネーだぜ」

「なんで具志堅さんが出てくるのかわかりませんけどね、そういう大口は結果を出してから叩いてくださいよ」

「いいだろう、すぐに犯人を絞り込んでやるよ」

 単純な男だと真波は心の中でほくそ笑んだ。博士号を2つ持っていても、所詮女の狡賢さには勝てないのよと呟いていると、すぐに竹篦返しが来た。

「その代わり俺が犯人を見つけたら、お前には『生意気なことを言って申し訳ありませんでした』と、尻文字で謝罪してもらうからな」

「エエッ!」

「同僚が大勢いる捜査本部やってもらうぞ」

「なんで私が生き恥を晒すような謝罪をしなければならないんですか」

「もう充分晒しているから大丈夫だろ」

「言われてみればそうですね……なんて言うと思いますか!」

「はは〜ん、さては怖いんだな」

「何がですか」

「警視庁や神奈川県警だけでなく、警察庁まで調整に出張っている、言わば警察組織が総出で捜査しているのに、五年前の事件も今回の事件も解決の糸口さえ見出せていない。にもかかわらず、たった一人の研究者があっという間に犯人を特定したら、警察はメンツが丸つぶれだもんな」

「いくら飛び級を重ねた天才でも、簡単に解決できるわけがないでしょ」

「だったら尻文字の罰を受けて立つはずだ。本当は俺の能力に脅威を感じてビビッているんだろ。素直に認めろよ」

「誰がB型ワガママ博士なんかに怖じ気づくものですか。いいでしょう、尻でもなんでも謝罪しようじゃないですか」

「よし、男と男の約束だ」

「私は女ですけど、約束しますよ」

 それを聞いた有吾がニヤリと笑った。真波は「あれ? 何かオカシイな」と首を傾げる。

「この現場はもういいだろう。次は反町京子と話しをさせろ」

「それは無理です」

 真波が答えるよりも先に男性刑事が告げた。予め用意していた拒否のように見える。

「なぜだ?」

「反町京子は逮捕されたわけではなく、あくまで任意同行ですから留置できません。今までに三度出頭してもらっていますが、その日の夕方には解放しているんです」

「そろそろ取り調べが終わる時間ってわけか。だったら家に帰るまで付き添いながら話しを聞くさ」

「いや、しかし……」

「公道を歩く一般市民に話しかけては行けない法律なんてあるのか?」

「それは……ありませんが」

「そんじゃ、神奈川県警のパトカーで送ってくれよ」

 一方的に命じると有吾はさっさと向井の自宅から出て行く。呆れている刑事二人に、真波は苦笑いで「お願いしまーす」と頭を下げた。

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