第10話 凶気

「睦月ー! 起きなさい!」

「う、うう…、気持ち悪い…、

頭痛い…。」


 昨日、家に帰った後、大晦日ということで親父と母さんにしこたま飲まされたが故に、絶賛二日酔い中である…。

 俺は水を飲むために、アルコールの抜け切っていない石のように重い身体を起こし、一階の台所に向かった。


俺が台所に顔を出すと、


「あら、珍しく一声で起きたわね。」

「気持ち悪くてね…、母さん水くれ…。」

「だらしないわね…、若いのに。」

「あんた達が、異常なんだよ…。

あー、21歳の誕生日の朝が二日酔いと

は…。」

「そっか、あんた今日、誕生日か!じゃー、

これあげるわね!」


母さんが冷蔵庫から取り出してきたのは二日酔いに効くドリンクだ。

まー、この年になって誕生日プレゼントなんて欲しいとは言わないが、

(もう少し、どうにかならんかったか…?)


「あれ、親父とばあちゃんは?」

「あー、おばあちゃんは年寄りの集会、お父

さんは宮田さん家の手伝いに行ったわ。」


(ばあちゃんもう家出たのか、ちょっと話したかったんだけどな…。)


「親父の手伝いって何?」

「ビニールハウスが荒らされたそうなの

よ、それの片付けだって。臭いが酷いらし

いわよ?」

(ビニールハウス、臭い…。)


俺は弥生の家のビニールハウスを思い出し、眉をひそめた。


「あんたは今日、どうするの?」

「神社に行く。」

「あら、初詣? 変なところ真面目ね…。

皆、お家の祭壇で済ませてるのに…。」

「まー、そんなところ…。」

(ツキビトになったなんて言えないしな…。)



俺は一旦部屋に戻り、身支度を済ませてから家を出る。

そのまま神社に向かおうと思ったが 、弥生家のビニールハウスが気になり、寄って行くことにした。





弥生の家に着くと、例の腐った作物を軽トラに載せたおじさんに出くわした。


「おー、睦月君、明けましておめでとう。

弥生ならビニールハウスにいるぞ。」

「明けましておめでとうございます。

弥生がビニールハウスに?」

「気になったんじゃねーかな?

一応、自分の家のことだしな…。」


昨日は適当に流してたのに、弥生にも思うところがあったようだ…。


「俺は、これを捨ててくる。」


おじさんはそう言って、軽トラを走らせた。


ビニールハウスに行くと駄目になってしまった作物が、まだまだ残っていた。


(改めて見ると、やっぱり酷いな…。)







ビニールハウスの状況を再度確認していると、


[睦月! 逃げろ!]



と、突然イザヨイの声が頭の中で響いた。


その直後だった、「キャー」という悲鳴と共に倒れこんだ弥生が現れた。


「弥生!どうした!?」


俺が弥生に駆け寄ると、弥生はある方向に指を差し、「逃げて」と言った。


弥生が指を差した方を見ると、そこには

形を成さない"黒い煙"の塊がいた…。


(なんだよ…あれ…。)


俺は身体が震えだし、弥生を抱えたまま動けずにいると、黒い煙の塊がものすごい速さで襲い掛かってきた。


咄嗟に弥生を庇い、心の中で「駄目だ…。」と思った刹那、白い光が突如現れ、黒い煙の塊を追い払ったのである。


やがて、白い光も消えてしまい全身の力が抜ける…。





(いったい、何が起きているんだ…。)






















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