第19話 お嬢様と本気の意味

 放課後。

 授業が終わった私とジェラちゃんは、食堂の裏にむかった。


 食堂の裏庭側には、キナコとリリーちゃん、ガトーくんが待機するらしい。


 だって。

 先輩、朝にクラスの前で話したから……。

 それは、みんな気づくよね……。


 しかも!

 食堂の裏庭側の席って、裏庭の会話が少しだけ聞こえるんだって。

 告白の時には、応援してる子が待機するスペースとして有名なんだって。


 ……なにそれ。


 なんで、そんなところが告白の場所になってるのさ!

 ゲームではキレイな場所だなぁくらいで、そんな話なかったのに。



「まぁ、それじゃあ。計画通り私が先に木の裏隠れるから」

「うん。たぶんみんなが期待してるようなことはないと思うけどなぁ」

「そんなのわからないじゃない! これ以上ゲームと内容変えられたら迷惑なのよ!」


 食堂裏の角の道を曲がると。


 ――裏庭の大きな木の下に、グラウス先輩が立っていた。


「ちょっとストップ! ジェラちゃん。先輩もういるんだけど!」

「はぁ? 授業終わってすぐに来たのよ? 場所的にも私たちのが近いし……」


 先輩は、軽く手を上げた。

 私と、ジェラちゃんを見て少し楽しそうに笑っている。 


「やぁ、思ったより早かったですね」

「な……なによ?」

「いや、きっとジェラ様はついてくると思いましたよ」

「なんでそう思うのよ!」


 先輩は片目を閉じて、人差し指を唇にあてる。


「なぁに、簡単な推理ですよ。きっと貴女は、この木の裏に隠れてクレナちゃんを助けるだろうなぁと」

「べべべ、べつに、クレナを助けたくて来たわけじゃないわよ!」

「そうかなぁ?」

「たまたま偶然通りかかっただけよ! クレナ、あとは頑張ってね!!」


 そう言うと、今きた食堂の方へ戻っていく。


 ちょっと……ジェラちゃん?

 建物からスカートの影が見えてるんですけど?!


 その場所で見守ってくれるんだと思うんだけど。

 おもいっきりバレてるから!


「あはは、別にいてくれても良かったんですけどね」


 さわやかに笑う、グラウス先輩。

 笑顔がすごく……美しい。

 ジェラちゃんがいても良かったってことは、告白とかじゃなさそう。

 

 なぁんだ~。

 場所がここだったから、緊張したけど。

 ふぅ、安心したよー。


 そういえば。

 でも、先輩、どうやって私たちより早く来れたのかな?

 もしかして、ゲートの魔法とか……。

 

「自分たちの方が早くきたつもりだったのに、なぜって顔ですか?」


 ぐっ。

 確かに今そう思ったんだけど。


「ゲート……とかですか?」

「ゲートなんて高度な移動魔法は使ってないよ」

「そうなですか? じゃあ、えーと」


「午後の授業を休んでここにいた、が正解です」

「え?」

「真実なんて、案外こんな風に単純だったりするんですよ」


 いや、なんかカッコつけてますけど。

 さらっと、とんでもないこと言いませんでした?


「午後はね、この木の下で、ずっと君のことを考えてたんですよ」


 あれ?

 なんだろう。


 この雰囲気は……ダメな気がする。

 何か違う話を振らないと。

 

 えーと。

 えーと。


「そ、そういえば!」

「どうしたの?」


 甘い顔で微笑みかけてくる。

 水色の髪が、陽の光でキラキラ光ってるみたいで。

 本当に、美人な人だ。


 反則!

 反則だよ!


 そんな顔で見つめてくるなんで。 

 

「この間のダンジョン攻略って、本当は行きたくなかったんですか?」

「なんでそう思ったの?」


「えーと。ほら、図書館でファニエ先輩と一緒に来た時、あんまり楽しそうじゃなかったから」


 あの時、みんな目が死んでたよね。

 ファニエ先輩以外。


「ああ。あれはね、ファニエに脅されてたんですよ」

「脅し? ファニエ先輩が?!」


「あれで、ファニエって感が鋭くてね。僕らの好きな子を全員当てられたんです」

「……え?」


「バラされたくなかったら、一緒にダンジョンについてこいって。鬼ですよね~」


 片手を口にあてて、楽しそうに笑う。

 どうみても。

 美人のお姉さんが男装してるみたいに見えるんですけど。

 

「まぁ、今考えたら。僕もティル先輩も、シュトレ王子も。バラされても平気なんですよね」

「そう……なんですか?」


 脳が危険信号を知らせてくる。

 ダメだ。

 この会話を続けたらダメな気がする。


「……あの!」


「クレナちゃん、僕はキミが好きだ!」


 ……。


 …………。

 

 ………………え?



「あの。だだだだって、私、シュトレ王子と!」


「でも、君とシュトレ王子は仮の婚約者ですよね?」


「……え? 知ってるんですか?」


「やっぱりね。僕なりに色々調べたんですよ。……昔、王宮で君を見かけた時からずっと」

「え?」


 もしかして。

 今の……失敗した?


「ち、ちがいます! ちゃんと婚約者ですから。あ。あと、初めてお会いしたのって生徒会室ですよね?」


 ダメだ。

 何が言いたいのか自分でもわからない。


 ……どうしよう。

 

「ちがうんですよ。僕は……君が小さい頃からずっと知っています」

「え?」


「王宮で同い年くらいの可愛い女の子が、ドラゴンを連れて歩いているのをよく見かけたんです」


 王宮には、子供の頃から行ってるけど。

 王様に呼ばれたり。

 ジェラちゃんやガトーくん。


 それと。


 ……シュトレ王子に会いに行ったり。



「ふふ、僕が推理好きになったのは、君の影響なんですよ」


 澄んだ青い瞳で、私を見つめるグラウス先輩。 

 水色の髪が、さらさらと風にゆれて。すごく綺麗。


 ――思わず、息をのむ。

 

 なにこれ。

 なにこれ。

 なにこれ。


 意味も展開も全然わからないけど。


 このセリフとシーンは……よく知ってる。

 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』の。


 『グラウスルート』の好感度MAXの時の告白。


 なんで?


 なんのイベントもなかったのに!

 まだ中等部だし、ゲームにもなってない時期なのに。


「クレナちゃん」

「は、はい!」


「君が、十五歳になったら。仮の婚約者じゃなくなったら。どうか僕との未来を考えて欲しい」


 

 先輩は。

 動けなくて固まってる私の手をとると、甲にキスをした。


 ええええええええええ!?


 ちょっと、星乙女ちゃん!

 まずいですよ。

 今すぐ召喚されてくれませんか!?

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