第3話 "しきたり"と"伝承" の謎

俺は今、ばあちゃんに代わって月守家が管理する神社に向かうため、山の中を歩いている…。


「はぁ、何でこんなことに…。」





その理由は、ばあちゃんと縁側で話をしていた1時間ほど前に遡る。




「睦月や、その話はちょいと違うんよ」


山を見つめながら、ばあちゃんは言った。


「え、ちょいと違うってどういうこと?

 伝承が間違っているってこと?」


俺は冷静に聞き返したが、内心は少し驚いていた。


「う〜ん、伝承自体は間違っておらんが、何て言ったらいいかねぇ…。」


「え、どういうこと?」


伝承自体は間違ってないが、少し話が違う?

ばあちゃんの発言に、頭の中は疑問で埋めつくされた。


「伝承の内容は、"そう伝えるようになった" だけなの。」


「そう伝えるようになった?じゃあ、他にちゃんとした伝承があるってこと?」


「まー、そういうことかの。」


ばあちゃんの適当な返しに、ますます疑問が生まれてくる。


(あれ? 伝承が他にあるなら家の "しきたり" にも何かあるんじゃ…。)



「なぁ、ばあちゃん、家の "しきたり" もそのちゃんとした伝承関係しているの? "しきたり" は神社を管理するだけじゃないの?」




するとばあちゃんは頷きながら


「そうよ」とだけ答えた。




会話が途切れ、ばあちゃんの話を一旦整理しようとほうじ茶を飲もうとしたが、すでに冷め切っていた。


整理すると、伝承の本当の内容は別にあり、月守家の "しきたり" は神社を管理するだけでなく、他にもするべきことがあるということ。


そして、一番の謎が、このことをばあちゃんが俺に話したことだ。



頭の中で話を整理していると、また、ばあちゃんが話し始めた。


「睦月や、私は14の頃からずっと家のしきたりにしたがってきた。来年には古希を迎える。だからの…そろそろ、引退しようかと思っているんよ…。

母さんにも言われたしの…。」


確かに…、高齢の身では正直なところ限界だと思う。あの山を徒歩で登るのは身体的に厳しいだろう。


「それでな、これからは睦月に任せようと思うんよ…。」


一番の謎があっさりと解けた。


「俺に!? いやいや!ばあちゃん! 俺、しきたりとか何も知らないし、急に言われても…。それに、まだ、伝承の本当の内容も教えてもらってないんだけど…。」


ばあちゃんの任せるという発言に俺は焦った。

数百年続いた "しきたり" 、家の伝統とも言えるものを、いきなり任せると言われたのだ…。


「睦月や、大学を休学するときに父さんと母さんにバレないよう、誰が "問題" を解決してやったかの〜?」


「それは……。」


ばあちゃんは、いたずらな笑みを浮かべながら俺を見ている。


正直、これを言われると痛い…。


「わかったよ…、」


俺は断ることができなかった…。


「よしよし、良い孫だ。じゃー、今から早速行ってもらおうかの!」


「え!今から!?」


「そう、掃き掃除はやっておくから早く着替えてらっしゃい!」



そして冒頭に戻る…。


「はぁ、何でこんなことに…。」


神社までの道のりは簡易的だが、ある程度舗装されており、体力がある人が歩くにとって不便はない。

ただ、登り坂を1時間ほど登るため、精神的にくる。


神社は、山の中腹に建てられており、入り口には真紅で荘厳な鳥居が建っている。


「はぁ…、やっと着いた。」


家を出る時、ばあちゃんに持たされた御神酒を両手で持ち直し、鳥居へと足を進めた。


(そう言えば、伝承の本当の内容は最後まで勿体ぶって教えてくれなかったな…。ばあちゃんは"入ることができれば分かるって" 言ってたな…。入ることができれば?ってなんだ?)


ばあちゃんの言ったことを思い返していると、すでに鳥居の前に立っていた。


(子供の頃にきたけど、変わらず綺麗だな…。)




そして、鳥居を潜るろうと、一礼した瞬間、真冬なのに春風が吹いたような違和感を覚えた。


(あれ? 歩いて来たからかな…?)


不思議に思ったが、

気のせいだと思い、鳥居を潜ると…、



信じられない光景が俺の目の前に現れた…。





最近、ずっと夢の中で見ていた、


あの満開の桜並木が、俺の目の前に現れたのだ…。






































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